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衣食住文

 衣食住。ヒトの生活には必要不可欠とされています。ただし、人間の生活には3つだけでは足りません。あと1つ、文化も必要不可欠です。『衣食住文』、これで“ヒト”は“人間”たりえると私は考えています。
有志以来、人間は移動した土地、地域で絵を描き、器を作り、演劇を行い、歌を紡いできました。そして宗教、思想、哲学といったいわゆる“信じる力”を育んできました。また、お金も信じる力、信用によって世界中に拡がりました。全ては『物語』『設定』によるものだと私は信じています。
Covid-19によるパンデミックで“文”の多くは不要であるという設定変更をなされてしまいましたが、多くの方が不要ではないということをご存知のはずだと思います。しかしながら社会の設定が変更されると空気が変わりますし、感染を極力避けることが重要なのも事実です。ではどうすればいいのでしょう?
 まず、公演等のライヴを一旦停止すると共に相応の補償を俳優や歌手、スタッフにおこないます、よく言われていることですね。ですが補償をきちんと行うことが肝要になって参ります。また、ドラマや映画の撮影も一旦停止します。なぜなら、リハーサルや稽古はマスク有りですが、彼、彼女らは本番マスクなしとなります。いくら入念に消毒や検査を行っていても演技に熱がこもれば飛沫も拡散しますし距離も近くなります。俳優は演じたいですしダンサーは踊りたい欲求がありますが、ここは堪えてもらえればと想います。その間、お客さんや視聴者は確かに新作を観ることはできませんが、ご安心ください。一生かけても観切れないほど膨大なアーカイブが人類にはあります。この機会に名作傑作快作の数々を楽しむというのは如何でしょうか、充分に楽しめるかと思います。
 過去にも、大震災が各地で発生した際、歌手等の表現者方が「自分たちはこんな時何もできない、自分たちがやっていることは無くても生きていけるから」と力なく仰る場面を頻繁に見ました。しかしそんなことがあるはずはないと私は考えます。衣食住文、そのどれが欠けても人間は生きてはいけないのですから。結婚式、葬儀、クリスマス、正月、お祭り、株式、資本主義、演劇、野外フェス、バレエ教室……文を挙げるとキリがありません。
 最後に今回の様なパンデミック下で精神的に鬱屈となさっている方にお奨めの一作があります。ミュージカル映画『ロシュフォールの恋人たち』です。全てがとにかく美しいのです。ミシェル・ルグラン(シェルブールの雨傘、壁抜け男の作曲者)の音楽、他にも振り付け、演出そして美術。美は細部に宿ると言いますが、この映画はまさにそれを体現しています。例えば背景に映っているトラックや小舟、梯子に至るまで配色が実にバランスよくなされています。次に目線の演出。向かい合って喋るシーンで互いのセリフをカメラ目線で交互に言い合うという斬新な演出も隠れています。54年前とは思えないほど古びていないのです。街中で真っ青な空の下、笑顔で歌い踊る姿は特に現在、心に沁みてくるのです。2021年の7歳児にこれを観てもらい「ほら、昔世界はこんなにも自由だったんだよ」と知ってもらいたい、ついそんな気になる作品です。
 以下の様な劇中最高のセリフ(※意見には個人差があります)を言える世間になればいいのになと想ってやみません。


男性、女性と軽くぶつかる。
女性、少しムッとする。

男性「(カラッとした笑顔で)失礼お嬢さん、恋をしているもので」

男性、去る。
女性、微笑む。

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