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最後のプレゼント


「もちろん覚えてるよ!今日は君の誕生日でしょ?

去年も君は家に来てくれたよね。
確かネックレスをプレゼントしたけど、なんか微妙な反応だったよね。
実際つけてるの見たことないし……。

それでも君は『私のことを考えてくれた時間が嬉しい』とか言って無理やり喜んでくれた。

そういう優しい心が好きなんだよなあ。




で、あれでしょ?
わざわざ聞くってことは、プレゼントの催促でしょ!

ふふふ……




今年はね、プレゼント、ないんだ。





そんな顔しないでよ。

僕は前からずっと疑問だったんだ。
愛をモノで示す習慣はおかしいんじゃないかって。

君が今年、僕の誕生日にくれたベルト。
実はまだ1回も使ってない。

あれも僕の趣味じゃなかったんだ。
だってバックルがハートの形してるんだよ?
あんなの人に見られたら魔法少女にでも変身するんじゃないかと思われるよ。
でも、もらった瞬間は無理やり笑うしかなかった。

僕は君の全てをずっと好きでいたい。
なのに、君が選んだモノは好きじゃない。

そんな感情になるのが死ぬほど嫌だったし、君にそんな思いをさせるのも死ぬほど嫌だと気付いた。

君の誕生日が近づいてきて、もちろん僕は迷ったよ。
去年を超えるようなプレゼントを選べばいいだけじゃないかってね。

でもどんな選択肢を想像しても、あの微妙なリアクションが思い浮かぶんだ。

ファッション系はセンスが合わないかもしれない。
食べ物はアレルギーがあるかも。
花なんかもらって嬉しいかな?

君がほしいものリストでも公開してくれてたら便利なのになあ。まあそんな地下アイドルみたいなことしてたら普通に嫌いになるか(笑)




そこで思い出したんだ。
君の言葉。

『私のことを考えてくれた時間が嬉しい』って。

その通りだと思う。
愛はモノじゃないんだ。




もうプレゼントで思いを伝えるのはやめよう。

もちろん、“君のことを考えて”の判断だよ。

今僕がダラダラしゃべってた時間、どうだった?





その涙は、嬉しくてだよね?

違うの?





なんだ。


結局君も間違いを犯すのか。

大切なものは、目に見えないんだよ。

プレゼントがないと僕の思いを感じられないなんて。
表面的なモノしか信じられないなんて。

吸ってるタバコの銘柄とかで他人の性格決めつけてくる輩と一緒じゃん。




でも、安心して。

僕は見えるモノだけが全てじゃないと知っている。

僕は君の容姿なんかより、優しい心が好きなんだ。

今は少し混乱しているだけだよね。

きっといつか分かってくれると思う。


ね。


分かってくれるよね。


分かってくれるよね。


分かってくれるよね。


分かってくれるよね。


分かってくれるよね。


分かってくれるよね。





やっと頷いてくれた。




実は君を試していたんだ。

君が、一生僕と一緒にいられる人間か。

ほら、2人で生きていくにはどうしたって価値観を揃える必要があるだろ?

プレゼントはないと言ったけど、あれは嘘。

いや本当は何もあげないつもりだったんだ。
でも唯一、確実に君が喜んでくれるモノを見つけた。

これが僕からの最後のプレゼントだよ。

机の上を見てみて。








そう。婚姻届。



くだらないよね。
こんな紙切れで何が証明できるんだろうね。

でも、これさえあれば死ぬまで一緒にいられるんだ。

結婚しよう。

一生、他の誰のモノにもならないでほしい。
僕は君さえいれば何もいらないんだ。








え?

無理って、何が?

紙アレルギーとか?








チッ。



そっか。



わかったよ。





価値観が合わないんだから仕方ないよ。

潔く僕たちの関係は終わらせよう。

だらついたお別れは嫌いなんだ。

まあでも……せっかく家に来てくれたんだし、ちょっとだけおもてなしさせてほしいな。






実はうちにもうひとつネックレスがあるんだ。
もともと僕のモノだったんだけど、まだ使ったことないやつ。

もう愛とか気持ちとかそういうの消え失せたしさ。
さよならのしるしに、君にプレゼントさせてよ。

首に巻いてあげるから、少し目を閉じていてくれる?








ハートのバックル、君のほうが似合ってるよ。」































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