ひとり学概論
この授業は「ひとり学概論」です。よろしいでしょうか。
1発目の授業、しかも水曜の1限だというのにも関わらず、お集まりいただきありがとうございます。
定員に限りがあり、受講者を抽選という形にしてしまいましたが、みなさんは当選した人々ということでよろしいですよね。
まず、私の自己紹介から参りましょう。
私は大学生活の4年間、「ひとりでの大学生活の過ごし方」について研究してきました。
もちろん、私自身も全ての授業をひとりで受講していましたし、学部内に友達はほぼゼロ人でした。
この授業では私の経験を生かし、友達が少ないみなさんがこれからひとりでキャンパスライフを送るためのメソッドを伝授したいと思います。
えー成績評価ですが、出席100%です。
出席カードをお配りします。是非授業の感想をお書きください。
テストなんかやっても、みなさんにはどうせ過去問をくれる先輩とかいないでしょう。
しかし、この授業は出席さえすれば単位がもらえるのです。
出席はひとりでもできます。最高ですね。
「友達がいない」人を救う方法は、「友達を作る」ではなく、「ひとりでも生きやすい環境を作る」ことです。
常識ですよね。
ちょっと、後ろの方でざわついてる人たち。
そこの、帽子の。そう、君ら。
出て行きなさい。
隣の教室でグループワークやってるからそっち行きなさい。
二度と帰ってこないように。
さて、この授業では基本的に、大学生活の中でひとりでも「浮かずに」済む方法をお教えします。
大学には、群れないと単位すらとれないヌーみたいな奴らで満ち溢れています。
集団でカンニングをするようなヌー野郎もいます。キングヌーです。
そんな中でみなさんのような単独行動をする人がいたら、どうしても目立ってしまうでしょう。それはみなさんの本意ではありませんよね。
この授業では、単独行動をしつつ目立たぬように大学を忍び歩く、そんな術をお教えします。
例えば、もしヌーに突然「ここの宿題やった?」と聞かれたとしたらどう答えますか?
たとえやってたとしても、「そんなんあったっけ?笑」と答えないとだめですよ。
ヌーといえども心はハイエナなので、「やったよー」なんていったらすぐに「写していい?」とか言われます。
浮きたくなかったら常にピエロを演じ続けないといけないんです。
他にも、ひとりでグループワークに臨む時、ひとりで空きコマを過ごす時、ひとりでテストを受ける時…
ひとりが窮地に追いやられるシチュエーションは様々です。
まあ、続きは授業でお話しますね。
さて、ここでみなさんが疑問に思っていることがあるでしょう。
なぜ、私がみなさんを「友達がいない人」だと決めつけるのか。
もちろん、「ひとり学概論」という授業を引っさげてる以上、ひとりが好きな方が集まっているだろうという前提はあります。
しかし、実は私、嘘をついていました。
この授業の履修者は、決して抽選などでは選ばれていません。
この授業の履修希望を出した、先着順で選ばれています。
友達が多い方は、全ての授業を友達と受講するべく、友達との綿密な打ち合わせを重ねて時間割を形成することでしょう。
そのため、どうしたって履修登録に時間がかかってしまいます。
まして、こんな水曜1限で出席100%の授業なんてより慎重に登録することでしょう。
しかし、友達がいないみなさんはその点で「自由」なのです。
「誰かと一緒に受けたいから…」などということを考える必要はなく、ただあなたが受けたい授業を登録すればよいだけなのです。
そのため、時間割の作成も光の速さで終わらせることでしょう。
私はそんな人にこの講義を受けて欲しかったのです。
なので、先着順で受講者を選ばせていただきました。
私が私語に厳しかったのも、私語する友達がいるような人はこの授業の対象ではないからです。
普段ヌーの中に紛れる一匹狼は弾圧されますが、ここではヌーが淘汰されるのです。
そして、この「ひとりで大学生活を過ごすため」の授業を、履修期間が始まってすぐに登録し、今実際にこの教室にお越しになって、静かに授業を聞いていた方々……
もうあなたたちは、選ばれし「ひとりの中のひとり」です。
まさにオンリーワンの存在です。
みなさんは孤独ではありません。孤高です。
ようこそ、ひとり学概論へ。
普通ならここでザワザワするはずですが、みなさんザワザワを共有する友達すらいないのですね。
とても静かです。
いや無理に笑わなくていいですよ。
私の思惑通りということです。
それでは、出席カードを配布します………
サポートは生命維持に使わせていただきます…