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【吹奏楽曲解説】アンダートウ(J.マッキー)

 1ヶ月以上前の話になってしまいましたが、先日久しぶりに東京佼成ウインドオーケストラの定期演奏会に足を運びました。
 ジョン・マッキーの楽曲のみでプログラミングされた演奏会で、非常に満足度の高い演奏会でした!

 『フローズン・カテドラル』などは生で聴いてこそ良さが分かる楽曲だと思ったので、今後は(マッキー作品に限らず)生で聴く機会を積極的に作っていきたいと感じました。

 という訳で今回は、TKWOのオールマッキープログラムの演奏に感化されてジョン・マッキー作曲の『アンダートウ』という楽曲を紹介をしようと思います!

■参考音源

ユージン・コーポロン(Eugene Migliaro Corporon)指揮/ノース(North Texas Wind Symphony)による演奏

■作品について

原題:Undertow
邦題:アンダートウ
作曲:ジョン・マッキー(John Mackey)
時間:約5分
難易度:3.5
出版:Osti Music
初演:2008年5月13日シェリル・フロイド指揮/ヒル・カントリー中学校バンド(Hill Country Middle School Band)により世界初演

 曲の原題は“Undertow”とは、砂浜や岸に寄せた波が沖合に引き返す際の「引き波」を意味しています。

 テキサス州オースティンにあるヒル・カントリー中学校バンド(Hill Country Middle School Band)による委嘱作品で2008年5月13日、オースティンにあるテキサス大学ベイツ・リサイタル・ホールにてシェリル・フロイドの指揮により初演されました。

Hill Country Middle School Band(Facebookより引用)

 マッキー初の吹奏楽編曲作品である『レッドライン・タンゴ』が2004年作曲、マッキー初の吹奏楽オリジナル作品である『サスパリラ』が2005年作曲であることを踏まえると、2008年作曲のこの作品はマッキー作品の中では初期の作品ですね。
 ちなみにこの頃に作曲された人気曲として、2007年作曲の『翡翠』などもあります。

 上記名前を挙げたマッキーの初期作品を聴いてもらうと分かる通り、マッキー作品は上級バンド向けの高難易度の作品が多いのですが、この作品は中学生バンドからの委嘱作品ということもあり、中学生でも無理なく演奏できるよう比較的演奏技術を抑えて作曲されています。

 楽曲はほぼ全曲を通して7/8拍子と4/4拍子が1小節ごと交互に繰り返される作りとなっているのが特徴です。『レッドライン・タンゴ』でもそうでしたが、拍子が頻繁に変わるのがマッキー作品の特徴の一つなので、難易度を抑えたこの作品でもマッキーらしさは健在です。

 曲の冒頭はffで8小節半の前奏が演奏されます。この前奏部分からエンジン全開という感じで、マッキー作品の『アスファルト・カクテル』を彷彿とさせるような始まり方です。
 作曲したのは『アスファルト・カクテル』の方が後(2009年)なので、『アスファルト・カクテル』が『アンダートウ』の雰囲気を引き継いでいると言えます。

 前奏の後半から繰り返しベースラインが演奏している「F→G→A♭、F→G→A♭→B♭」という進行がモチーフとなってこの楽曲の中で旋律や合いの手など様々な形で使用されています。
 また、前奏が終わった後にオーボエ、クラリネット、アルト・サックスによって演奏されるF-mollの自然短音階の旋律がテーマとなっています。
 このように楽曲のモチーフとテーマは非常に分かりやすく、楽曲の作りも(テンポや拍子は変わらないものの)動-静-動のようになっているので分かりやすい構成と言えます。

 テーマが楽器を変えながら2回演奏された後、中間部はやや静かな音楽になります。先ほどベースラインが演奏していたモチーフはヴィブラフォンに引き継がれます。
 フルートのなどの木管楽器のソロを中心に静かで神秘的な雰囲気が続きます。テンポや拍子、調性、さらには使用しているテーマやモチーフまで冒頭と同じにもかかわらず音楽の雰囲気をガラッと変えられるはさすがマッキー、と言ったところでしょうか。

 中間部が終わると再び「F→G→A♭、F→G→A♭→B♭」のベースラインが金管・木管低音楽器に移り、冒頭の雰囲気の音楽が戻ってきます。
 曲の前半よりも打楽器の合いの手が激しく入り、曲のテンションが終盤に向けて徐々に高まってきます。
 テンションが最高潮に達したところで打楽器アンサンブルの区間が現れます。なんと16小節間もの間打楽器のみの演奏となり、非常に印象的な部分です。

 打楽器アンサンブルが終わるとしばらく4/4拍子で楽曲前半のテーマが再現されますが、曲の終盤では再び7/8拍子と4/4拍子が入り乱れる音楽になり、最終的にはすべての楽器で駆け抜けるように力強く曲が閉じられます。

■収録CD

・ユージン・コーポロン指揮/ノース・テキサス・ウインド・シンフォニー
『ジョン・マッキー作品集』[GIA Publishing CD-996]

 冒頭の参考音源で紹介した内容が収録されたCD。『アンダートウ』の他に『ワインダーク・シー』『翡翠』『オーロラの目覚め』『レッドライン・タンゴ』などが収録されており、マッキーの代表作を網羅的に聴くことができます。

・シズオ・Z・クワハラ指揮/フィルハーモニック・ウインズ 大阪(オオサカン)
『吹奏楽のための交響曲「ワイン・ダーク・シー」 -ジョン・マッキー作品集-』[OPWR-002]

 本楽曲唯一のプロによる演奏音源。ライブ演奏ならではの勢いが感じられる演奏で、『アンダートウ』は4分30秒ほどの快速な演奏!この曲の良さが一番はっきりと表現されている音源だと思います。
 ニューヨークフィル首席トランペット奏者のクリストファー・マーティンによるトランペット協奏曲「アンティーク・ヴァイオレンス」なども収録された聞き応えのある1枚です。

 上記いずれもAppleMusic等で配信されていないものの、是非ともCDを手に入れて聴いていただきたい演奏です。
 AppleMusicでは海外の学生バンドの演奏などがヒットしますが、テンポを落とした安全運転な演奏なので上記のCDの演奏の方が好みです。

■最後に

 今回はジョン・マッキー作曲の『アンダートウ』という楽曲を紹介しました。マッキー作品としては難易度抑えめでありながらも、『アスファルト・カクテル』のようなマッキー作品ならではの雰囲気が感じられる作品です。

 必要な打楽器の人数が多かったりと「どんな学生バンドにもおすすめ!」という作品ではないのですが、編成等クリアできるのであれば「マッキー作品、カッコイイけど難しくて手が出ない…。」という団体にオススメできる作品なのではないかと思います。

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