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鍼灸で質の良い卵子を採卵するために #不妊治療と鍼灸

 鍼灸師の松浦知史と申します。
 第5回の鍼灸論考では、「卵巣刺激低反応の患者に対する鍼治療:ランダム化比較試験」を紹介させていただきました。

 卵巣刺激低反応(POR)の説明に関しても第5回の鍼灸論考で行いました。POR患者は、累積回収卵子数が増えれば生児獲得率が高くなることがわかっていますが、一回に移植できる胚が複数用意できないことから、採卵・胚移植を重ねる間に年齢も重ねてしまい、より卵子がとれなくなったり質が低下したりする可能性があるため切実な問題です。
 2023年にPOR患者に対する鍼治療のシステマティックレビューが発表されたので、エビデンスの現状や現段階での結論はどういったコンセンサスが得られているのかを今回はお伝えできればと思います。


この論文のポイント

  • このレビューには 7 件の研究 (516 人の POR 患者)が含まれ、メタアナリシスによりPOR患者に対する鍼治療の有効性が調査されました。

  • 本研究の結果からPOR患者は鍼治療によって採卵数を増やし、着床を成功に導く子宮内膜の厚みを増すことによって着床率を改善することに有益であることを示すことができました。また、統計的には有意差は認めませんでしたが、周期キャセル率を低下させる傾向がみられました。

  • 性ホルモンに関しては、鍼治療によってFSHを大幅に低下させる可能性があることがわかりました。



論文の紹介

 2023年に発表されたPOR患者に対する鍼治療のシステマティックレビューです。

タイトル

Systematic review of acupuncture to improve ovarian function in women with poor ovarian response.

Wang RR, et al., Frontiers in Endocrinology. 2023

 日本語に訳すと、「卵巣刺激低反応の患者に対する卵巣機能改善のための鍼治療-システマティックレビュー-」となります。

検索戦略

対象期間:2023年1月30日まで
文献データベース:MEDLINE(PubMed経由)、EMBASE、Allied and Complementary Medicine Database、CNKI、CBM、VIPデータベース、Wanfang Databaseなどの関連研究などデータベースを検索しました。

適格基準

 本研究では、IVFを受けているPOR患者を対象に、ランダム化比較試験(RCT)を対象としました。

評価項目

主要アウトカム:臨床妊娠率(CPR)
二次アウトカム:受精卵数、採卵数、良質胚率、着床率、子宮内膜の厚さ、周期キャンセル率、COHに使用されるGnの投与量と期間
内分泌系・卵巣予備能の検査では、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、エストラジオール(E2)、胞状卵胞数(AFC)、抗ミュラーホルモン(AMH)を評価しました。
副作用:流産率

結果

 要約すると、最初の115件の論文から、厳密な選択プロセスの結果、7件の研究が最終解析に組み入れられました(図1)。

図1

研究の特徴

 7件の研究は、2009~2022年までに発表され、合計516人の参加者がいました。6件の研究は中国で行われ、残り1件は韓国で行われました。

研究の質

 本レビューに含まれる研究のバイアスリスクを示したものです(図2)。全体として、組み入れられた研究の質は概して低いか非常に低いと評価されました。 研究デザイン、集団、介入、アウトカムにばらつきがあったためです。

図2

主要アウトカム

臨床妊娠率(CPR)
2件の研究で評価しました。
鍼治療にCOHを併用するとCPRは改善しましたが、COH単独と比較した場合に有意差は認めませんでした(p>0.05)。

臨床妊娠率

二次アウトカム

受精卵数
7件の研究で評価しました。
・有意な結果
- Zhouの研究では、鍼治療+COH併用群の受精卵数が有意に高かったです(p<0.01)。- Chenらの2009年の研究でも、鍼治療+COH併用群の受精卵数が有意に高いことが報告されています(p<0.05)。

・有意ではない結果
- Zhuの研究では、統計学的に有意な差はなかった(p>0.05)。
- 残りの4つの研究では、介入群と対照群の受精卵数に有意差は認められなかった(p>0.05)。

採卵数
7件の研究で評価しました。
結果:鍼治療+COH併用群では、COH単独群と比較して、回収された卵子数が有意に多かったです(MD=1.02, 95%CI [0.72, 1.32], p<0.00001)。

