編集者とライターの違いって何だろう〜「センスメイキング」から考える〜

こんにちは、なんばです。気を抜いて、すっかり更新がおざなりになっているあいだに春になってしまいました…。

今年の目標は「インプットを増やすこと」だったので、育児にかまけて溜まりに溜まりまくっていた積ん読本の消化も頑張りたいと思い、読書の時間を少しずつ作っています。それで、2年くらい本棚で熟成されていた「センスメイキング」という本を最近ようやく読みました。

ここで書かれていたことが、普段みている編集の仕事に通ずるものがあるような気がしたので、今回は本の紹介をしながら、「編集者」と「ライター・記者」の仕事の違いについて考えてみたいと思います。

(今さらこの本かよ、っていうツッコミはご容赦ください…涙)

そもそも、この本で紹介されている「センスメイキング」とはなんぞや、と思われると思うので簡単に本書から抜粋して紹介すると…

センスメイキングは、人文科学に根ざした実践的な知の技法である。文化を調べ、全方位的に理解すること。自分自信の知性・精神・感覚を駆使して、洞察すること。他の文化を理解するために、自分自身の文化の土台になっている先入観や前提を捨て去り、深堀りして奥行きを追求していくこと。それらの行為を通じて、新しい何かが取り込まれ、文化や世界への洞察力が育まれる行為のことを「センスメイキング」と呼んでいる。(本書より要約・抜粋)

・・・という感じです。自分の主観を捨てて、相手の文化を全身で感じて洞察する力を育てるって、なかなか難しいですよね…。

でも、この「センスメイキング」の行為、なんか仕事でちょっと似てる場面あるな…と。それは、ターゲット調査や企画を考えるときの編集者の仕事です。

よく会社では「編集者は生活者(消費者)のことを一番理解している存在でなくてはならない」と言われています。そのため、生活者理解するために、グループインタビューをしたり、街頭やオンライン上で行動調査したりして、編集者本人とは全然違う年齢・性別の人のことでも把握して語ってくれたりします。

ただ、普段編集者と仕事の付き合いがない人からすると、「同じ文章を扱う仕事で、ライターと何が違うの?」と思われることも多いです。なので、日頃仕事で関わる中で、編集者とライターがどんなことをしているか、考えてみました。

一言でいうと、ライターは情報を引き出し、ストレートにわかりやすく見せる仕事、編集者は複数の情報を組み合わせて”演出”して届ける仕事だと思います。

編集者は、一つ一つの情報を「素材」として捉えて、切り取ったり並び替えたりしながら、文脈を作っていく。読む人がどう受け取るかを考えながら、情報をデザインする仕事だと思います。そして、そのデザインをするためには、日頃から情報を届ける相手を把握して、どういう文脈で情報を届けたら受け入れてもらえるのかを常に考える必要があるのだと思います。

もちろん、ライターでも編集者的仕事をすることもありますし、編集者でも取材時はライター的なこともしていますが、基本的に両者の仕事上の役割は違っています。

さてさて、また本の内容に戻りますが、「センスメイキング」がなぜ重要なのか、自動車メーカー フォードの高級車「リンカーン」のリブランディングの事例がわかりやすかったのでご紹介します。

フォードが考える「高級」とは、自動車の技術や機能を充実させることだったが、顧客シェアは減少、顧客の高齢化が進み、「リンカーン」ブランド継続も苦しい状況になった。本来狙いたいターゲット層は、教育水準が高くグローバル志向で独創性がある若者。ターゲットを深く考察するために、民俗学的調査を新興国の若いエリート層に対して実施。その結果、自動車を運転している時間の大部分が、渋滞に巻き込まれ身動きが取れない時間になっていたことがわかる。そこでターゲット層に刺さる新しい「クルマ体験」を再定義。家族や友人、ビジネスパートナーをもてなす空間を提供することが「上質な体験」だとして、「リンカーン」の設計プロセスを抜本的に見直すことになった。(本書より要約・抜粋)

企業は製品のことはよくわかっていても、生活者がどのようにそれを使っているか、製品に求める効能が何なのかまでは十分に理解できていないっていう、典型的な事例でした。

この「リンカーン」のリブランディングでは、民俗学的調査を経ることで、車の利用を「点」で捉えるのではなく、前後の顧客行動まで把握して「全体」を掴むことで、車に求める効能を導くことができたようです。家族や友人たちをもてなす空間にするため、車内空間を良くするための製品改良を行い、売上も改善した、という話しでした。

オウンドメディアを運営しているなかでもよくあることなのですが、企業としては自社の技術力を知ってもらって、顧客に価値を感じてもらいたいと思う一方、顧客にとってはさほど技術は重要ではない、むしろ違うところで価値づくりをしないと他社との差別化ができない。そういうときに編集者は「センスメイキング」的な力を発揮できると思います。

顧客にとって何が重要な効能なのか、もとめる機能なのかをしっかり把握することで、企業や製品がもつ魅力をどうデザインして見せたらよいのか、製品とは別の要素を組み合わせることで新しい文脈が生まれるのではないかなど、色々とアイデアを出すことができます。

ちなみに本書の中では、CookieやGPSデータなど、固有性を削ぎ落とされた”薄いデータ”では「センスメイキング」は難しいと書かれています。データで何でも可視化できるようになった結果、顧客をわかったつもりになって実はわかっていなかった、みたいなことがないよう、自戒も込めて取り組んでいきたいと思います。



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