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写真の「好きな色」とフィルムシミュレーションの話

写真の色の話をしよう

写真というものは一般的には現実をそのまま写すもののように思われがちだが、案外そうでもないと思う。
例えば、人間の両目の視野角は100度ほどあるらしいが、カメラに100度のレンズを付けて写真を撮ってもそれはわたし達が見ている光景とはまるで別物になる。
なぜならば、人間には中心視野と周辺視野というものがあり、解像度があり、かつ意識してしっかり見られるのは中心視野だけだからだ。
更に写真にはパースという概念があり、広角レンズでは近い被写体と遠い被写体の写り方の大きさの差が大きく、望遠レンズでは圧縮効果で遠近感が薄れる。
去年、緊張が抜けて街に出る人たちを映すために、超望遠レンズによる圧縮効果を使って実際よりも人が多くいるように見える映像を流していたメディアがあったのは記憶に新しい。

色もそれと同じで、網膜で感知し、脳で処理する現実の"色"は、レンズを通ってセンサーで捉え、プロセッサーで処理した画像と同じには成り得ない。

デジタルカメラに少し触れたことがある人なら、"記憶色"と"記録色"の違いや、"人間の目のホワイトバランス調整機能"など、人間の脳みその都合の良さを思い知らされている事だと思う。
また、ある大学の研究によればうつ病の患者はコントラストに対する感受性が低くなり、見えている色がより灰色に近くなるのだそう。

要は、「現実の色」というもの自体がすごく曖昧で、更にレンズ・センサーというプロセスを通した光はどうしても"撮影者の意図"を排除出来ず、完全にピュアな現実そのものとは言えないということだ(そしてそれが面白いところでもあると思う)

さて、2021年ももうあと2週間程だが、この時代ではInstagramを始めSNSにおいてアプリを使って写真の色味を加工したものをアップすることはとっくに浸透していて、デジタルカメラユーザー間でも"とりあえずRAW撮っておいて後で好みの雰囲気に仕上げる"というステップを踏むのがプロに限らず一般に浸透している。

そんな"撮影者の意図した色"を表現する事が手軽になった時代における"好きな色"の話をしたいと思う。


前置きが長くなってしまった。
大層なことを語ったが、わたしはそんな何でも知ってる大御所的な存在ではないし、カメラ歴たった2,3年の駆け出しのひよっこなので、「井の中の蛙が利いた風な事を語っちゃってる」と大目に見てもらえるとありがたい。

好きなフィルムシミュレーションと、それを再現しようとしてる話

9月、わたしは諸々の事情によりXマウントの機材を全部売却してNikonZに移行した。センサーサイズの向上によりもたらされる高感度耐性や階調の豊かさ、"ハズレなし"のZレンズの描写に感動しているものの、唯一心残りに感じる事がある。それは「フィルムシミュレーション」だ。

Xマウントユーザーだった頃は、Capture oneでフィルムシミュレーションをベースに多少弄ってRAWから現像していたが、他マウントに移行して"好みの良い感じの色"を出すのがいかに大変か身に染みた。
ちょっと彩度やコントラスト、ホワイトバランスを調整するだけでは当然ああいう"特徴的でありつつも虚構的ではなく、世界観を表現する統一感のある色"にはならないのだ。

特にわたしは「クラシッククローム」の色が好きで、Nikonに移行してからずっと「クラシッククローム」の色を再現すべく試行錯誤している。暇な時にフジ機で撮った写真のカラーを調整し、ただクラシッククロームを適用しただけの写真と見比べる。こうして作成したプリセットをZ機で撮った写真にも適用する作業を繰り返す。

無論、フィルムシミュレーションは何十年の色の研究と向き合った結果編み出されたものだから、そう易々と完全再現が出来るわけではないし、他社製カメラではセンサーが違うので全く同じ色には絶対にならないとは思う。しかし方向性を寄せることは出来るはずだと考えたわけだ。

富士フイルム機を使っていた時は「ああ、この雰囲気が好きだ」と何も考えずにクラシッククロームを使っていたが、他社のカメラでそれを再現しようとすると、色相がどうとかコントラストがどうとか、他のフィルムシミュレーションと比較して色でどういう特徴を付けているか、詳しく分析するようになった。

こうして他マウントに移行して、外から改めてフィルムシミュレーションの世界を俯瞰・分析してみると、思いの外新鮮だったので記事にした次第だ。

各フィルムシミュレーションの印象(偏見あり)

①PROVIA

スタンダードと銘打ってあるように「無難に良い思い出の写真」の色をしている。自然の写真を撮ると緑は明るく黄み掛かり、空は若干マゼンタが入っているようで生き生きとして見える。「この世界大好き!最高!」という意識が伝わってくる。鬱陶しいが冬は中和されてとてもちょうどいい色合いに映るように思う。
陽キャのVELVIAの話が通じそうな弟分みたいな発色。季節で言うなら4月末〜5月上旬。潤っている色。

②VELVIA

自然の緑も空の青もコテコテ。空はマゼンタの入り方がすごい。夕焼けと青空のグラデーションを撮ると空がピンクというか紫になるのでわかりやすい。個人的にはあまり好きではない。陰キャなので。
イケイケのウェイ系陽キャの発色。なんなら少しアルコールが入っている。季節で言うなら8月上旬。潤いすぎて脂ぎっている。

