アンビグラム制作中に考えていること
はじめまして、Σです。
アンビグラム歴はまだ短い新参者ですが、アンビグラムを制作するときに個人的に気をつけている点をなんとなく成文化してみます。偉大な先人であるところのアンビグラム研究室やいがときしんさんやフロクロさんや宮倉ひのさんやあらたかなさんなどのご論考も参考にしてみてください。
1. 判読性
「ぱっと見たときに、自然に想定の文字列に読めるか」の尺度です。
アンビグラムが「逆さ(など)にしても読める文字」である以上、「読める」ことはかなり大事な要素になりうることでしょう。
詳しくは次の「納得感」と合わせて説明します。
2. 納得感
「じっくりと見たときに、筆画の対応が理解できるものであるか」の尺度です。
無理な変形もせず全筆画を完璧に対応させられるような単語はなかなか無く、判読性と納得感はトレードオフな関係になりやすいです。私の作品では判読性のほうを優先することが多いですね。
上図は拙作「当初」です。概ねのシルエットや文字を特徴づけるパーツをつかむことで、ある程度自然に「当初」と読めるかと思います。ですが、よく1画1画なぞってみると、特に「初」の「衤」の部分が大きく省略されていることがわかると思います。どのパーツは削ると読みにくくて、どのパーツは削っても読みやすいのかは、文字を深く観察したり、文字をたくさんこねくりまわしているうちにわかってくるかと思います。
判読性は多くの場合、「ほかの字に見えてしまわないか」に左右されます。先の例は「礻刀」という字を字彙に持っている人がいないであろうことを前提に成立している作品かもしれません。
たとえば、上図「痕跡」は「痕」をここまで省略しても読めると判断しての作品ですが、今になって先入観を除くと「病」が干渉しますね。
「跡」と「院」の構造が遠くないからか、「病院」や「廃病院跡」のような単語が少し認知を邪魔して読みにくさがあります。
「何と書いてあるか知っていれば読める」の先の「何と書いてあるか知らなくとも読める」を目指したいものです。
3. 説得力
「字形が崩れた部分を、いかに"そういうデザイン"として理由づけするか」の尺度です。
上図の「魔」では、明朝体のような縦太・横細処理にすることで、「木」の上にはみ出る部分が「田」のゲタと対応しています。「儿」を二分するラインに理由を与えるために両サイドで”そういうデザイン規則”であることを説明していたり、♢状の意匠を取り入れることで「丶」が余らないようにしたりと、難しいお題だっただけにさまざまに工夫をしています。
ほかにも、袋文字状の処理やステンシル風の処理なども役に立ちますね。
さまざまな文字デザインの技法を学ぶと、アンビグラムにも活用することができます。
主要なポイントはこのくらいでしょうか。あくまで私が制作するときに気にしていることですが、お役に立てば幸いです。
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