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その繋がりの中で

日本の第一次産業とは、農業・林業・酪農・漁業など、自然資源を利用して生産活動を行う産業である。日本の食文化は、この第一次産業の成果によって支えられてきた。米・野菜・果物・肉・魚・乳製品など、私たちが日常的に口にする食品の多くは、第一次産業の労働者の手によって生み出されている。
しかし近年、日本の第一次産業は様々な問題に直面している。中でも特に深刻なのが、働き手の不足と高齢化である。農林水産省の統計によると、2019年の第一次産業従事者の平均年齢は66.6歳で、全産業の平均年齢の約1.7倍に相当する。また、第一次産業従事者の数は、2000年から2019年の間に約40%減少し、約210万人にまで落ち込んでいる。
このような状況の背景には、第一次産業の収入の低さや労働の過酷さがある。農林水産省の統計によると、2019年の第一次産業の平均経常利益は約300万円で、全産業の平均経常利益の約3分の1に過ぎない。また、第一次産業の労働時間は、全産業の平均労働時間の約1.4倍に相当し、特に農業や酪農では、年間2000時間を超える場合も少なくない。
このように、第一次産業は収入が少なく労働が過酷で将来性が見えないというイメージが強く、若い世代の就業意欲が低くなっている。その結果、後継者が不足し農地や漁場が荒廃し生産量が低下するという悪循環に陥っている。
では、このまま第一次産業が廃れていくと、私たちの食生活にどんな影響があるのだろうか?
まず、食料自給率が低下することが予想される。日本の食料自給率は、2019年には38%という低水準で推移しており、先進国の中でも最下位に位置している。もし第一次産業の生産力がさらに低下すれば食料自給率はもっと下がり、日本は外国により依存することになる。
食料自給率が低下すると、食料の安全保障が脅かされる可能性がある。もし、外国との関係が悪化したり、自然災害や戦争などの緊急事態が発生したりすれば、食料の輸入が途絶える恐れがある。その場合、国内で生産される食料が不足し食料価格が高騰、飢餓や栄養不良に陥る人が増えるかもしれない。
また、食文化の多様性が失われることも懸念される。食文化の多様性とは、地域・歴史・宗教などによって異なる食の価値観や習慣のことである。日本の食文化は第一次産業の生産物によって豊かに育まれてきた。例えば、米は日本人の主食として神事や行事にも欠かせない存在である。また、魚は日本の海に囲まれた地理的条件から刺身や寿司などの独自の料理に発展した。さらに野菜や果物は、四季の移り変わりに合わせて旬の味を楽しむことができる。もし、第一次産業の生産物が減少すれば、これらの食文化も衰退する可能性がある。
では、第一次産業の衰退を防ぐには、どうすればいいのだろうか?
一つの方法はDXの推進であり、様々なメリットをもたらすことが期待されている。例えば、IoTやAIを使って、作物や家畜の生育状況をリアルタイムに把握し、最適な栽培や飼育方法を提案することができる。また、ドローンやロボットを使って、農作業や漁業の効率化や省力化を図ることができる。さらに、小型人工衛星を使って、木の本数や土壌の情報を収集し、災害や病害の予防や対策を行うことができる。これらの技術によって、生産性や品質を向上させるとともに、労働者の負担を軽減することができる。
もう一つの方法は、消費者の意識変革である。消費者とは私たち“一人一人”のことである。私たちは第一次産業の生産物を食べるだけでなく選ぶこともできる。私たちの選択が第一次産業の生産者にとって、大きな意味を持つことを知っているだろうか?例えば国産の食品を選ぶことで、国内の農林水産業を応援することができる。また、有機や無農薬の食品を選ぶことで環境や健康に配慮することができる。さらに、旬の食品を選ぶことで、季節の移り変わりを感じることができる。地産地消を意識するだけでランニングコストや環境負荷も抑えられる。これらの選択は私たちの食生活を豊かにするだけでなく、生産者に対する敬意や感謝の気持ちを表すことにもなる。
しかし、私たちは選ぶだけでなく捨てることもできる。捨てることが、どれだけもったいないことかを知っているだろうか?例えば、作り過ぎた作物や搾られ過ぎた牛乳の行きつく先は廃棄処分である。これらの食品は、生産者が時間と労力と資金をかけて作り出したものである。しかし、消費者の需要に合わせて過剰に生産された結果、その場で捨てられてしまう。また、飼料の高騰により、買い控えられた肉牛用の子牛の行きつく先は殺処分である場合も少なくない。これらの子牛は生産者が愛情と責任と誇りを持って育てたものである。これらの事実は私たちの食生活を貧しくするだけでなく、第一次産業の生産者に対する無関心や無感謝の態度を示すことにもなる。
私たちは、第一次産業の生産物を選ぶことも捨てることもできるが大切にすることもできる。私たちは生産物を大切にすることが、どれだけ素晴らしいことかを知っているだろうか?例えば、食べ物の無駄を減らすことで、第一次産業の生産物の価値を高めることができる。私たちは必要な分だけ買い物をし、賞味期限や保存方法に注意し、残り物を活用し、コンポストにするなどの工夫をすることで食べ物の無駄を減らすことができる。また、食べ物のストーリーを知ることで、生産物の背景を理解することができる。私たちは食べ物の産地や生産者、生産過程や生産理念などの情報を調べたり、直接話を聞いたりすることでストーリーを知ることができる。さらに、食べ物を楽しむことで生産物の魅力を感じることができる。私たちは、食べ物の見た目・香り・味・食感・栄養・効能などの特徴を味わったり、食べ物にまつわるエピソードや思い出を語ったりすることで、食べ物を楽しむことができるのだ。これらの行動は、私たちの食生活を充実させるだけでなく、生産者に対する尊敬や感動の気持ちを伝えることにもなる。
 
私たちは、第一次産業の生産物に対して、選ぶことも捨てることも大切にすることもできる。私たちは、生産者が、私たちの食生活を支えるために、どれだけの苦労や努力や情熱を注いでいるかを知っているだろうか?私たちは、第一次産業の生産者に、どれだけの感謝や敬意や応援を示しているか?
私たちは第一次産業の生産者と、日本人として、地球人として、動物として、繋がっている。私たちの食生活は生産者の生活に影響を与える。そして、第一次産業の生産者の生活は、私たちの食生活に影響を与える。私たちは、第一次産業の生産者と、影響し合っている。私たちの食生活は、第一次産業の生産者の幸せに関わる。私たちは、第一次産業の生産者と、一緒にあるのだ。
まさに、サークル・オブ・ライフ。

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