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【競馬】創意工夫がルメールを「G1の神」にする/フェブラリーS振り返り

「自動的にルメールを買え! G1はもう予想なんかすな!」という千鳥ノブのキャプチャをよく見かけるようになったが、どうもアレは好きじゃない。勝ち馬を検討するという競馬の醍醐味を自ら放棄するようなマネは、競馬ファンなら絶対に慎みたいもの。あれこれ考えた結果、ルメールに命運を託すことになったのならまだしも、「ルメール買っときゃだいたい当たる」はただの思考停止。仮にその馬券が当たったところで、払戻金以外の楽しみや喜びは得られるのだろうか。

その一方で、「G1はルメール買っときゃだいたい当たる」は限りなく真理に近づこうともしている。昨年のルメールのG1での騎乗成績は【8.5.1.8】で勝率が36.4%・連対率が59.1%・複勝率が63.6%と驚異的な数字をマークした。さらに凄まじいのは、いずれも彼の年間総合成績を上回っていること。力量の拮抗したG1でこれだけのハイアベレージを残すのは、単に「いい馬に乗っているだけ」で片付く話ではない。

もはや神の領域へと到達しつつあるが、一体その理由はどこにあるのか。

努めてシンプルに答えるならば、「勝つための創意工夫」だ。騎乗馬の特性や相手との力関係、枠順や展開など全ての要素を加味した上で、「やるべきことをきっちりやる」ことが圧倒的な好成績につながっている。
特に、馬の弱点を最大限に補う手綱さばきは、往年の武豊をも軽く凌駕するレベルだと思うほど。身近な例では昨年の有馬記念。出脚の遅いフィエールマンが外枠に入り、何もしなければ後方で待つしかないところを、ペースが落ちたところを見計らってポジションを押し上げていった。あのリカバリが絶妙すぎる。たぶん他の騎手なら4角まで我慢して「ペースが向かなかった」と悔やむのが精一杯だろう。
失敗すればリスクも大きいG1で、あれをやってのける技術と判断力とメンタルは比類なきもの。だからいい馬が無限に任されるし、馬券を買う側の信頼も厚くなって当然。たとえ外れても「あそこまでやって負けたのなら」と納得感を与えてくれる。

フェブラリーSのカフェファラオも、ルメールの創意工夫に導かれての勝利だった。

ポテンシャルは非凡なものがありながら、揉まれ弱さが残る相棒の弱点を補うためには、できるだけ周りに馬が少ない状況を作り出したかった。「出たなり」のレース運びでも、タテ長になれば取りたい位置が取れたかもしれないが、彼が取ったのは積極策。これまでは中段もしくは後方からレースを進めてきたにもかかわらず、スタート直後から手綱を押して好位を取りにかかり、馬群を引っ張るエアアルマスとワイドファラオの直後を確保。多少の砂のキックバックは避けられず、手綱は押しながらの追走となったが、どうにかメンタル面に課題のある気分屋の闘志に火を灯し続けた。
こうなれば手薄な相手関係からも勝利の可能性は一気に広がる。直線半ばで前の2頭を交わし先頭に立つと、内から忍び寄るワンダーリーデルと馬群を割ってきたエアスピネルの追撃をしっかりと封じ切った。「高い能力を発揮できるか」という勝敗の分岐点を切り開いたのは、間違いなく鞍上の手腕。もしもただ捕まっているだけだったら、勝機はもっと薄くなっていたことだろう。

本当にいいものを見せてもらった。個人的にレース前はあまり盛り上がらなかった2021のG1開幕戦を、見応えあるものとしてくれた意味でも感謝したい。今年はいよいよG1年間10勝にも届くんじゃないでしょうか。



他の馬については簡単に。2着がエアスピネル、3着がワンダーリーデルと伏兵が健闘し馬券はちょい波乱の決着。2頭ともに共通するのは東京での重賞好走歴で、ワンターンのコース設計に適応できる裏付けがあった。

それにしても、かつての「最強世代」の一角だったエアスピネルが新天地のダートで奮闘する姿には胸が熱くなる。どうしてもあと一歩が届かないが、まだまだ先への可能性を感じさせる激走だった。

「創意工夫」といえば、エアアルマスの松山弘平とインティの武豊からも伝わるものがあった。勝ち馬と同様、揉まれるとダメなエアアルマスを共倒れ覚悟でハナへ導いたのが善戦につながったし、逆に競られるとツラいインティを待機策へ導いたのも、意図の感じられる騎乗だった。
逆に、ただ漠然とレースを進めた感が強かったのがアルクトス。強気の競馬こそ身上のはずが、控えてずっと外を回って終了。もっとも田辺裕信いわく「やりたい競馬はできた」らしいが..
ソリストサンダーは典型的な格負けといった印象。近走の内容からも穴人気する気持ちはよくわかった。サンライズノヴァは毎年恒例の不発。絶望的にこのレースが合わない。

「ダートG1三代制覇」がかかったオーヴェルニュは他のダート重賞とは違う東京マイルへの戸惑いを隠せず。大きく減った馬体も影響したか。うまく交流重賞路線に乗れれば、またG1挑戦のチャンスも回ってくるだろう。



勝ち時計1:34.4はかなり速いものの、レースのレベルはさほど高いと感じず。カフェファラオもストライクゾーンが狭い馬なので、今後もコンスタントに活躍するのは難しいと見た。
2着3着が8歳馬だったように、若い世代の押し上げが欲しいダート戦線である。ヒヤシンスSを勝ったペルーサ産駒ラペルースに期待しちゃってもいいですか?

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