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アンビグラムと文字組み


こんにちは、Σです。またちょっとした備忘録を残しておきます。今回は文字組みについて。

拙作「飛越」。「飛」と「越」が一対一対応しているため、どう組んでも点対称になる


文字単位で一対一対応させる場合は、どのように文字を組もうと点対称を保ちます。文字組みに制約がつくのは文字の間で筆画を共有するときです。


たとえばこの「眉唾」は「口」を、「逆光」は「⻌」を1文字目と2文字目の間で共有しています。
“前側の文字の後ろ側”や”後ろ側の文字の前側”であれば、不足や余剰があっても隣の文字と筆画を貸し借りすることで補えるわけですね。これによって1文字目と2文字目に密度差があってもアンビグラムにすることができるようになります。しかし、「眉」の真右に「唾」がくる、あるいは「逆」の真下に「光」がくる、というような文字どうしの位置関係が固定されてしまうことになります。2字熟語であれば組み方向について違和感が生じることは少ないですが、もうすこし長い単語だとどうでしょうか。

では、実際に描いてみましょう。「ヤンソンの誘惑」という単語の180°回転型アンビグラムの対応解釈を考えてみてください。細かい部分や読みやすさはあまり気にしなくてもよいので、だいたいどのパーツとどのパーツを対応させるのか考えていただければかまいません。

敷き詰めによる字の密度の可視化。カナと漢字では密度差が大きく、文字単位で一対一対応させるのは難しそう


対応解釈は考えられたでしょうか。
さて、実際に描いていただいた「ヤンソンの誘惑」の対応解釈を見ていただくと、多くは「ヤンソン」~「ヤンソンの」のあたりと「惑」が対応しているのではないかと思います。

たとえば、こんなふうに


この「ヤンソンの誘惑」の対応解釈ですが、気になるのはその文字組みです。上の私の解釈でいえば、「ヤン/ソンの/誘/惑」で改行(?)されていたりします。これがアンビグラムであるからこそ何も問題ないわけですが、アンビグラムであるという理由を除き去ってしまうと文字組みの違和感は大きくなるでしょう。長い単語になると、文字どうしの位置関係の固定が全体の文字組みを不自然にさせうるのです。

少なくとも私は、筆画を共有するアンビグラムとはそういうものだと思っており、以前はこの"変な"文字組みを問題視したことがなかった気がします。

実際、自分でも何度もうねうねしている


しかし、douseさんの傑作「姫森ルーナ」を目にしてから、この文字組み問題の解決方法を強く意識するようになりました。


この作品では文字組みの難を完璧に解消しています。
これらの違いは、大きくは対応づけの順序の違いによりそうです。まず文字組みが不自然なほうの「ヤンソンの誘惑」は、きっと単語の先頭と末尾から筆画を消化していったことと思います。

たとえば、こんなふうに


一方で、かの「姫森ルーナ」の解釈はこの手順では到達できません。上に「姫森」下に「ルーナ」を配し、漢字2字とカナ3字の幅を揃え全体を方形にし、という全体の構造が先に決まっていないと、「姫」の下半分と対応させるのが「森」の下半分にはならないはずです。
このように、「対応解釈が文字組みを決めている」のか「文字組みが対応解釈を決めている」のかが大きな違いだといえそうです。

先頭の「姫」と対応させる筆画を「ナ、ー、ル、……」と末尾から順に持ってこず、2段組み構造全体で見たときに重なる部分を対応させている


この「文字組み→対応解釈」という方向の考え方を自然にできるようになると、かなりアンビグラムの幅が広がりそうな気がしています。なかではまだ考えやすい「姫森ルーナ」型のものから慣れるのがよさそうです。

大まかに工程をたどってみましょう。


図のように、密度が低い文字を小さく、密度が高い文字を大きくすることで絶対的な密度を合わせます。ということは、前半部・後半部それぞれの密度と文字数が反比例に近い関係にある単語を選ぶほど描きやすい傾向にあるわけです。単語の区切りからしても、それぞれ仮名と漢字を当てはめることが多くなるでしょう。


やはり、描きやすい単語を見つけるのが最大のポイントであることは、他のタイプのアンビグラムと同様だと思います。ここまで来たら、あとは全体を一塊に回して、筆画を対応させていくだけです。

ヤンソンの誘惑


こうして、文字順にとらわれない対応解釈・自然な文字組みの作品ができました。うれしい。
このように単語を見つけさえすれば機械的にできる"姫森ルーナ型"を入り口に、「文字組み→対応解釈」という思考の筋道に慣れていけば、かなり幅が広がりそうです。今回の手法の紹介がアンビグラムの可能性を広げる一助になればと思います。


最後までお読みいただきありがとうございました。
姫森ルーナさんの動画も見てみます。




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