苦痛でしか無かったドライブ
1歳の長男を育てながら、長女を身篭っていた私は、超がつくほどの貧乏だった。
働かないマザコン夫に、子離れ出来ない義母を養う私は、アルバイトとパートを掛け持ちしながら、必死だった。
毎朝、仕事をするフリをしてパチンコへ出掛ける夫と、洗濯してのりづけしたシャツを着せて見送る義母。
そんな毎日にうんざりして、離婚を考えていたある日、知人が気分転換にドライブしようと誘ってくれた。
お金がかからなくて済むならと誘いに乗った。
ドライブ当日。
私が長男と車に乗ると、その知人の彼氏が乗っていることに気づいた。
知人だけだと思い込んでいた私は、気まずくて、会話もろくにできなかった。
長男を膝に乗せて、車窓をぼーっと見ていると、車がどこかのパーキングに入って、止まった。
自宅から遠く離れた場所なのは確かで、そこはマックだった。
マックは買ったことも食べたこともない。
知人が彼氏さんを連れて注文に行き、私は長男と座って待っていた。
持ってきたのは、知人と彼氏さんの分だけ。
知人が彼氏さんに何か言うとまた席を離れて、戻ってきた時、その手にあったポテトを長男にくれた。
マック食べたかったな。
出すお金も無いのだから仕方ない。
長男がポテトを食べていると突然言われた。
「汚ぇ食べ方。ろくな育てかたしてないだろ」
それは知人の彼氏が私に放った言葉だった。
何も言えずに知人を見ると、冷たい目をしていた。
なんで?
訳が分からず、怒らせると帰れなくなると思い、必死で、長男にポテトを食べさせる。
こぼさないように。
行儀よく見えるように。
でも無理だった。
「俺の子はちゃんと食べてたなー」
あーあ。と面白くなさそうに言う。
知人は止めるでもなく、むしろ頷いていた。
「どうやったらそんな子に育つん?」
知人に子どもはいない。
結婚もまだだった。
子育ての経験なんて無いよね?
なんで?なんで?
悔しかった。
貧乏であることも、躾がなってないと言われたことも、今すぐその場を離れることができないことも。
私は、母親なのに無力だった。
お腹の子も長男も守らないといけない。
その時、私のプライドは、邪魔でしか無かった。
「そうだね。気をつけるよ」
そう言って、私は長男が食べ終わるまでの長い時間をやり過ごした。
実際は10~20分程度だったのかもしれない。
その時の私は、長男が食べ終わるのをまだかまだかと待っていて、とても長い時間に思われた。
その日は、無事に帰れたことに安堵し、知人の番号を着信拒否に設定して、メールも着歴も消した。
それでも時々思い出しては、子どもってそんなもんだと言えなかった自分にムカつくし、なんで私がこんな思いしないといけないのかと悲しくなる。
そして10年以上経った今も。
苦しくて仕方ない。
きっと彼女らは忘れているだろう。
誰かの心が傷付いても、自分でなければ痛まないのだから。
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