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みんビグラム参加作まとめ


こんにちは、Σです。今月の「迅」でちょうど1年分の参加作がまとまったので、制作秘話的ななにかを残しておこうと思います。




2021-09 「ゆめ」


「ゆめ」


記念すべき第1回です。当時はまだ本格的にアンビグラムを制作するようになる前で(投稿作だと「ゆめ」が全体の3作目)、絶対に参加しようというほどの積極性は携えていませんでしたが、期限ギリギリにいい対応解釈を思いついてダッシュで制作しました。
主な意図は「他の作品と対応解釈がかぶらないようにしたい」というものです。

判読性の高い対応解釈だと、上図のいずれか(かそれに近い)解釈に落ち着くのが最短ルートな感じがしますし、実際これらが最適解に近そうです。これだけのアンビグラマビリティを有する単語だからこそ、考えうる限り最も納得のいく対応解釈を考えたかったのです。

そんなこんなで「ゆ」と「め」を対応させる方法を思い至れる限りいくつでも書き出してみた結果この解釈にたどりつきました。上図のように、余剰や不足の解消が運筆の流れを途切れさせない方法になっていて、今でもかなり気に入っています。
字面がシンプルなお題だったこともあって、判読性の高い解釈はすべて考え尽くしたと思っていたので、宮倉ひのさんの作品には圧倒されました。ゆりさんの作品ロボットさんの作品のアイデアも素敵です。「どんなに考えても自分には思いつけなかったものを思いつける人がいるものなんだ」という感動や驚きは、何十人もが同じ題材でアンビグラムを制作するみんビグラムならではの醍醐味です。



2021-10 「ひだまり」


「ひだまり」


こちらも「ゆめ」に続く4作目にあたる超初期作です。「1日1アンビ」を始めたのがちょうどこの月なんですが、みんビグラムがなかったらここまで「制作する側」にはなってなかったかもしれません。
4作目にしてすでに「ぼかしなどのアンビグラム的技法をいかに正当化するか(たとえばのちの、画質を極端に下げた「低画質」や、ピンぼけのようにした「遠近感」のように)」というようなことを考えていたので、木漏れ日に見立てる処理はわりとすんなり思いつきました。ぼかしを活用することが決まれば対応解釈はかなり融通が効くので、その点ではあまり特別なことはしていませんね。「ひ」の始筆の横画、「だ」の濁点と「ま」のムスビの対応、「ま」の始め2画を右側まで貫いているところなどに、ぼかしの技法らしさが出ているかと思います。
「り」では余剰になってしまいそうなこの「ひ」始筆部をどう解決するか(あるいはそのままにするか)が解釈が割れる部分でしょうか。セリフ体風に処理したくすさんの作品はシンプルでスマートな解法です。縦組みにすることで隣の「ま」との流れの中に処理したZnさんの作品や、「ひ」の後ろ側と隣の「だ」を一続きの流れに対応部分をずらし、そもそも余らないようにした宮倉ひのさんの作品も巧みですね。宮倉ひのさんのもう1作peanutsさんの作品の解決策なんかは、以前述べたような文字組みありきの解釈で複雑に筆画を貸し借りしており技巧的です。peanutsさんのもう1作はぼかしと近い発想ですが、断然かっこいいです。



2021-11 「道具」


「道具」


もう1日1アンビが始まっているころですが、まだ拙さが残りますね。対応解釈も妥当という感じです。しいていえば、図案をあしらうことで「辶」の余るパーツをどうにかしようとしているのは当時の模索が垣間見えます。
この回は特に「どうやったってこの対応解釈になるだろう」とまでいえる気持ちでこの解釈に安住していたなかで、文字単位での対応解釈もたくさん出てきて、もっと発想を広げられないとだめだなあという気持ちでした。fdwwさんの作品が特に好きです。AIRさんの作品アジャラカさんの作品もデフォルメが的確ですね。
「目」が2文字の間の共通点として大きな特徴に思えていたので、「目」どうしを対応させない宮倉ひのさんの作品peanutsさんの作品のような解は、なおさら私にはたどりつけえませんでした。
「⻌」を共有する解釈に戻ると、点とウロコを対応させるロボットさんの作品も手を打つアイデアです。



