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想い出づくり。 全14話 ドラマ感想

脚本  山田太一
演出  鴨下信一、井下靖央、豊原隆太郎
出演者  森昌子、古手川祐子、田中裕子、柴田恭兵、前田武彦、児玉清、           坂本スミ子、佐藤慶 他
音楽 ジョルジュ・ザンフィル、小室等
放送年 1981年9月18日〜12月25日(全14話)
制作  TBS

「人生を振り返った時、確かな想い出が欲しい!」適齢期を迎えたOL3人が“青春の証明”を探していくドラマ。

 Paraviで全話視聴。今の時代で言えば婚活ドラマと言えば通じる、その先駆け的なドラマである。もう40年近く前のドラマなので、当時の感覚で言えば、女が20代で良い男を見つけて、仕事を辞めて、結婚するのが当然というか人生の目標みたいな世間の感覚があって、そこに警鐘を鳴らしたのがこのドラマなんだと思う。現代の感覚からすれば、もうその当たり前が通用しなくなっているわけだが、それでも頷けたり共感できるところが多々あるところはさすが山田太一だと思う。

 まず出だしが抜群におもしろかった。というよりここで女3人組に共感させるところが上手い。見るからに怪しい旅行会社に騙されて、取られた金を取り返そうとするのは、可哀想ではあるんだけど、みてて笑えるんだよな。普通であれば、シリアスに進みがちな話でも、3人の性格とか話し方で笑いに変えるというか。話が変わるけれど、少し前に、サッカー日本代表の「大迫、半端ないって」というワードが話題になったが、あれに対する芸人の松本人志の感想に近いものがある。それは、悔しさとか悲しさを、言葉にすることで笑いに浄化するというものだ。このドラマもそれに近いものがある。要するに、シリアスな要素とコメディ的な要素のバランスが絶妙なのだ。

 それに一役買っているのが、ザンフィルの音楽だろう。僕は、この方を知らなかったけれど、ルーマニア出身のパンフルート演奏者、作曲家のようだ。このドラマのために作曲した音楽が非常に合っている。少し懐かしいような、優しい音色が、登場人物の心情とぴったりだと思う。 

 吉川久美子(古手川祐子)、佐伯のぶ代(森昌子)、池谷香織(田中裕子)の3人の女の話が交互に絡みながら話が進んでいくのだが、それぞれが自分が望むような恋愛ができずに何かしらの問題を抱えている。吉川は、相手がぐーたらな男・根本(柴田恭兵)でまともな職につこうとしない。佐伯は、婚約した途端に態度が豹変した男・中野二郎(加藤健一)に失望する。池谷は、自分が本当に好きな人と出会うことができない。そして、その女の両親も三者三様で、娘が心配なあまりいろいろと文句を言ってしまう。この辺の結婚に至るまでの悩みなんかは、2020年の現在でも通用する話だ。

 個人的には、3人の中では、池谷パートが一番好きだった。田中裕子は、もののけ姫で声優として出ていることは知っていたけど、ドラマで見るのは初めてだが、めちゃくちゃ上手いし可愛い。そして父親役の佐藤慶もめちゃくちゃ良いんだよなあ。特に印象的だったのは、第8話の香織と父親・信吾(佐藤慶)の会話のシーン。父親がホステスとの色事を娘に吐露するシーンで、8分近くあるシーンなんだけど、娘と父親のセリフ、表情、仕草など一度見たら何度も見たくなる名シーンだと思う。単純に若い女に溺れたというだけではなく、職場にいる部下との距離を感じ、若さが眩しくなった、女が自分を若者扱いしてくれたというのが山田太一らしい。最終的には、青山(根津甚八)と結婚するというのは予想外だったけど、池谷の性格を表しているようで良かった。

 吉川久美子(古手川祐子)の父親は、一人娘ということで、東京で働く娘が付き合っている男が気に入らないことで実家に連れ戻したりするのだが、今時だったら、放っておく親がほとんどだろう。最終的には、ぐーたらな男に対して、定職に就きさえすれば結婚を許すまでになるのだが、こんな物分かりの良い親というのもなかなかいない。ただ、定職に就けば安定という時代ではなくなってしまったけれど。

 佐伯のぶ代(森昌子)は岩手の盛岡に嫁ぎにいくわけだが、その相手の中野二郎(加藤健一)のことを好きになれる人はいないだろう。男の俺から見ても最悪だ(笑)。靴下脱がしてくれとか、勘定払ってくれとか、婚約した途端に亭主関白のようになる男とか女とか現実的には、いるにはいるのだと思うけれども。両親が自分の娘を地方の盛岡に嫁がせることに対しては、特に何も言っていなかったけれど、少し抵抗があるような気がする。

 40年が経った今、この手のドラマはなかなか厳しいのではないか。結婚がテーマというのは古いし、今時結婚しない人はたくさんいる。一人で生きていく人も多いし、いろいろな生き方がある。それでも、今でも、結婚したいと望む人、結婚してほしいと願う人が多いことも事実だろう。そんな結婚までのもどかしいような切ない想い出が詰まったドラマだった。

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