採卵数

良質胚率
6件の研究で評価され、469人が参加者が分析されました。
・有意な結果 
- 4つの研究では、介入群では対照群と比較して良質胚率が有意に高かったです。

・有意ではない結果
 - 2つの研究では、介入群と対照群とで統計的に有意差は認められなかったです。

着床率
2つの研究で評価されました。
鍼治療+COH併用群では、COH単独群と比較して、着床率が有意に高かったです(RR=2.13, 95%CI [1.08, 4.21], p=0.03)。

着床率

子宮内膜の厚さ
3つの研究で評価されました。
鍼治療+COH併用群では、COH単独群と比較して、子宮内膜の厚さが有意に厚かったです(MD=0.54, 95%CI [0.13, 0.96], p=0.01)。

子宮内膜の厚さ

周期キャンセル率
4件の研究で評価されました。
4件の研究すべてにおいて、鍼治療+COH併用群における周期キャンセル率は対照群と比較して減少傾向を示したが、統計的に有意差は認められませんでした(p>0.05)。

COHに使用されるGnの投与量と期間
- Gnの投与量
鍼治療+COH併用群とCOH単独群では、統計的に有意差は認めませんでした(MD=-19.68, 95%CI [-164.224, 124.87], p>0.05)。

- Gnの期間
鍼治療+COH併用群は、COH単独群と比較して有意に長かったです(MD=0.47, 95%CI [0.00, 0.94], p=0.05)。

Gnの期間

卵胞刺激ホルモン(FSH)
4件の研究で、321人の参加者が分析されました。
鍼治療+COH療法群のFSH値は、COH単独群より有意に低かったです(MD=-1.52, 95%CI [-2.41, -0.62], p=0.0009)。

FSH

黄体形成ホルモン(LH)
5件の研究で評価されました。
鍼治療+COH併用群とCOH単独群では、統計的に有意差は認めませんでした。

エストラジオール(E2)
3件の研究で評価されました。
鍼治療+COH療法群のE2値は、COH単独群より有意に高かったです(MD=1667.80, 95%CI [1578.29, 1757.31], p<0.00001)。

胞状卵胞数(AFC)
3件の研究で評価されました。
鍼治療+COH療法群のAFCは、COH単独群より有意に多かったです(MD=1.49, 95%CI [1.04, 1.95], p<0.00001)。

AFC

抗ミュラーホルモン(AMH)
鍼治療+COH併用群とCOH単独群では、統計的に有意差は認めませんでした。

副作用:流産率
鍼治療+COH併用群とCOH単独群の流産率を報告した研究は1件のみであった。 その結果、両群間で流産率に差はなかったです(p>0.05)。

この論文を読んでの私見

 このレビューには 7 件の研究 (516 人の POR 患者)が含まれ、メタアナリシスによりPOR患者に対する鍼治療の有効性が調査されました。
 この研究で鍼治療がPOR患者の性ホルモン状態や卵巣機能をある程度改善できることがわかりましたが、含まれている研究で行われた介入方法に一貫性がなく、また、サンプル数が少なく、最終的にエビデンスレベルが低下してしまいました。
 本研究で、POR患者は鍼治療によって採卵数を増やし、着床を成功に導く子宮内膜の厚みを増すことによって着床率を改善させることに有益であることを示しており、この結果は、Lianらの既報とも一致しました。Lianらは、「鍼治療によって回収卵子数が増加し、受精卵数が改善したこと、また子宮と卵巣の局所的な血液循環が改善したことを報告しましたが、良質胚率に対する鍼治療の効果は、依然として不明である」と報告しました。これらの効果を明らかにするためには、サンプル数を増やし、より厳密な研究を行うことが望まれます。

 性ホルモンに関しては、鍼治療がFSHを大幅に低下させる可能性があることがわかりました。ある研究では、鍼治療がPOR患者のFSHを大幅に低下させ、神経内分泌系の調節を行うことができると報告されています。鍼治療のメカニズムに関しては第6回で記述したので参考にしてみてください。

 本研究では、卵巣予備能の改善の指標にAFCやAMHを評価しました。その結果では、鍼治療群はAFCを大幅に増加させることができましたが、AMHは改善しませんでした。今後の研究では、より質の高い研究が行われることと、長期間追跡した場合での結果を示すことが望まれます。

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