貴族はつらいよ


暗くて狭くてジメジメしたところにずっと隠されていたんです。

「私ども、貴族の血が流れているんですよ、一応。小さい頃から両親に言い聞かされて育ちましたのよ。」

なのに、なのに、こんなところに閉じ込められて、ひどすぎます。光をあびないと、鬱になるんですよ、ご存知ですか?

家来もつれてきてますけど、何にも役に立ちゃしない。私ども、夫婦を守っているつもりらしいけど、敵なんか来るわけないんですよ。こんな真っ暗なところに。第一、私どもの存在を知る人なんていないんですから。

あっ、人は来ないんですけどね、ときどき、青白く光った目のネコやネズミがくるんですよ。見てください。去年の残りのピンクと水色のあられが食べられてしまいました。カビが生えてるのに、大丈夫だったのかしら。


外の世界は暖かくなってきてるみたいですね。それぐらい、ここからでも分かりますよ。箱を通してかすかに空気を感じることができるんですよ。ここにいると、視覚、味覚以外の嗅覚、聴覚、触覚が異常に発達します。


暖かくなったら、下界に出られるんです。1年ぶりの外の空気。たまには私ども、貴族のことも思い出していただかないと。2021年の日本で、こんな発言したら、ワイドショーで叩かれるのかしら。

あっ、天井から光が降り注ぎます。まぶしくて目が開けられない、これが毎年苦痛なんですの。徐々に目を慣らして行かないと、危険です。もう少し、気をつかっていただきたいわ。

子供たちが私どもを並べてますけど、わたくしが一番下におります。俗にいうひな壇です。最近はお笑い芸人さんの舞台になってますけど、元は私どもの家来や女中の場所のことを言うのでございます。

この家の主人が、私どもを一番上に置いてくれました。やはり、ここじゃないと落ち着きません。貴族はマウントを取らないと、落ち着きませんわ。

この上からの景色を見るのも、長くて2週間でございます。その後はまた、箱入り娘でございます。いいえ、娘じゃございません、既婚者です。夫と一緒に箱にもどるのでございます。


一言、よろしいでしょうか?

なぜ、私どもの日は祝日ではないのでしょうか?

2か月後の、あちらの方は赤文字だと聞いたのですが。

納得いくお答えがいただけますと、来年まで心おだやかに身を隠すことができるのでございます。


最後まで、貴族の末裔のたわ言を聞いていただき、お礼申し上げます。

1年後にお目にかかりましょう。



ごきげんあそばせ。





  




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