2021-12 「逆風」


「逆風」


このころから一番乗りでの投稿を目指すようになりました。対応解釈は至って普通ですね。「風」1画目を共有しているので、パースをかけることで1文字目と2文字目の文字サイズを揃えて見せようという魂胆です(あらたかなさんの「巨大物」で得た知恵)。
fdwwさんの作品宮倉ひのさんの作品癖のないパクチーさんの作品など好みの作品がたくさんですが、個人的には藤野ゆくえさんの作品に完全に印象をさらわれました。豪快でありながら、なにも知らずに見せられてもすんなり「逆風」と読める、みんビグラムがなかったら誰にも到達しえなかったような解釈の衝撃作です。みんビグラムに投稿された作品の中で1,2を争う好きな作品です。



2022-01 「寿」


「寿」


この回だけは投稿期間前にお題が明かされるシステムだったので、時間がかかることをしてみようと髭文字風の処理にしようとしました。髭文字含め筆文字は未だに習熟できていません。髭文字だとむさしさんの作品などが断然きれいですね。
拙作はどうにも「寺」っぽく見えてしまうんですが、横画の本数が本来より多い作品がいくつかあるのは「寺」から遠ざける意図があってのことだったりするんでしょうか。

これまでのお題と比べると格段にアンビグラマビリティが低そうで、横画に着目すると対応解釈は上図のようなばらけ方になっていると思います。拙作はBにあたりますが、この方法だと下図で丸く囲った部分が工夫のしどころになりそうです(拙作では髭のかすれで筆画を揺らそうとしています)。

peanutsさんの作品は明朝体状の処理にすることによってこの部分をウロコと細い線の強弱で美しく読ませていて、ツキダシとハネの対応もキマっています。いがときしんさんの作品もウロコ的な発想でしょう。
Bよりも多かったAの解釈は、縦軸がA-1のように2本の作品とA-2のように1本の作品に大別できそうです(Bにも少数ながら1軸の作品がありますが)。A-1の解釈だと、いがときしんさんのもう1作が日の出富士の図案で余剰を解消していて創意的です。A-2はスパークル状の処理で見事に対応させているマサルさんの作品などが好例ですね。
Cの解釈もけっこう多かったですし、私も今考えたらCになりそうです。宮倉ひのさんの作品がとても納得感が高いですね。えめらるどさんの作品なども好例でしょう。
坂久梨哀葉さんの作品のDの解釈はかなり無類ですが、横軸をここまでずらせば縦軸が余らなくなりますね。



2022-02 「いもほり」


「いもほり」


これも解釈はなんでもないですね。イラスト調にして細い線を活用しようとしています。あとサツマイモの生え方でこうはならない。
「いもほり」の解釈については宮倉ひのさんのご論考がとても参考になりました。たしかにこの視点で見ると宮倉ひのさんの作品peanutsさんの作品によりいっそう納得させられます。
ぺんぺん草さんの作品のインパクトがものすごいですね。「も」を横倒しにしたり「ほ」と「り」を重ねたりとアイデアのたどりつき方が理解不能な作品ですが、この方法によって「い」の2画の高さはもちろんのこと全文字がとても自然な字形になっています。横倒しでも自然に「も」であることがわかるのも字形の自然さがゆえでしょう。



2022-03 「連合軍」


「連合軍」①
「連合軍」②
「連合軍」③


ここまででさんざん「これだけアンビグラマビリティが高いし、これ以外に解はないだろう」と思いながら妥当な対応解釈を提出してはほかの方々の作品に打ちのめされたりしてきて、この回から特に「もっと対応解釈を試行錯誤してみよう」という意識を強めました。ちょうどいいことに初の漢字3文字のお題で、幅広く解釈が考えられそうです。
一番乗りを目指す1つ目は普通の対応解釈です。作字がようやく安定してきた感じがしますね。特徴があるとすれば、「軍」1画目が「合」とのリガチャ的な処理になっていることでしょうか。「亼」と「口」の対応解釈はフロクロさんの「鋸」が間接的な着想元です。
この「軍」1画目が余ってしまうのをどうにかしようとしたのが2つ目の作品です。わりと悪くないと思います。
3つ目は純☾*さんの作品に着想を得て制作したんだったと思います。「連」の「⻌」と「軍」の横画を「合」に回し込むことで「亼」と対応させています。「軍」1画目を「連」のウロコ状の処理に対応させているのも我ながらおもしろいですね。全体的にきれいにまとまっていてかなりお気に入りです。
さっき困った「軍」1画目は、癖のないパクチーさんの作品の「合」の「口」1画目と対応させる解法がシンプルに決まっていますね。
ぺんぺん草さんの作品なんかは、「右横書き」と「塗りによる点と「口」の対応」のいずれもが見えてこないと思いつけそうもない解釈で、信じられないほどすごい発想です。
あたりまえのように2箇所の「車」どうしを対応させたくなってしまいますが、peanutsさんの作品宮倉ひのさんの作品はその一歩目(に考えてしまいそうな部分)から覆していて、それによってごまかされがちな「⻌」のディテールまで表現しつくしています。あたりまえに思っている部分から見つめ直すことでしか見つからない解法があるもので、見習っていかねばという思いです。



