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【吹奏楽曲解説】吹奏楽のための交響曲「ワインダーク・シー」(J.マッキー)①

アメリカを代表する作曲家ジョン・マッキー(John Mackey)作曲の「吹奏楽のための交響曲『ワインダーク・シー』」(原題:Wine-Dark Sea : Symphony for Band)について、解説をしていきます!

Youtubeの参考音源や画像などを交えながら分かりやすい解説を心がけていきますので、演奏する際の理解の手助けになれば嬉しいです!


参考音源紹介

テキサス州立大学ウィンド・アンサンブル

指揮/ジェリー・ジャンキン、演奏/テキサス州立大学ウィンド・アンサンブル 

シエナ・ウインド・オーケストラ

指揮/原田慶太楼、演奏/シエナ・ウインド・オーケストラ
2020年8月30日に文京シビックホール大ホールにて開催された第50回定期演奏会のライヴ演奏。

作品について

J.マッキー(ブレーン・オンライン・ショップより)

J.マッキーにより2014年に作曲。サラ&アーネスト・バトラー音楽院創立100周年記念のための委嘱作品で、2015年のウィリアム・レヴェリ作曲賞を受賞しています。J.マッキーの作品では他にも「オーロラの目覚め(Aurora Awakes)」が2009年に同賞を受賞しています。
ワインダーク・シー(Wine-Dark Sea)は直訳すると「葡萄酒色の海」というロマンティックな曲名ですが、この曲のテーマは実に壮大なものです。

ワインダーク・シー作曲の題材となった古代ギリシャの長編叙事詩「オデュッセイア」

ざっくりイメージ「ホメロスの叙事詩オデュッセイア」

古代ギリシャの詩人、ホメロスが作者とされる長編叙事詩(英雄、神話、歴史などを語り伝えるためのも物語)に「オデュッセイア」というものがあります。

この「オデュッセイア」のあらすじについてですが、まあ一言で表現してしまえば"冒険ファンタジー"ですね。
ギリシャ神話上で語られるトロイア戦争に終止符を打った英雄・オデュッセウスを主人公とし、戦争から勝利し故郷に凱旋するまでの10年間にもおよぶ壮絶な帰還の物語が語られます。
冒険ファンタジーなので女神、魔女、一つ目巨人なども登場しますし、主人公も冥界(あの世)に行って預言者に会ったりもします。

全24巻(第1歌、第2歌…という数え方をします)に編集された叙事詩「オデュッセイア」のうちの第5歌のなかに「葡萄酒の色なす海」という表現が出てきますが、J.マッキーはこの表現から着想を得て、オデュッセウスの壮大な物語を吹奏楽のための交響曲という形で描き上げました

「葡萄酒の色なす海」とは

「葡萄酒色の海」とはどんな色?

ところで「葡萄酒の色なす海」っていったいどんな色をした海なんでしょうかね。
私は始め単純に赤ワインの色を想像していました。上に貼った画像だと左側のジャケットのイメージですね。
ですが色々調べているうちにこちらのページに以下のような記述を見つけました。

…(前略)「ワインのような濃い色の海」について、古代ギリシャではワインを水で薄めて飲む習慣があり、そのアルカリ性の水質で青くなった色だという説と、詩にこの言葉が登場するのは夕方の場面なので、夕焼けの空を反映して赤く見える色だという説の2説が紹介されています。

出典:レファレンス協同データベースより

古代ギリシャの時代ではそもそもワインが赤くなかった(青かった)、という説ですね。
当時の葡萄酒の色は今となっては確かめようがないですし解釈が分かれるところだとは思いますが、私はこちらの青色の海(それも沖縄の透き通るような青い海ではなく、青と黒の中間のような色の海)という方が曲のイメージに合うかなと思いました。先程貼った画像だと右側のジャケットのイメージですね。

そもそもギリシャ神話自体も内容は冒険ファンタジーですし、その中に出てくる「葡萄酒の色なす海」という未知の単語ではあるので明確な答えは無いものですが、演奏する場合はこのような部分からも曲のイメージを膨らませられるといいです。

解説:第1楽章「傲慢」(Hubris)

ジョヴァンニ・ドメニコ・ティエポロ作「トロイアの木馬の行進」

先ほどホメロスの叙事詩「オデュッセイア」について説明した際にも触れましたが、第1楽章「傲慢」(Hubris)はギリシャ神話で記述されたトロイア戦争での戦いの勝利の場面から始まります。

