－稽留流産－

稽留流産の経験談です。
不快に思われる方は、読まない選択をお願い致します。

妊娠５か月目に入って、２回目の産婦人科検診を控えていたころ、だんだんとお腹も目立つようになった。
職場の上司に妊娠の旨を報告し、同僚にも配慮してもらった。
たまに無理をしたかなと思うようなことがあったが、いままでの妊娠を振り返ると、特に問題ではないように思えた。
胎動はまだ、感じられなかった。

ＧＷを明けて、１か月ぶりの産婦人科に着いたとき、エコーを見て赤ちゃんの成長を見ることが楽しみで仕方なかったのを覚えている。

診察台に横になり、いつものようにお腹を晒す。
エコーが表示された画面を見て、違和感がした。
違和感の原因は医師が口を開くまでわからなかった。
いつもと違い、厳しい表情をしているように見える医師から目をそらせずに見据えた。
「心拍が停止しています。妊娠を継続していません」
言われた瞬間、頭の中が真っ白になった。
画面を見つめる。いつもならとくとく動く心臓が見当たらない。
聞こえるはずの心拍音も無音だった。
「一旦、落ち着いてお話しましょうか」
助産師さんに促されて、診察台から降りた。
「あの、夫をここに呼んでもいいでしょうか」
私の声は震えていたと思う。

感染症対策で、未就学児以外の家族は付き添い禁止とされていたため、夫は外で待っていた。
病院の許可を得て電話を掛けると、
「終わった？」と呑気な夫の声。
なんとも言えない気持ちになりながらも声を振り絞って伝えた言葉は、私の記憶に残らなかった。
「分かった行く」
夫は冷静だった。きっと動揺しているけど、彼はそれを態度に出さなかった。

医師の説明はこうだった。
「心拍停止しています。妊娠は継続していません。胎児の大きさを見ると、前回の検診から１週間以内で妊娠をやめています。週数からして2～3日入院してもらい、出産する必要があります。時間はあるので、ご家族と話し合い、後日でいいのでお電話ください」
言い方のニュアンスや言葉は、私自身が動揺していたため、記憶違いがあるかもしれない。
ただ、改めて聞いた説明は、どうしても非現実的な気がした。
（きっと夢だよね）
そう思っても、現実は変わらなかった。

医師の説明を聞いた後、夫と二人で会計待ちをしていた。
受付の事務員さんが
「感染症対策のため、旦那様は外へお願いします」と言い、旦那は外に出ないといけなくなった。
こんな時に支えてくれる夫さえ、私から離してしまうのかとさらに悲しい気持ちになった。

落ち着かず、私は泣き止むことができず、スマホにぽろぽろと落ちる涙を拭きながら、ネット検索をした。
『流産　原因』『流産　心拍停止』

ネットで調べて分かったことは”稽留流産”だということ。
妊娠が12週を超えた場合は、初期流産ではないこと。
初期流産の原因の多くが染色体異常に対して、
12週を超えた流産は母体にも何かしらの原因があるという。
私は、妊娠する前から、甲状腺機能亢進症を患っている。服薬もしているが、甲状腺専門の医師に妊娠の旨は伝えていて、それは産婦人科医師とも連携されている。

産婦人科医師は、今回の原因は不明だと言っていた。染色体に異常があったのかもしれないし、薬が問題だったのかもしれないし、ストレスが原因かもしれないし、それは分からない、と。

私がおなかの赤ちゃんを殺したんだと思って自分を責めた。私が無理をしてしまったんだ。
ちょっとの体調不良で休憩をしなかった自分、まだ大丈夫と重い物も持った。
発熱もした。軽い風邪だと思い病院へ行かなかった。
夫婦喧嘩もした。大きな声を出して、赤ちゃんをびっくりさせたかもしれない。

私は、その２日後に入院した。
つわりもなくなり、お腹のふくらみもなくなった。
ただただ、悲しみと虚無感だけが私に残った。

｢稽留流産｣
初めての経験だった。
動いていない赤ちゃんを出産しなければならない現状に言葉にならない恐怖を覚えた。

入院当日。
麻酔無しで子宮口を開く処置も酷く痛い。
何度も処置を繰り返すうちに、私がとうとう痛みで根を上げた。
医師が麻酔での出産を許可してくれた。

麻酔が切れて目が覚めた時、助産師さんが産まれてきた子を見ますか？と聞いてくれたが、私はたくさん悩んで、見ないことにした。

縁が無かったんだ。
私はこの子の親に相応しく無かったんだ。
私のお腹の中で辛かったよね。
ごめんね。

何度も心の中で呟いて、私は退院した。

旦那はしきりに私のせいじゃないと慰めてくれた。
あとから聞くと、自分も辛いけど、私の方が辛い筈だと思ったと言われた。
まずは私を支えることを優先してくれたことは、感謝してもしきれない。

妊娠して無事に出産し、問題なく赤ちゃんが育つ保証なんて、最初から無いんだと気付かされた。

今、稽留流産と診断されて悲しんでいる方に伝えたい。

あなたは悪くない
自分を責めないで
よく頑張ったね
赤ちゃんは天使になったの
あなたのお腹にいた時間は、かけがえのない時間
きっと幸せだった筈
そして天国でも幸せになっている筈
今はいっぱい泣いて
いつか心と体が休まることを願ってるよ