2022-04 「悪夢」


「悪夢」①
「悪夢」②
「悪夢」③


1つ目は普通の解釈です。この速度でもある程度凝った作字をできるようになってきていて成長を感じます。素直にいかないのはやはり「ᅲ」/「艹」の2本のツノでしょう。左から右に向かいがちな視線移動を利用して、「悪」ではなめらかな、「夢」では引っかかる見え方をしたらいいなあという望みをかけた解釈になっています。

そして懲りずに「今度こそこの解釈しかないだろう」とか思っていたところ、思いもよらない作品が続々と投稿されて、反省(?)して可能性を探り直しました。

鏡像軸を文字間から左右にずらす方向性はそれ以上掘れそうもなかったので、各文字を上下にずらして対応させようと考えたのが2つ目と3つ目の作品です。悩みどころである「艹」がはまりそうな部分を「悪」から探すかたちでこの解釈に到達しました。

やはりどうしても「罒」どうしを対応させたくなるのが自然な発想だと思います。そこで問題になる「ᅲ」/「艹」の解法は「うっすら飛び出す」「1本だけ飛び出す」などが多そうですが、Amariさんの作品のアイデアが鮮やかです。一方、ひらがなの「あくむ」を内包させることで「1本だけ飛び出す」ことの説得力を増している田山こよるさんの作品もテクニカルです。
あまりにもぴったりとはまってしまうなかで鏡像軸をずらす発想にいたれる作家さんはすごいですね。癖のないパクチーさんの作品がとてもわかりやすく読みやすいですし、軸をずらすことで「悪」が1本ヅノ、「夢」が2本ヅノになっています。ぺんぺん草さんの作品はさらに大きく軸をずらしています。「亜」の7画が「夢」の3画分と対応していたりと、面的な捉え方やセリフ状の装飾によって驚異的な対応解釈を実現しています。もちろんツノ問題も解消していますが、そういう次元ではなさそうなほどの異常性で、「逆風」と1,2を争う好きな作品です。
宮倉ひのさんの作品の解法も衝撃的です。ずらすのをまさかの角度にすることで見事に「艹」が形づくられています。



2022-05 「龍」


「龍」①
「龍」②


1つ目はやはり普通です。物足りない感じがしてしまいアンビパズル風味に「DRAGON」と描いてみたりしています。今見るともうすこし凝りようがあったように思えますね。
2つ目は強引でけっこう気に入っています。これも対応するパーツをずらす考えですね。「月」/「乚三」はぴったりはまるので、残りのパーツを装飾的に処理すれば自ずとこうなりました。
.38さんの作品が異様なまでの自然さと読みやすさですね。難易度が高く対応解釈があまりばらけなさそうな印象でしたが、解釈が特徴的なものだとZnさんの作品が好みです。パステル風の筆致で線の本数を揺らすさいとうちゃんさんの作品のアイデアも目新しいと思います。
ぺんぺん草さんの作品はなんとみんビグラム初の風車型です。同じ形で4ヶ所をも対応させる風車型を定められたお題で描いてしまうのもすごいですし、ここまで自然な字形になっているのもすごいです。



2022-06 「魔」


「魔」①
「魔」②

1つ目は妥当な発想ですが、かなり筆画を省略しつつも読みやすくまとめられたかなと思います。5月から10分作字でアンビグラムを描くようになり、早く描きあげるの力もつき始めている頃でしょうか。
2つ目はかなり満足のいく出来にしあがりました。作字的には一番気に入っています。対応解釈もかなり完璧に近づけられたように思います。以前軽く触れたように、作字的な装飾やパーツがうまくはまりほとんど過不足なく対応していて、判読性も納得感も説得力もかなり高まっていそうです。
Snow/淡雪さんの作品の解釈が見事ですね。180°回転型であっても「木」/「E」の90°回転対応関係に着目できるのが柔軟です。「田」を「龱」にすることで「林」と自然に対応している風揺さんの作品もその手があったかと唸らされます。



