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豹変-⑤

 母から言われたのはこうだった。あなたをこんなめに合わせるために育てたわけじゃない。すぐに帰ってきなさい。お腹の子の為にも。

 その数日後、私は実家に帰った。夏は涼しい、山に囲まれた田舎町。毎日、大好きだったリゾートウェディングの仕事に想いを馳せていた。遠回しに妊婦は要らないと言われた、復帰することも叶わない…でもやっと掴んだ、夢だった仕事。仕事もお金も失った今、旦那まで失ってしまう不安と、日々大きくなるお腹に押し潰されそうに毎日を過ごした。押し潰されそうで、吐きそうで、家の近くの崖から飛び降りたら、あの人は後悔してくれるだろうか…そんなふうに考えることもあった。
 
 両親は、私がこのまま離婚して、地元で生活する事を望んでいたであろうが、私には、その選択肢は少しも無かった。私の気持ちは、前のように戻りたい…それだけ。
 離婚届は、提出されていなかった。しかし旦那から連絡が来ることは無く、私からの電話を取ることも滅多に無かったが、
たまに電話に出ることがあっても態度は特に変わらない。言われる事も至って変わらず、「二度と戻って来るな。」「俺は他に彼女を作ってそっちの家に帰る」そんな状態だった。
 旦那の母とは頻繁に連絡をとっていたが、最近どうか、旦那と連絡はとれるかなどを尋ねても、「私たちにも特に連絡は無いから、あなたと別れる気は無いのではないか」「子どもは楽しみにしているはずだから」その時の私にはとても説得力を感じた言葉だったが、今となってはただ放任的な、無責任な言葉に過ぎなかったと理解できる。
 私の両親はそれを聞き、「いやいや…」「このまま無事に出産したからと言って娘と孫を返すわけにはいかないでしょ!」と、立ち上がってくれた。

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