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サークル・オブ・ライフ_5 黒滝リゾートの詳細

 私には温泉・医療・劇場が一体化した黒滝リゾートの活況を呈している姿が見える。物理的に見えるのではなく心の目を通して見えるのだ。演劇では古来より、“見えないものを見る”能力が必要とされ続けている。例えば子供の頃にままごとやごっこ遊びで楽しんだ記憶がある方は多いと思う。その時、実際にはないコップや食べ物を本当に食べたり使ったりしているように演じていたのではないだろうか。それはつまり心の目を使ってみているということになる。俳優はそれを仕事で一生続けているのだが、それはともかく黒滝リゾートだ。

 USJの半分くらいの土地に野外劇場であるやまなみステージ、50m離れた場所に天井の高い吹き抜けの音楽堂であるこもれびホール(共に全て黒滝産の杉桧を使用)があり、その周囲を巨大な露天風呂が取り囲んでいる。専属の俳優・歌手・ダンサーにスタッフが日々の公演を支え、時には外部から客演を招いて新鮮さを保っている。公演だけではなく講演にも使われるので、観客や参加者は湯船に浸かりながら楽しむことができるのである。のぼせないように湯温はぬるめに設定されており、本格的な熱い湯を楽しみたければ50m離れた川の横に造られた露天風呂に行く。ステージの賑わいから少し離れ、代わりに川のせせらぎと熱めのお湯を堪能できるのだ。川には一部入水可能な区切りがあり、そこで水風呂も楽しめる。因みにリゾートから少し下流には小規模浄水器を設置することで川の水質を保っている。リゾートで使用している電力は、水風呂から浄水器までの間に幾つか小水力発電機を設置して賄っている。この発電方法であれば自然にほとんど負荷をかけることなく発電できる上、景観を損ねないデザインにしやすい。何も知らずに通りかかっても、それが発電機であることに気づかないことの方が多いだろう。もし体調不良者が出ても、リゾートに隣接して村の医療施設(診療所と歯医者)があるので安心度は高い。緊急で難度の高い手術が必要な患者の場合、以前なら救急車で数十分かけて病院まで走らなければならなかった。今では診療所にダヴィンチと呼ばれる遠隔手術ロボット(離れた場所にいる専門医がオンラインで治療にあたれる。5Gの恩恵が雲滝にもやってきて可能になった)が一台設置してあるので安心度は更にアップしている。リゾートは、もちろん宿泊できるがホテルというよりグランピングに近く、適度に距離を保ちプライベートを守りながらコテージで過ごせる様になっている(こちらも全て黒滝産の杉桧を使用)。それからどこに行っても料理は魅力の一つで、やはり黒滝も例外ではない。鮎、アマゴ、といった淡水魚を筆頭に猪や鹿も堪能でき、珍味としてお酒によく合うサワガニ(淡水に住む体長5㎝ほどの小さな蟹)やタニシ(淡水に住む体長1㎝ほどの小さな巻貝)もメニューに名を連ねる。先付やデザートに活躍してくれるのが吉野群名産果物の代表格、柿だ。これらはいずれも好評を得ているが、好きな人はより好きに、苦手な人には箸も付けたくないような、万人受けし難いラインナップでもある。なぜなら大体の人は鹿肉よりも牛肉を好むし、猪肉よりも豚肉を好む。より万人に受け入れられるよう“改良”させてきたからだ。また淡水物は海水物に比べて独特の生臭さがある。そんな人からすれば鮎やタニシなど論外だろう。だが物は言いようで、好きな人からすれば、ワイルドな肉の味だし沢の香りがする魚だし、珍味なのだ。かくいう私は淡水魚が苦手で食べられない。

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