メロン
エンジンを切ると瞬時に暑さが襲ってきた。
逃げるように車を降りて空を見上げると飛行機雲が伸びている。
今年はやたらと空を見上げている気がする。
飛行機雲を見ると何故か得した気分になるし、何故か写真を撮ってしまう。
少し得した気分のまま僕は”コーヒーワンダフル”という喫茶店に入った。
従業員はお店のママと呼ばれるかわいいおばあちゃんと二回り程年下の溌溂としたおばさんで切り盛りしており、お客さんは紛れもなく常連であることが分かるおじさん1人だった。
僕はミソカツ定食と食後のコーヒーを注文すると、すぐにものすごく好みの定食がきた。
定食をあっという間に平らげてコーヒーを頼む。
先ほどまで食に没頭し耳に入ってこなかったが、コーヒーを飲み一息つくと常連のおじさんとママたちの会話が明瞭な音として耳に入ってくる。
外から救急車のサイレンの音が聞こえた。
救急車の音は嫌だねー
とママは言った。
なにか切実さを感じた。
ママは続けて、
暑いのは嫌だねー
と言った。
こちらの言葉には社交辞令的な上辺さがあった。
それから、従業員と常連による夏の悪口大会が始まった。
歳を重ねたことによる諦念さを感じるとともに、愚痴を言いながらもどこか夏が来ていることにみんな嬉しそうだった。
そんな会話を盗み聞きしていると、ママが急にメロンを出してくれた。
自分の畑で作ったメロンだと言う。
とってもおいしかった。
これはさすがに得をした気分になったというか実際得をしてしまった。
あと自分の畑で作った野菜ならまだしも、自分の畑で作ったメロンという言葉自体貴重である。
得をしたまま僕は店を出ると、来た時にあった飛行機雲は既に消えていて、来た時には聞こえなかったセミの鳴き声が鳴り響いていた。
セミの鳴き声が鮮明に聞こえてくる向かいのアパートに目をやると、ハイツきぼうと書かれていた。
なんかパワーをもらえた気がして少し得した気分になった。
おわり
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