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Don't Take My Hand



「僕、不老不死なんだ」
彼がそう言った時、私はいつの間にか怪訝な目で彼を見ていたようで、その視線が彼の脳幹を射止めて彼は無数の、それでいて少量の砂にばらけてその場に散ってしまった。私は慌てて駆け寄って右手で砂を掬えるだけ掬い、思いっきり握り締めた。彼が本当に不老不死なら、今の彼を救うのは痛みでしか有り得ないと思ったから。


友達の家のコルクボードにあなたの字で友達の名前が書かれた封筒が貼られているのに気づいている。あのわずかな厚さの中にあなたが友達に宛てた友達のための言葉があると思うと私は目にいっぱいの涙を溜め、その度にベランダでピアニッシモを点け、二吸い目のあと飛び降りる羽目になる。脳漿を覗き込む友達の顔がそれなりに引き攣っているのにも気づいている。気づく以上のことの前に私はただ無力だ。


celadonの風の中でじっとしていると、月が去る速度で藤が体に巻き付いてくる。私がこの爪を立てこの身を捩れば簡単に月への当を失うにも関わらず、と思っているうちに藤は私より遥かに靱やかになり、風は褪せていた。


小学校二年生の時の担任が振るったチェーンソーは私の体を抉ることが出来なくて、それで夢の中だと分かった。レイは私に手を伸ばした。手に手が触れる感覚があった。咄嗟に手を払った。レイの目はどんな感情も湛えていなかった。空を飛ぼうとしても浮くのは気味の悪い心地ばかりで、体は土に就いて離れない。(LからR) 感じさせられることしか感じ得ることは無い。目が覚めてから目を瞑れば良かったと思った、どうせ心が体の先に来ないなら……


恋人が自殺したら友達が「こいつが助けてやらないから」という本音を裏返して「大変だったね、あなたは悪くないからね」という言葉にして言ってくるのをうんうんと聞きながら「君の一番の望みが叶ってよかった」と密かに微笑むのだろうか、なんて考えている内にいつの間にか恋人の手足は激しく私を叩き、顔は真っ赤になっていた。私はきちんと恋人の喉から手を外した。恋人は泣きながら笑っている。そうそう、もし君が死んでしまってもその後も君と会えることを私は疑っていないけれど、それでも君が自殺したら私はこっそりそんな顔をすると思うよ。



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