2022-07 「働」


「働」①
「働」②


みんビグラムで出るより前に「労働法」で描いたことがあったんですが、このオーソドックスな解釈だと気になるのはやはり「亻」と対応するときの「力」の横画です。
1つ目ではここを「重」の筆画の流れの中に含めることで不自然さを減らそうとしました。

2つ目は「亻」を袋文字状の処理にすることで対応させています。自然点対称な「重」の部分で「袋文字状の囲みにステンシル的な切れ込みが入ることがある」「筆画を袋文字状に捉えることもあれば線的に捉えることもある」というようなルール説明することでより自然に読んでもらえていたらという狙いです。
螺旋さんの作品が驚いたことにみんビグラム史上2作目の風車型で、さらには「手」の重畳型にもなっています。すごすぎる。
「亻」/「力」の過不足の解消方法もいろいろですね。ぺんぺん草さんの作品は「重」と「θ亻」のネガティブスペースで巧みに「力」の不足を形づくっています。宮倉ひのさんの作品は例によってうまく軸を「重」からずらして解決しています。スギモト アキホさんの作品などは、ここまでデフォルメしてもしっかりと自然に「働」に読めてしまうのが発見ですね。



2022-08 「迅」


「迅」①
「迅」②


最新回はとてもシンプルなお題で、画数も「ゆめ」についで少なく、対応解釈もぱっと見で1つ思いつきそうです。1つ目はそのぱっと見で思いつきそうな対応解釈です。「丶」の解釈にいくらか幅がありそうではあるものの、一番乗りを目指す速度ではこれ以外に妥当な解釈も思いつきませんでした。
この方向性の解釈で困るのは、(特に引き算的に描きがちな私にとっては)「田」に見えてしまうことです。いろいろなパターンを描いてみたんですが、シンプルな字形に落とし込もうとするとどうしてもより馴染みのある「田」が強めに干渉しやすそうです。
この問題を解決するためのアイデアとして、『回転の中心を「十」からずらす』『より複雑な字形に寄せるために「⺄」よりも「辶」をわかりやすくする』などを考えました。
まず前者のアイデアについて考えると、「迅」の線の密度だと中心を「十」から上下左右に1本分ずらすのは難しそうです。一旦後者を考えましょう。

上図のように、私の筆致だと楷書に寄せて「辶」をうねうねさせても「田」といわれれば「田」に見えてしまうため、一番まぎれもなく「辶」でしかなくなりそうな明朝体状の処理にしようと考えました。

明朝体っぽく描いた「迅」を見ていると、上図で青く示した部分が重なって見えました。ここが対応すると回転中心が左に”0.5本分”ずれることになり、とてもおもしろそうなのでこの方向性で考えていきます。

すると上図で赤く示した部分で特に「0.5本分回転中心をずらす処理」と「明朝体状の処理」のいずれもが生きてきます。気持ちいい。

このような考え方をたどって完成形に至りました。「筆画」と「筆画と筆画の間」がブリヴェットのように揺れる異常な対応解釈になり、アンビグラム的には一番気に入っています。
みなさんの解釈もうまく「迅」に見せていますね。「十」を中心に回す王道の解釈だと、やはり「⻌」が強めな作品が多そうです。ロボットさんの作品は「道具」に続いて明朝体のウロコがきれいに対応しています。
「⺄」/「⻌」では複雑さに差があるわけですが、対応するのを「卂」と「⻌」にするZnさんの作品の解決法は驚きですね。ぺんぺん草さんの作品はさらに飛び道具的です。「十」が「丶」の位置まで動いて対応する柔軟な文字の見え方は異彩を放っています。
そして、ちば けいすけさんの作品うりよしきばさんの作品.38さんの作品と、なんと3名も風車型を描かれています。どの作品も4方向ともよく対応していてすさまじいです。




歴戦のアンビグラム作家もアンビグラム初挑戦の方もひっくるめて多くの人々が題材を同じくするからこそ、さまざまな対応解釈やデザインが飛び出すのが、みんビグラムのすばらしさだと思っています。そのため1人でも多くの方に参加してほしいと願っていますので、ぜひみなさんも参加してみてください。
そして、みんビグラム1年間の継続、おめでとうございます。




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