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ラモトリギンの使い方

 ラモトリギンは、元々は抗てんかん薬として開発された薬ですが、使っているうちに「気分安定薬」としての有効性が見出され、双極性障害治療薬としても世界各国で承認されるようになった薬です。
 こういうパターン、実はバルプロ酸やカルバマゼピンもそうでして、これらも元々は抗てんかん薬として使われていたのですが、やはり双極性障害治療薬としても使われるようになっています。この原因としては、おそらくてんかんの病態と双極性障害の病態がある程度オーバーラップする可能性が普通に考えられますが、そうだとしても、例えば日本うつ病学会の治療ガイドライン「双極性障害」(文献1、文献リストは後述)に記載されているように、躁病エピソードにはバルプロ酸やカルバマゼピンが推奨されている一方で、ラモトリギンは「推奨されない治療」に位置づけられています。逆に、うつ病エピソードに対してラモトリギンは推奨される薬剤の1つに位置づけられているのに、バルプロ酸やカルバマゼピンは記載がありません。
 ラミクタールの作用機序としては、「Na+チャネルを頻度依存的かつ電位依存的に抑制することによって神経膜を安定化させ、グルタミン酸等の 興奮性神経伝達物質の遊離を抑制することにより抗痙攣作用を示すと考えられている」とインタビューフォーム(文献2)には書いてあるんですが、それこそカルバマゼピンもNa+チャネルを遮断しますので、その薬理作用自体が双極性障害の治療に役立っているとは思いにくいです。
 そもそも、双極性障害自体がまだ十分に病態仮説が成り立っておらず、統合失調症やうつ病以上に、なぜ薬が効いているのかよく分からない状態です。一応、ラモトリギンの総説(文献3)によれば、双極性障害ではグルタミン酸系神経伝達の亢進とアラキドン酸カスケードの上昇が病態として想定されており、それにはN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体が関与していること、そしてラモトリギンはNMDA受容体を介したグルタミン酸系神経伝達とアラキドン酸カスケードをシナプス前神経細胞の脱分極抑制などによって阻害することでアラキドン酸カスケードのダウンレギュレーションをもたらしていることが紹介されていますが、ぶっちゃけ動物実験での結果なので、実際のところどうなのかは統合失調症の「ドパミン仮説」ほどしっかりした仮説にすらなっていないというのが私の認識です。
 でも、心配しないで下さい。確かに、薬剤師としては薬理学的病態学的になぜ薬が効いているのか分からないというのはとても気持ち悪いような、もどかしいような感じがしますけども、なぜ薬が効いているのか分からなくても治療に役立てることができるのが臨床疫学であり、臨床医学論文です。つまり、双極性障害の治療をするならば、薬理学だとか病態生理学だとかをいくら勉強してもそれは大して役に立たないことが多いんですよね(まあ薬の副作用の予測ぐらいならできますが)。ただ、臨床で起こった現象を真摯に観察し統計学的にまとめ上げた臨床疫学的研究こそが双極性障害の治療に役立つわけです。
 ということで、今回はラモトリギンのエビデンスを参照しながら、その使い方の注意点をまとめてみようと思います。

ラモトリギンの効果

 

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