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一昔前のコクランレビューではなんて言ってるの? #不妊治療と鍼灸

 鍼灸師の松浦知史と申します。
 前回は2022年に発表されたシステマティックレビューの研究を読んでみて、女性不妊症の患者さんに対して鍼治療が有効であることが分かりました。

27件のRCT(7,676人)について検討しました。その結果、主要アウトカムすべてに(臨床妊娠率、生化学的妊娠率、継続妊娠率、生児出生率)鍼治療が有効であることが分かりました。

Kewei Quan, et al., Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. 2022

 さて、話は変わりますが、約12年ぶりとなる改訂がなされ、2024年3月に発売された『図解鍼灸療法技術ガイドⅡ第2版~臨床の場で役立つ実践のすべて』をウキウキしながら購入して読ませていただきました。

 鍼灸の代表的な総合鍼灸技術書として最新の知見を盛り込んだ内容となっており、鍼灸学生の教科書にも採用されています。非常に幅広い内容を網羅的しており、「第11章 疾患別鍼灸臨床の実際~第4節 神経疾患・精神疾患」の『うつ病』の項目に関しては私の兄(松浦悠人:東京有明医療保健医療学部鍼灸学科 助教)が担当しました。
 そして「同章 第7節 婦人科疾患」に不妊症の記述がなされています。「最新の知見にはどんな内容が含まれているんだろう?」と確認したら、2000年初頭の基礎実験に関することと、2013年に発表されたコクランライブラリーに掲載されている成果が掲載されていました。
 「・・・え?」と思ったのは私だけじゃないはずです。不妊治療は最先端分野でもあり、世界的に見ても鍼灸の研究が盛んに行われているため、短期間でコンセンサスが変わってしまうこともしばしばあるため、最新の研究を網羅する必要があります。「10年前の研究からみると何がどの程度明らかになってきていて、どのような研究が今後必要になってくるのか?」や「ここまで分かっているけど、ここから先は分からない」などもっと記述があっても良かったのかなと思いました。

 せっかくなのでコクランライブラリー(※)2013に掲載された論文をご紹介させていただきます。

※コクランは、1993年に英国で設立された質の高いエビデンスに基づく医療上の意思決定を推進する国際的非営利団体です。PubMedや医中誌は一次論文を網羅的に探すことができるのが特徴ですが、コクランレビューはその中でもエビデンスレベルの高いシステマティック・レビュー論文を集めているため、エビデンスが高いのかどうかを確認するのに優れていると言えます。

https://www.cochrane.org/ja/evidence

論文の紹介

 Cheongらは、2013年までに行われた、高度生殖医療を受ける患者の鍼治療のエビデンスをメタアナリシス(MA)によりまとめました。

タイトル

Acupuncture and assisted reproductive technology.

Cheong YC, et al., Cocharane Database of Systematic Reviews 2013.

 日本語に訳すと、「鍼療法と生殖補助技術-コクランライブラリー2013-」となります。

まずは結果を見てみましょう。


鍼群は、無治療群に比較し、生児出生数が有意に多かったが、偽鍼群との間には有意差がなかった。また、不妊症に対する鍼灸治療のエビデンスに関して、胚移植前後と採卵時の鍼のMA(メタアナリシス)では、鍼治療による妊娠率と出生率の向上、流産率の低下に関するエビデンスは十分に示されていない。


 要約すると、鍼治療の妊娠率に対する効果は十分とは言えないと結論付けられています。

検索エンジンと期間

 Menstrual Disorders and Subfertility Group Specialised Register、CENTRAL、Ovid MEDLINE、EMBASE、CINAHL(Cumulative Index to Nursing & Allied Health Literature)、AMED、www.clinicaltrials.gov(開始から2013年7月まですべて)、National Research Register、Chinese clinical trial database(開始から2012年11月まですべて)の検索により入手しました。

研究の特徴

 20件のランダム化比較試験が選択されました。この内、6試験が採卵時(912例)における鍼治療を比較、14試験が胚移植時(3632例)における鍼治療を比較しています。対照群は、プラセボ鍼を使用した研究と、無治療とに分かれました。すべての研究は体外受精(IVF)を行った参加者を対象とし、排卵誘発または人工授精に対する鍼治療の効果を報告した研究はなかったです。

評価

 出生率(メインアウトカム)、臨床妊娠率、継続妊娠率、流産率、副作用を評価しました。

主な結果

鍼群は、無治療群に比較し、生児出生数が有意に多かったが、偽鍼群との間には有意差は認められませんでした。

Forest plot of comparison: 2 Acupuncture on and around the day of ET versus control, outcome: 2.1 Live Birth.

不妊症に対する鍼灸治療のエビデンス

 胚移植前後と採卵時の鍼のMA(メタアナリシス)では、鍼治療による妊娠率と出生率の向上、流産率の低下に関するエビデンスは十分に示されませんでした。

この論文を読んでの私見

 このコクランライブラリーに掲載されている成果を参考に一部ご紹介させていただきます。
①ET時(ET前後の2回)の鍼治療のRCT
 世界で初めてPaulusらは、臨床妊娠率の増加を報告しました。これについては、第2回の鍼灸論考で記述させていただきました。

②採卵時(採卵前)の鍼治療のRCT
 EAによる臨床妊娠率の増加が報告されましたが、対照群と鍼治療群で臨床妊娠率に差がなかったとも報告しています。また、採卵時の痛みや嘔気・ストレスは、鍼治療群で有意に低下することが示されていました。

③数回にわたる継続的鍼治療のRCT
 継続的な治療に関する報告は少ないと触れられていました。4回のEAは臨床妊娠率を増加させませんでしたが、子宮動脈のpulsatility index(PI)値が低下、つまり子宮血流が増加したことが示されていました(Ho M, et al., Taiwan J Obstet Gynecol. 2009)。

 最終的にこのコクランレビューでは、胚移植時および採卵時の鍼治療は、臨床妊娠率、継続妊娠率、出生率、流産率に影響を及ぼさないと結論付けいていますが、2024年6月現在でも同様のことが言えるのか疑問に感じました。

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