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「市谷の杜 本と活字館」を訪れる

2021年2月11日にオープンした「市谷の杜 本と活字館」に行ってきました。

ここは大日本印刷株式会社の市谷営業所。大日本印刷は「DNP」と言ったりします。歴史をさかのぼると1886(明治19)年、大日本印刷の前身の一社である「秀英舎」が、東京・市谷に出版印刷の製造拠点を構えました。
「秀英舎」というのはあの「秀英体」の活字を作った会社。モリサワやFontworksやAdobe Fontsにも入っている、「DNP 秀英明朝」と言ったら馴染みがあるでしょうか?ひらがなの「い」「な」「は」の筆脈がつながっている、あの「秀英体」です!

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かつてフォント(活字)というものは、出版印刷会社が自社の出版物のために作り、所有するものでした。現代の私の感覚だと、フォントはフォントメーカーが作るものなのですが、当時は、文字をつくることが即座に印刷物となることに結びついていました。あの印刷会社に頼めば、あのフォントが使える。といった感じでしょうか。
「秀英体」は100年以上の歴史をもち、活版印刷から写植、そして現在のデジタルフォントへと、時代とともに生き、改良を続けてきた書体です。

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『一〇〇年目の書体づくり―「秀英体 平成の大改刻」の記録』
この本でちゃんと予習してきましたよ!

秀英体の原図や母型が、さらに活字をつくる機械が見られるということで、期待に胸をふくらませて行きました!

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この「市谷の杜 本と活字館」の建物は印刷工場だったものではありません。もともとの工場はこの建物の裏にあったそうです。(現在、ものすごい工事をしていました。新しい施設ができるのかな。)大きな時計塔が印象的なこの建物は、大日本印刷の顔として、工場の玄関になっていたものです。

寒空の下、建物の中に入ると、、、
印刷をする大きな機械が動く姿、たくさんの活字たち、それを収める木でできた棚があたたかい光に包まれていました。

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展示の内容は「作字」から始まり「鋳造(ちゅうぞう)」「文選」「植字」「印刷」「製本」といった流れで、文字を形作るところから、できた文字が組まれ、印刷物となるまでを見ることができます。

受け付けを済ませ、さあいよいよ見学スタート!

「作字」

まず文字は、5cm角の紙にデザインされます。
(上と下の「あ」「い」を見比べると、作成された年が違うようなのですが、筆を置く最初の打ち込み部分がかなり違います。)

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その原図から亜鉛の「パターン」を作ります。
(右下の「と」に 『通常の「と」とは異なる。』と書いてあるのですが、なんだろう???)

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続いて「パントグラフ」という機械で「母型(ぼけい)」を作ります。
「パントグラフ」で「パターン」に沿って文字の輪郭をなぞると、なぞった動きが縮小されて、小さな母型に文字を彫ることができるのです。

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「母型」は「活字」を製造するための型です。印刷会社の大事な宝物です。

「鋳造」

「母型」は凹んでいます。この凹みに鉛合金を流し込むと「活字」ができます。それをする機械がこちら。上から鉛合金の塊が吊されています。

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この活字を製造する「活字鋳造機」は、修理が必要なようで今は動かないそうです。でも、動かしたい!と館の人は言っていました。天井を見ると排煙口が設置されていて、鉛を溶かした時に出る熱を逃がせるようになっており、動かす気満々です!
この大きな機械から、小さな活字たちがポンポン量産されるところ、見てみたいです!

「文選」

出来上がった活字は木の棚に並べられます。(小さな活字がたくさん!これが見たかった!)

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本などの文章を組むために、「文選」と言ってこの棚から一つずつ活字を選びます。活字の使用頻度によって置く場所が分かれています。最も使用する平仮名や片仮名は中央にあります。平仮名は「の」が一番数が多そうです。文章で一番使うかな。漢字は「大出張」「出張1番」「出張2番」「小出張」といった具合に置く場所に名前が付いていました。面白いです。使用頻度が高いものは上の方にあります。今はパソコンで文字を変換すれば、次々と候補が出てきますが、活字の場合はこうやって整理していたのですね。

「植字」

「文選」された活字は続いて「植字」にまわされます。「植字」とは「組版」をすること。「文選」で必要な活字を選び、「植字」で活字を組む。このように当時は分業されていたようです。
「植字」では、本のページの大きさの枠に、活字をレイアウトしていきます。小さな活字を正確に一つずつ、とても細かい作業です。

