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31歳独身男、ホストクラブのお兄さんになる③
前回のお話
↓《31歳独身男、ホストクラブのお兄さんになる②》↓
https://note.com/911218_taka/n/n928aa2d1be20
面接の時
VIPルームのドアが開く。
さっきのイケメンだ。王者の余裕が漂う。
名刺を渡され受け取る。
そこに書かれている名前は、王者に相応しい名前だった。かっけえ。
「用紙書いた?」
「ん?あ?」
店舗システムを解説した冊子の横には簡単な記入用の面接シートが置かれている。
「あ、書いてないですけど、書いておいた方がよかった、、やつで、、すよね、すいません。」
やった。初っ端からやった。ただでさえ忙しいのに時間を無駄にしてしまった。
「おっけじゃまた後で来るから書いといて」
と優しく言ってくれた。しかしだ、油断するなここはホストクラブだ、後で絶対面罵され階段とか人目につかないところに拉致られて、殴られてしまうんだ俺は、と。
これ以上粗相のないように、これまでになく丁寧に、慎重に、面接シートに記入していく。
ボールペンで記入する、普段の殴り書きではいけない。1文字たりとも間違えてはいけない、間違えてしまえば訂正は効かない。履歴書すらこんなに丁寧に書いたことはない、志望動機もこんなに真剣に書いたことはない。
ドアが開く。
「書き終わった?」
「あ、と、ちょっと、、です」
「OK」
どうして粗相は立て続くのか。どうしてこんなこともちょうどよく終えられないのか。どうして人の時間をこうも無駄にしてしまうのか。もはや五体満足では帰れない。
冗談はさておき、全て書き終えいざ面接がスタートした。
まずは店舗システムの説明を受ける。
どうやら昨今のホストは日給が保証されているらしい。イメージとは大違いだ。しかしそれも、売れっ子ホストに比べれば雀の涙ほどのものだ。売れれば売れるほど、稼ぎも大きくなる。
「夢があるなぁ」と、かくもちょろい井上は内心興奮していく。
ここまでやってきて「いや俺はそんなにイケないだろうな、、」なんて思うのはナンセンスである。「どうせなら興奮そのままに突き進んでイクのが良いんじゃないか?」と気持ちを奮わせる。
ホストの給与システムや注意・禁止事項をとてもわかりやすく説明してくれる。中でも「爆弾」と呼ばれるやつは特に気をつけた方がいいらしい。とんでもない罰則がつくことがあるらしいのだ。これはホスト業界に詳しくない人でも知っている人は多いのかもしれない。
一通り説明が終わって「何か不安なことある?」と聞かれたので、「とにもかくにも自信がない、言うなれば全てが不安です」と。そうしたら、
「今まで誰かと付き合ったことがあるってことは、少なくともその人には愛されてきたってこと。誰かに愛されたことがあるなら大丈夫。」
😇KAKKOYO~~~~?????!!!!!😇
好きになりました。ホストはすげえ。
そこらへんの一般人が言っても多分響かない。けど、目の当たりにしているこのホストの偉い人に言われると、信じてしまう。その通りです。と。
それは、その人が偉いからではない。何か感じるのだ。満ち溢れる自信、頼りがいがあるその感じ、全身に湛えるその余裕。
先ほどまで感じていた死への恐怖はすっかりと失せ、いざ体入に向けてワクワクがあふれてきそうになっていた。
すると突然、
「俺実はこの店舗今日で終わりなんだよね。明日から違うところに移るんだ。だからここで働いても俺が面倒見れないしそれじゃ意味ないから、ちょっと新しいとこ行こう。」
と驚愕の事実。
体入は?
と、戸惑いつつも、別店舗へ移動する。
「11月2日OPENのお店でまだ改装中なんだ。」
と、その王者は言う。
体入は?
新店舗の門をくぐる。
確かに改装中だ。黒を基調にしかしとても煌びやかで、どこか落ち着きも感じられる大人な空間だ。一通り店舗内の説明を受けた後、改装があらかた終わったであろうVIPルームに腰を落ち着け、第一声、
「やる?」
「やー、ります!」
「名前どうする?」
体入は?
結果:体入せず。31歳独身男性、ホストクラブのお兄さんになる。
僕の名は
名前は自分のこだわりをちゃんと持った方がいい。らしい。
もう一人の自分、そう井上嵩之とは違う自分をここに作るのだと。
だから、よく考えな、と。
井上は、自分の名前が4音節なのが実はあまり好きではなかった。3音節の名前に憧れていた。「しゅうと」とか「けんと」とかそういう名前に憧れていた。「3音節がいいです。」というと、一緒に探してくれた。「ライト」「アクア」「ルシア」・・・井上の年にも顔にも合わないキラキラした名前がたくさんある。
・・・「銀河」
・・・ん?
何かを感じた。
「銀」
「金」ではなく「銀」。
冬生まれだからだろうか「銀」という文字がとても美しく思えた。
「銀」、、、「銀次」、、あ、、すみたにぎんじろう、、、ぎんじろう、、、「銀児朗」ええやん?
「銀児朗がいいです」
「おおええやん!」
すると後ろから、
「寿銀児朗いいんじゃない?」
と、新店舗の店長になる、めっちゃマッチョのお兄さんが、これまたすごい大きい声で叫んだ。
「それもらいます!」
体入は?
そうして、ここに、
井上嵩之改め、
「寿銀児朗」が生まれたのである。
<第一話 完>
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