③ASTIA

富士フイルム曰く軟調寄りらしいが彩度が高いのであまりそう見えない。
PROVIAとの違いがわかりにくい。昔ウェイ系だった奴が結婚して子ども出来て多少落ち着いちゃってるみたいな発色。季節で言うなら3月中旬。あんまり使わなかった。

④ProNeg.Hi

あまり使わなかったのでよくわからない。

⑤ProNeg.std

フジ機で撮った写真の3割はコレだった。
カラーを足してWBを青&緑方向に少し振るととても透明感と無機質感があって好きだった。
PROVIAから陽キャ成分マゼンタを少し抜いてシャドウを柔らかくした感じ。無機質が特徴。好き。

レンズとの相性が良いのかも(全部touit32mm f1.8)

⑤ETERNA

良く言えばドリーミー、悪く言えば眠い。正直とても好き。フジ機で撮った写真の3割がこれ。陰キャというか世の中で生きていくには優しすぎる子。PROVIA・VELVIA・ASTIAが陽キャ3兄弟だとしたらETERNA・CLASSIC CHROME・CLASSIC Neg.は陰キャ3兄弟だと思う。
若干アンバーに寄ってるが嫌味ったらしくない。とにかく軟調。レンズで言うならxf60mmf2.4はよく合うと思う。

⑥CLASSIC CHROME

愛しのクラシッククローム。撮った写真の3割はこれ(残りの1割は、その他。)PROVIAが「この世界大好き!」という色をしているのに対して「この世界はク◯」という感じの発色。退廃的で、陰キャ。乾いている。
空の青はシアンよりに、緑は黄色みが抜けて青よりに落ち着く(ように見える。少なくともPROVIAよりは)

赤の解釈が難しい。個人的にはクラシッククロームの赤は好きだ。しかしマゼンタの陽キャ成分が徹底的に抜けていて、赤が弱い発色のように見える。
そして全体的にハイライトは柔らかめ。シャドウはカタメ。コントラストマシマシ。
季節で言うなら1月か2月。現代のパキパキ解像レンズの方が合うと個人的には思う。

空の青の参考画像


緑の参考画像

好きな「クラシッククロームの赤」の参考画像

赤が良いのはレンズのおかげか…?(1,2,5枚目…xf16-80mm・3,4枚目…xf90mm)

⑦CLASSIC Neg.

色は好きだがほとんど使ってないのでわからない。
フィルムに馴染みが無く、"フィルム=懐かしい"にならないのでただただ色のクセが強いフィルムシミュレーションに見える。ただ青色は好きだ。
発色はどちらかというと陰キャの系列だがサブカルオタクとして界隈で堂々と生きてるような発色。

⑧ACROSS

モノクロだし、説明は割愛。

まとめ

以前の記事で、フィルムシミュレーションについて、

デジタルカメラ故の便利さ・自由度の高さと、作品として表現する上での統一感を、フィルムメーカーの技術によって高いクオリティで両立させているのがフィルムシミュレーションという認識だ

という事を書いたが、その認識は今でも変わっていない。やはりわたしはクラシッククロームが好きで、それ以外にはさして興味がない。わたしには合わないと感じる。

そしてその好きなフィルムシミュレーションや好きな写真がどういう構成で出来ているかを分析・体系化・言語化してみると意外に多くの発見があった。新しい好きな色を模索してみたり、パッとしない印象の発色の写真の調整をするのに役に立つだろう。
わたしの場合はそれがクラシッククロームだったが、ある人にとってはVELVIAかもしれないし、CLASSIC Neg.かもしれない。或いは、他社のカメラでネットに作品をアップしている高名な方の写真かもしれない。

また、フィルムシミュレーションは色の調整だけではなくコントラストやシャドウ・ハイライトの調整も同時に行う。
わたしも作ったプリセットをZ6のRAWに適用して試行錯誤しているが、その辺りはセンサーによる情報量の差が大きいようで、そのまんま適用しても効果が強すぎたり丁度良かったりまちまちになる。

個人的には、ハイライトをマイナスに振って白飛びを抑えるのはもちろんだが、"退廃的でありつつも少し優しい雰囲気がある写真"になる方が好みなので、シャドウをプラスに振ってコントラストは弱めに調整している。クラリティー(明瞭度)を僅かに+にするとキリッとした印象は残る。最初に書いたように、完全な再現はどうせ出来ないのだから、最終的には自分好みに改造してしまう方が良いと思う。どこまで行ってもコピーは所詮コピーだし、本物を使った方が手っ取り早いという話になる。ならいっそ、オリジナリティを持たせた方がいいのではないか。そもそもフィルムシミュレーションすら、フィルムのコピーをデジタル時代に最適化したものだし、その要素も自分が思うように表現する上でのほんの少しの過程に過ぎないのだから。

こうして自分の"好きな色"を作れるようになると、自分が表現する写真や、作ったプリセットに対して愛着が増すようになると思う。少なくともわたしの場合はなった。今作っているプリセットが、名店の秘伝のタレのように長い時間をかけて試行錯誤し育っていくのが楽しみだ。
この記事を読んでもらっている方々がわたしより何十年も先輩の上級者の方か、或いは最近カメラを買ったばかりの初心者の方かはわからないが、自分の好きな色を見つめ直すきっかけになれば嬉しい。

取り止めのない話になってしまったが、最後にわたしがNikonZ6 + 50mm/f1.8 S、CONTAX Sonnar T* 180mm F2.8で撮って、クラシッククロームを再現しようと作ったプリセット(バージョン9)を適用した写真を貼る。あまり撮りに行けてないので作例が少なくて無くて申し訳ない。

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