ロマンチカ盗難事件

「ロマンチカ」は初めて履いたローファーだ。程よい踵を持った黒い艶のある外観で、ピンクのタータンチェックを中に着込んでいる。高校入学を機に買ってもらった。私はこの靴をひどく気に入った。

高校生活2、3日目に、ロマンチカは突然消えた。放課後の用事を済ませて帰ろうとしたとき、自分の靴箱からいなくなっていたのだ。どうしよう。この後習い事があるのに。スリッパという名の上履きで公共交通機関に乗って帰宅するのは余りにも無様で私にはできない。

盗られた。親しい友達はまだいないけれど、恨まれることを誰かにした覚えもない。ただ、自分の靴が無いという事実だけが確かにそこにあった。

…詰んだ、と思った。何度見ても、自分の場所に探し物はない。ただ、左隣にロマンチカとそっくりの、というかロマンチカがいた。あれれ。よく見ると、ほんのちょびっとだけサイズが違う。わかった!

私は担任の先生に事情を話して「左隣の靴箱の子」に電話をしてもらった。翌日、彼女は靴を間違えて履いて帰ったことを謝ってくれた。私のロマンチカは無事に帰ってきた。

次の日から、同じデザインの靴が2足お隣で靴箱にいるのを微笑ましく思いながら仲良く3年間履きつぶした。


※本人へ...何かの間違いで見つかってしまったら謝っときます。今度なんかおごるけん許して。

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