見出し画像

【インタビュー】緊急事態宣言で生死をさまよって一変した私の人生観

はじめに

2019年12月以降から世界中に感染が拡大した「新型コロナウイルス感染症(以下、「コロナ」)」によって、私たちの生活は一変しました。
 東京都では2020年4月上旬に「緊急事態宣言」が発令され、同月中旬にはその対象地域を全国に拡大しました。

多くの企業は休業を要請されましたが、ライフラインを維持する企業・店舗は、従来どおり営業することを求められました。その一つが「銀行」です。

今回は、ある銀行にお勤めのAさんに「コロナで変わった私の生活」をテーマにお話を伺いました。
 実は、Aさんは今回「緊急事態宣言」の影響で人間ドックの受診が延期となり、病気の発見が遅れ生死の境をさまよった経験をされました。
 この入院生活で、人生で本当に大切にしたいことが見えるなど人生観が一変したそうです。

 現在のお仕事について教えてください

支店窓口でお客様の対応をする25名の担当者のマネジメントをしています。お客様対応後の事務処理も担っています。また、外回りをする営業部担当者の事務処理をすることもあります。

 緊急事態宣言が発令されたとき、ご来店のお客様に何か変化はありましたか

発令直後は、例年の1.5倍の来店者がいらっしゃいました。当時は、ほとんどの店舗が閉店して、外出できる機会が減ったせいか気分転換にご来店されているのではないか?というお客様が増えました。

普段なら1人でいらしていたお客様が家族連れで来店される、緊急性が低い内容にもかかわらずお越しになるなどの理由で、店舗に入店できるまで「1時間待ち」という混乱が起きました。

外出が出来ない状態ですから、皆さん自宅を掃除されるのでしょう。その際にタンスの奥から出てきた通帳をお持ちになり「残高を確認したい」など、全く緊急性が高くない内容でご来店される方も多かったです。

画像1

 混乱状態だったわけですね。銀行はどのように対応なさっていましたか?

 まず、入口と出口を一方通行にして、お一人ずつ入口でご用件を伺うことにし、「緊急性が高い」内容の方だけ入店していただくようにしました。

 例えば、定期預金はATMでは引き出せませんから「収入が激減してしまって定期預金を解約しないと生活できない」というようなお客様だけを窓口にお通ししました。どうしても窓口でないと手続きができない用件以外の方は、ATMをご案内するか、別の機会にお越しいただくようにお願いさせていただくこともありました。

 また、店内が「密」にならないようにレイアウトも変更。当時は、パーテーション用のアクリル板も入手できませんでしたから、ホームセンターでビニールシートを購入して手作りでした。

画像2

 そのような状況で、部下の方をまとめるのはご苦労されたのではないですか?

 はい。つくづく「緊急事態のときに、人の本質が見えるのだな」と強く感じました。
接客をする部署ですので、行員たちの安全を考慮してマスクを配布していましたが、当時は数を確保するのに大変。それでも、なんとか平等に行きわたるように配慮していたんです。

しかし、中には「家族の分もください」と無理を言う人、「他支店は●枚配っていると聞くのに、どうして私たちはそれより少ないんですか」と不平を言う人も。

 また、3交替・2交替制とシフトを組み替えながら営業をしていましたが、組み替えのタイミングによって、どうしても「出社日数」に差が出てしまいます。その時に「●●さんは◇日なのに、私は◆日なんてズルい」と言う人もいました。

 逆に、状況をよく理解して、非常に強力的だった部下も居て、つくづく「緊急事態の時にその人の本質が見える」のだと実感しました。

画像3

大変ストレスフルな状況だったと思いますが、どのようにして乗り越えたのですか?

「ON/OFF」の切り替えですね。当時は、1日ごとに出社と自宅待機を繰り返しでした。自宅待機の日も外出ができませんでしたから、しっかりと休むようにしました。

 また「1人で抱え込まないこと」も心がけていましたね。このような事態ですから、隣のチームの同じような立場の方も似たようにご苦労されていました。お互いに情報共有をして、困ったときにはお互いに協力。

 また、理不尽な要求をされたときも上司が「盾」となってくださいました。

大変な状況ではありましたが「決して1人で仕事をいるわけではない、チームでこの状況に立ち向かっている」と思えており、そんなにストレスにはなっていませんでした。

 また、コロナ禍は「全人類が同時に迎えている災害」ですし、ある意味では「世界規模の大きな変革の時」でもあるわけです。おそらく私たちの世代で同じ規模の事象は後にも先にもないでしょう。

考え方次第では「とても貴重な時代を生きているのかもしれない」とも言えます。そう思うと、日常のことが小さく感じられたことも、あまりストレスにならなかった理由かもしれません。

目の前で起きていることを俯瞰的にとらえていたから、冷静に対処できたということですね

 今まで、自分の興味を深めるために個人的に心理学を中心にいろいろと学んできました。そうした知識が、近視眼的になることを防いでくれたと思います。これらの勉強は直接今の仕事には関係していませんが、学び続けていて良かったと感じました。

プライベートの面では、何か変化はありましたか?

