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【吹奏楽曲解説】吹奏楽のための風景詩「陽が昇るとき」(高昌帥)

 本日紹介するのは高昌帥(こう ちゃんす)作曲の吹奏楽のための風景詩「陽が昇るとき」です。
 およそ20年前に作曲された楽曲ですが、吹奏楽コンクールなどで長い間多くの団体に演奏されている、高昌帥作品の中でもとりわけ人気の作品です。


■参考音源

小澤 俊朗指揮/神奈川大学吹奏楽部による演奏
(2006年1月6日(金)横浜みなとみらいホール 大ホールにて開催された神奈川大学吹奏楽部 第41回定期演奏会の演奏動画)

■作品について

作曲者の高昌帥氏(大阪音楽大学ホームページより)

  作曲者の高昌帥は1970年に大阪で生まれ、大阪音楽大学作曲家を卒業後、スイス・バーゼル音楽アカデミーに留学しています。吹田音楽コンクール作曲部門で第二位(一位無し)を受賞、第一コダーイ記念国際作曲コンクール佳作など、国内外の作曲コンクールの入賞実績があります。

 室内楽から管弦楽まで幅広い分野の楽曲を作曲していますが、吹奏楽の分野で一躍有名となったのはやはり「吹奏楽のためのラメント」が2002年度の全日本吹奏楽コンクールの課題曲に選ばれたことがきっかけだと思います。
(「ラメント」以前にも「サムルノリと吹奏楽のための『ピナリ』」など尖った曲はありましたが)

 ラメント作曲以降は「コリアン・ダンス(2002年)」、「雷神-ソロ・パーカッションと吹奏楽のための協奏曲(2003年)」と現在でも演奏される高昌帥の代表作が続きます。

 ちなみに、「陽が昇るとき」の翌年には氏の代表作ともいえる「Mindscape for Wind Orchestra(ウインドオーケストラのためのマインドスケープ、2005年作曲)」が続くので、作曲者としても30代前半の充実した時期だったのかと思います。

 「陽が昇るとき」は最初から4楽章構成の楽曲として作曲されたのではなく、以下の通り異なる委嘱団体、作曲年の4つの楽曲を後から作曲者がまとめ、本作の誕生に大きく関わった渡邊秀之氏による命名で吹奏楽のための風景詩「陽が昇るとき」となりました。

  • 第1楽章「衝動」 → 2004年作曲、創価学会関西吹奏楽団による委嘱作品

  • 第2楽章「情緒」 → 2003年作曲、ウィンドアンサンブル一期一会による委嘱作品(「諧謔のとき」として作曲した楽曲から編成とタイトルを変更)

  • 第3楽章「祈り」 → 2002年作曲、関西大学応援団吹奏楽部による委嘱作品(「祈りのとき」として作曲した楽曲から曲の結尾とタイトルを変更)

  • 第4楽章「陽光」 → 2002年作曲、宝塚市吹奏楽団による委嘱作品

以下、楽章ごとに解説していきます。引用部分は作曲者自身による解説部分です。

・第1楽章「衝動」

 トランペットによるハ長調の輝かしいアコードと、それを全否定するかのようなファ♯の轟音で劇的に幕を開ける楽章です。全4曲中、最後に書いたものを冒頭楽章としましたが、以後の楽章へのネタ振りが色々と仕込まれてもいます。

作曲者本人による楽曲解説:
大阪音楽大学第52回吹奏楽演奏会プログラムノートより

 テュッティ(総奏)による激しい前奏に続き、唸るような性格の第一主題と、フルートソロが奏でる叙情的な第二主題を展開させる主部、前奏と同じ内容を持つ後奏から成ります。

作曲者本人による楽曲解説:
『高 昌帥:吹奏楽のための風景詩「陽が昇るとき」』[CAFUAレコード CACG-0086]
CDブックレットより

 「陽が昇るとき」を象徴するような印象的なトランペットの音型から楽曲が始まります。その後に追って演奏されるトロンボーン、ホルンなどの音型含め強烈に印象に残る始まり方です。(冒頭はトランペット吹きからしたら、この楽曲イチの緊張ポイントかと思います。)

 前奏部分は1分ほどですぐに勢いが衰え、クラリネットソロが30秒ほど続きます。その後フルートなど他の木管楽器や金管中低音楽器群なども加わり、不気味な雰囲気を保ちながら徐々に高まっていきます。作曲者自身の言葉では"唸るような性格の第一主題"と表現している箇所です。

 その後、フルートソロが奏でられることで雰囲気が明るくなり、希望が見えてくるような音楽が続きます。しばらく木管楽器によるソロのフレーズが続き、少しずつ音楽が盛り上がっていきます。