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日本語の文字と文字の間隔は活字のボディで決まりますが、欧文の場合は単語間にスペースがあります。パソコンだと、なんとなくスペースキーを押してしまえば空白は作れますが、活字の場合は「クワタ」という金属で埋めなくてはいけません。そうしないと活字が固定されず動いてしまい、印刷するときにバラバラになってしまいます。行間は「インテル」という金属で埋めます。いろんなサイズが用意されていますね。

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文章のデザイン、読むリズムや文章の空気感はこの「植字」で決まります。
最近読んだ本『印刷・紙づくりを支えてきた34人の名工の肖像』の中に、植字工の職人さんの話がありました。“まるでキーボードをブラインドタッチするかのような速度でまたたく間に版を組み上げてしまう” そうです。日本語と外国語の混植や、様々な記号を組み合わせた化学式、電車の時刻表など、複雑な組版をこなしていた当時の職人さんの技術に思いを馳せました。

活字が組まれた版は「印刷」、そして「製本」へと進みます。
もっと印刷機を近くで見たかったなぁ。

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* * *

1時間という見学時間ではとても足りませんでした。そのくらい、一つ一つの展示が興味深く、見応えがありました。
ここには「見る」ということ以上の体験、時間が止まったような、それは郷愁ではなく、「文字」ができ、組まれ、本になる。その一瞬一瞬が形となって目の前にあることに不思議な感動がこみあげてきました

今の私たちはパソコンで文字を組みます。
キーボードを打ったその裏でパソコンは様々な処理を行い、またたく間に画面に文字が表示されます。フォントを自在に扱い、文字を変換し、改行し、レイアウトしていく。それらと同時に、すでに文字たちはなにごともなかったかのように行儀よく画面にならんでいる。専門のアプリケーションがあれば、文字の大きさも幅も文字間も行間も、いま私たちは直感的に操ることができます。

活字の時代、文字と文字のスペースを空けるために、いろんな大きさの「クワタ」や「インテル」といった道具があったことをご存知でしたでしょうか?
パソコンの組版は、画面の中であらゆるものが数値で管理されますが、活字の組版では、すべてモノとモノが組み合わさって出来あがります。私たちの見えないところにも、モノがあって工夫があるんですね。

活字を見てしまうと、「フォント」という言葉も、実に現代的な意味で使ってるんだなと感じます。私たちはフォントを扱うとき、大きさを自由に変えられる「スケーラブル」な世界しか知りません。読むときも、テレビだったりスマホだったり、ディスプレイは多様なので、文字の絶対的な大きさは忘れています。ですが活字の場合は、文字の「デザイン」と「大きさ」は常にセットです。活字の大きさが、そのまま最終的な文字の大きさとして印刷され、それを私たちは読みます。

例えば秀英明朝の「初号」というフォントは、最初に作られたという意味ではなく、活字の大きさのことを示しています。(文字の大きさを表す単位は、ポイントや級などいろいろありますが、日本では当初「号数」で表していました。)
「初号」は最も大きなサイズ(約42pt、14.75mm)の活字としてデザインされたものです。「見出し」用と言ったりします。
「五号」(約10.5pt、3.69mm)あたりが、「本文(ほんもん)」用と言われ、小説などの文章に使われます。
最も小さなものは「八号」(約4pt、1.38mm)で漢字の隣につける「ルビ」用です。

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たしかに秀英初号明朝は、横画が細く、鋭いイメージの書体ですが、これを小さくして使うと線がつぶれる可能性があります。読まれる時の大きさも考えて文字はデザインされています。(それはもちろん今のデジタルフォントも、どのように読まれるかといった、メディアや大きさを想定して作られています。)

* * *

ちょっと本題から話がそれましたが、締めます。
「市谷の杜 本と活字館」は本当に素晴らしかったです!私の質問にも丁寧に答えて頂きありがとうございました。ぜひ「活字鋳造機」が動く姿を見たいです!今後の展示も楽しみにしています。

フォントに興味のある方はぜひ足を運びましょう!
いろんな発見があるはずです。しかも無料で入れます!(要予約)


Best regards,
884tak

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