トロイア戦争といえば、どこかで一度は耳にしたことがある「トロイアの木馬(トロイの木馬)」が有名なエピソードですね。
曲の解説から若干脱線するのでここでは詳しく書きませんが、詳細を知りたい方はこちらの動画なんかがトロイア戦争についての分かりやすい解説かと思います。(トロイア戦争の解説自体は動画の真ん中14:30頃から。登場人物が多いですが前後見なくともなんとなくは理解できるはず。)

オデュッセウスの頭像(Wikipediaより)

話を曲に戻します。第1楽章では戦いに勝利し、船を戦利品で一杯にしたオデュッセウスたちの凱旋行進曲がホルンをはじめとする金管楽器群によって勇ましく奏でられることで始まります。
冒頭のホルン、1st〜4thまでユニゾンでハイD♭まで吹かせる難しい旋律ですがもの凄くカッコイイですよね…!

ホルンといえば狩りだったり戦いの場でも仲間への合図、味方の鼓舞といった目的で用いられていた楽器です(この頃はホルンというより角笛ですが)。
曲自体も戦争の勝利のシーンから始まるので曲想的にもホルンが合うのですが、Wikipediaにてオデュッセウスの記事を見てみるとオデュッセウス自身もホルンを吹くことが記載されています。
これらの内容を踏まえると冒頭のホルンの主題は戦争に勝った際の凱旋行進曲でもあり、オデュッセウス自身を表す主題でもあるかもしれないですね。

オデュッセウスのWikipediaより抜粋

叙事詩「オデュッセイア」のどのエピソードがどの楽章なのか、という具体的な内容までは作曲者のJ.マッキーは述べていませんが、「傲慢」(Hubris)というタイトルから想像するに、物語序盤の一つ目巨人キュクロープスの島のエピソードでしょうか。

一つ目巨人キュクロープスの島でのエピソード

ざっくりイメージ「ポセイドンの怒りを買うオデュッセウス」

トロイア戦争後、故郷を目指すオデュッセウスですが嵐に見舞われて一つ目巨人キュクロープスの島に流れ着いてしまいます。
巨人によって洞窟に閉じ込められ、部下が食べられてしまったりと散々な目に遭うのですが、頭の良いオデュッセウスは名前を偽りながら一つ目巨人を返り討ちにし何とか島を脱出します。

…とまあここで止めていれば良かったのですが、トロイア戦争に勝利しオデュッセウスも気が大きくなっていたのか、自分の名前を明かしてしまいます。
一つ目巨人キュクロープスはオデュッセウスからひどい目にあったことを父親の海神ポセイドンに報告してしまいます。
海神ポセイドンは息子がひどい目にあったことに激怒し、オデュッセウスの故郷への帰還を妨害するのです。

物語と楽譜と照らし合わせて

ここまでかなりざっくり駆け足で一つ目巨人キュクロープスの島のエピソードを紹介しましたが、楽譜のリハーサル記号と合わせると以下のような流れになるかと。

【冒頭〜リハーサル記号B(0:00〜1:00頃)】
トロイア戦争に勝利し凱旋行進曲を奏でているオデュッセウス

【リハーサル記号B〜L(1:00〜5:20頃)】
故郷を目指し航海に出るも、嵐に見舞われ一つ目巨人キュクロープスの島に到着。
洞窟に閉じ込められ、部下が食べられオデュッセウス一行が劣勢。

【リハーサル記号L〜Q(5:20〜7:20頃)】
一つ目巨人キュクロープスが酔い潰れて寝た隙にオデュッセウスが反撃。
島を脱出するも海神ポセイドンの怒りを買う。

【リハーサル記号Q〜1楽章ラスト(7:20〜11:00頃)】
海神ポセイドンからの何とか逃げ出すもオデュッセウス一行の船は壊滅状態。
オデュッセウスの長い長い旅はこれから始まる…。

あくまで個人の解釈なので、演奏される方はぜひ色々考察してみてはいかがでしょうか。
長くなってしまいましたので、2楽章・3楽章の解説は別途noteに書いていこうと思います!

ぜひそちらも合わせて読んでいただけると嬉しいです!

※2024/2/21更新:第2楽章の解説記事を投稿しました。

※2024/2/29更新:第3楽章の解説記事を投稿しました。


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