 金管楽器も加わるとさらに音楽は盛り上がっていきますが、頂点までは達さず第一主題の唸るようなフレーズも混ざりながら冒頭の音楽に戻ります。最後は駆け込むような金管楽器によるフレーズで曲は閉じられます。

・第2楽章「情緒」

 一貫して6/8拍子で記譜されているにもかかわらず、 3/4拍子や小節を跨いでの3/2拍子等が混在し、ときにはそれらが同時に奏でられるなど、厄介な拍節を特徴とする楽章です。
 スコアには、指揮者がそれぞれの場面において優先されるべき拍子を選択し適宜振り分けてよい、という旨のコメントを記してあり、どのように指揮をするのかも興味の対象となりますが、私の振り方が正解だというつもりは全くありません。

作曲者本人による楽曲解説:
大阪音楽大学第52回吹奏楽演奏会プログラムノートより

 リズム的に常に不安定で諧謔的な性格を持ちます。「衝動」の第一主題を断片的に引用する主部と、それとは対照的に歌うような中間部をもつ三部形式で書かれています。

作曲者本人による楽曲解説:
『高 昌帥:吹奏楽のための風景詩「陽が昇るとき」』[CAFUAレコード CACG-0086]
CDブックレットより

 作曲者自身も解説している通り、一聴しただけではリズム感が掴めない不安定な楽章です。

 冒頭、ピアノの左手によって演奏される8分音符とティンパニによって演奏される合いの手の8分音符が続きますが、実はこの時点ですでに拍感が掴みにくくなっています。先に入るピアノが6/8拍子カウントでの6拍目、後に入るティンパニが拍頭という楽譜の書き方です。(私は楽譜を見るまでピアノが拍頭だと思っていました…。)

 「衝動」の第一主題を断片的に引用する部分は6/8拍子カウントがメインとなる音数が多く忙しいフレーズです。木管楽器の旋律とユーフォニアムの対旋律が印象的な中間部は拍子感が大きくなり流れるような音楽が続きます。

 ここまでは比較的指揮をどう振るか分かりやすい印象ですが、指揮者泣かせなのが後半部。忙しいフレーズ感の主部と流れるようなフレーズの中間部が入り乱れてきます。全体的な不安定な雰囲気のまま曲は突然終わります。

・第3楽章「祈り」

 ノスタルジックな雰囲気をもつ金管のコラールに始まる第一部、暗鬱でメロディアスな第二部が、遅い三拍子の中間部を挟んでそれぞれが変奏・展開されていきます。

作曲者本人による楽曲解説:
『高 昌帥:吹奏楽のための風景詩「陽が昇るとき」』[CAFUAレコード CACG-0086]
CDブックレットより

 第1楽章、第2楽章と心が落ち着く部分が少ない音楽が続きましたが、第3楽章「祈り」ではようやく落ち着くことが出来ます。

 金管楽器のコラール、それに続く木管楽器の歌うようなフレーズなど、明るい音楽が続く楽章で、この曲全体を通してもっとも穏やかな楽章だと思います。

 金管楽器のコラール主体の第一部、どこか暗い雰囲気が漂いながらもメロディアスなフレーズが木管楽器によって奏でられる第二部がそれぞれ展開していき、ピッコロによる天に昇るような音型で静かに曲が閉じられます。

・第4楽章「陽光」

 フルートとサックスソロが奏でるモティーフ(「衝動」と強い関連を持ちます)に始まる前奏と、安定した調性を持つ部分(「祈り」と部分的に関連を持ちます)、前奏のモティーフを用いたテンポの速い主部、の三つの要素 からなり、最後はタイトルが示すように輝かしく曲を閉じ ます。

作曲者本人による楽曲解説:
大阪音楽大学第52回吹奏楽演奏会プログラムノートより

 第4楽章「陽光」はフルートのソロによって静かに始まります。すぐにサックスも続き、1楽章の暗い雰囲気の音楽が奏でられ、金管楽器も盛り上がり1つの盛り上がりを迎えます。

 1楽章の雰囲気の音楽が落ち着くと、木管楽器による暖かな音楽が続きます。3楽章で奏でられたフレーズと似たような音楽で、希望が見えてくるように音楽が高まっていきます。しかし、明るい雰囲気も長くは続きません。4楽章の前半で奏でられたテンポの速い主部が再び奏でられ、不穏の雰囲気の音楽が割り込んできます。

 金管楽器の奏でる不穏で圧のあるフレーズと、それに立ち向かうような木管楽器の明るいフレーズが交互に演奏され音楽はクライマックスに向かいます。シンバルによる一撃をきっかけに、先ほどまで暗く重い雰囲気を奏でていた金管楽器が明るく輝かしい音楽を奏でるようになります。