 実は、先月中旬から今月にかけて入院をしたのですが、この経験が人生観を大きく変えました。
 本来は、毎年4月に人間ドックを受診していました。でも、今年はコロナの影響があり、人間ドックが延期になったんです。とりたてて具合が悪いところもなかったし、秋には受診できると聞いていたので、特に気にしていませんでした。

 ところが、8月に入って、怪我をしたわけでもないのに片足が急に腫れあがったんです。なかなか治らないので、整形外科に行って検査しましたが、何も異常がない。

しばらく様子を見ていましたが、今度は目の下が腫れ上がり、これはおかしいということで、大きな病院に行きました。すると、血液に異常が見つかり、その日のうちに入院するように言われました。

 そこから3週間に渡って入院したのですが、当初は原因も不明、主治医も「こんな数値は見たことがない」という状態。本当に不安で「もう、死ぬかもしれない」と思いました。

画像4

 もし、4月に人間ドックを受診できていたら、ここまで悪化していなかったかもしれなかったということですか?

 発病のタイミングが分かりませんので何とも言えませんが、もしかすると4月の時点で人間ドックを受けていたら、ここまで悪化していなかった可能性は非常に高いです。
 おかげさまで、その後、原因が分かり治療の効果も出て、現在ではほぼ正常値に戻ることができました。

入院中にはどのようなことを考えていらっしゃいましたか?

コロナ拡大防止のため入院中は家族でさえ面会が禁じられていましたし「私、このまま死ぬかもしれない」と思ったとき、真っ先に思い浮かぶのは家族のこと。

 それから、「やり残したこと」が頭に浮かびましたが、これが自分でも意外な内容ばかりでした。 死を意識したときに思いつく「やり残したこと」って、実はものすごくささいなことばかり。

 例えば「●●に連絡をすれば良かった」とか「両親ともっと散歩すれば良かった」「自分が持っている知識を発信しておけば良かった」「もうちょっと人に甘えておけば良かった」ということ。

「死」を意識した時に心に浮かんだ「やり残したこと」は、実は、やろうと思えば、いつでも出来ることばかりなんです。

画像5

 そして今までの望みと言えば「もっと海外旅行に行きたい」とか「もっと良いブランド物が欲しい」「もっと素敵なホテルに泊まりたい」ということでした。

 それなのに「死」が目の前になったときの望みは「生きていたい」「健康でいたい」「家族と過ごしたい」でした。でも、実はこれは今までも既に手に入れていたことだったんです。

 今回の入院は、とても不安な経験でしたが、おかげで「今、既に私は満たされているんだ」ということと、本当にやりたいことは実はいつでも出来ることに気が付くことができ、私の人生観は180度変わりました。

文字通り「コロナによって人生が一変した」という経験をなさいましたが、そこから得たものを教えてください。

 仕事面では会社では周りの方々にサポートしていただいたからこそ、緊急事態を大きなストレスもなく乗り切れました。
 また、入院生活でも主治医や看護師の方を始めとした方々に本当に良くしていただき、人の温かさを知ることができました

また、なかなか人と会えない環境になったからこそ「本当に会いたい人」とだけ連絡をとるようになったことを考えると「自分が本当に大切にしたい人・コミュニティ」がはっきりと見えたというのも収穫です。

 そして、今回の入院をきっかけに「食」に興味が出てきました。当たり前のことですが、私たちの体は「食べたもの」によって出来ている。今まではそのことを頭では理解していましたが本当には分かっていなかった。だから、さっそく「食」について学ぶ予定を立てています。

 「やりたいこと」は「いつかやろう」ではなく「今やる」。これを強く感じているところです。

終わりに

 緊急事態宣言の最中にも、私たちのライフラインを維持するために通常通りの仕事を続けていた方々がいらっしゃいました。
 その中の1人であったAさんは、仕事面では非常に多忙な日々を過ごしただけではなく、一時期は「死」を身近に感じるような経験をされました。取材のなかで「今は何が大切か、何をすべきかがハッキリしている」ととても清々しい笑顔でお話されていたのが大変印象的でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?