 トランペットの輝かしいフレーズはこの曲でも屈指の盛り上がりの部分で、吹奏楽コンクールでもこの箇所を含む抜粋をよく聴きますが、全楽章通して聞いてこの部分を迎えると感動はより一層強くなると思います。

 曲はそのまま輝かしい雰囲気で閉じられます。

■収録CD

 本作品は吹奏楽コンクールで何度も演奏されているので、コンクール録音に関しては無数にあるのですがここでは敢えて紹介しません。
 コンクールで演奏される7〜8分にカット・改変された状態ではなくぜひ全曲版での演奏を聴いてほしいので、全曲版が収録された5枚のCDを紹介したいと思います。

・現田 茂夫指揮/オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラ
『陽が昇るとき』[ワコーレコード WKOS-004] ※2024/8/1追記

 この作品の決定盤と言える1枚。この作品解説を執筆した当時はプロによる全曲版収録CDは存在しなかったのですが、演奏から4年半の歳月を経てついに発売されました。
 プロによる抜群の安定感の演奏で、決して力押しにならないクオリティの高い演奏です。
 この楽曲を演奏する方全員に聴いてもらいたい1枚だと思います。

・ユージン・コーポロン指揮/ノース・テキサス・ウインド・シンフォニー
『クロニクルス』[GIA Publishing CD-774]

 アマチュアバンドによる演奏としては全曲版収録音源の中でも安定感のある演奏です。アメリカを代表するバンド・ディレクターであるユージン・コーポロン氏率いるノース・テキサス・ウインドによる演奏。

 輸入盤CDであるものの、上記Amazonリンクから購入可能な他、iTunes Storeなどから楽曲の単品購入も可能です。カレル・フサの最晩年の作品「チーター」なども収録された1枚です。

・高 昌帥指揮/大津シンフォニックバンド
『大津シンフォニックバンド 第52回定期演奏会』[ワコーレコード WKOSB-0052]

 作曲者自身が指揮する自作自演による貴重な演奏。Trpパートを中心に金管セクションの安定感があります。

 上記リンクのワコーレコードのオンラインショップより購入可能です。CD-R仕様で楽曲解説のブックレットも付属していませんが、値段も税込2,000円と比較的安価で手に入ります。

・野上 博幸指揮/ミュゼ・ダール吹奏楽団
『ミュゼ・ダール吹奏楽団 第18回定期演奏会』[ワコーレコード WKMD-2015]

 東京で活動する一般団体であるミュゼ・ダール吹奏楽団による演奏。「吹奏楽コンクールを彩った作品たち ~懐かしくも新しい本当の姿」というテーマでの演奏会のため、収録曲はすべて全国大会で演奏された作品をノーカットで収録。選曲の幅が広く様々な楽曲を楽しめる1枚。

 上記リンクのワコーレコードのオンラインショップより購入可能です。大津シンフォニックバンドのCDと同様、CD-R仕様・楽曲解説ブックレット無し・2,000円ですので、選曲内容で好みに合わせて購入するのもアリだと思います。

・小澤 俊朗指揮/神奈川大学吹奏楽部
『高 昌帥:吹奏楽のための風景詩「陽が昇るとき」』[CAFUAレコード CACG-0086]

 冒頭の参考音源のYoutubeで紹介した音源のCDとなります。流通量も多く、最も手に入りやすいCDだと思います。
 細かい傷はありますが、大学生によるライブ録音でここまでの完成度での演奏はなかなか出来ないことだと思いました。

■最後に

 作曲から20年という年月が経ちながらも根強い人気を誇る楽曲なだけに、プロによる全曲版の収録CDが存在しないのが非常に残念です…。(オオサカシオンなどが全曲版を定期演奏会で取り上げているようですが…。)

 CDが売れない時代ではありますが、このような30分を超えるような大曲こそプロによる録音が望まれます。

 先日のバーンズチクルスのCDのように、受注生産・一括販売での売り切りなどの販売方法でも良いので販売がされるのを待つばかりです。

→2024/8/1追記
 収録CDの欄でも触れましたがついにこの作品のプロによる全曲版の演奏を収録したCDが発売されました!!

 昨年12月にこの作品解説noteを書いたときに望んでいたことが実現するとは思わず、発売のお知らせが出た時は本当に驚きました…!

 CDが売れる⇄プロの吹奏楽団がさらに色んなCDを発売する、というような良い循環が生まれることに期待したいので、ぜひみなさんこちらのCDを買いましょう!!


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