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森林の環境問題を深堀りしてみる

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お邪魔します。

ここ最近(2022年12月8日現在)はFIFAワールドカップだとか、ウクライナ危機だとか、いろいろな政治・思想団体の話題が耳に入ってきますね。一方で、着実に進行している環境問題についてのニュースで、最近目にしたものはあるでしょうか?あっても、環境問題に関わる政策のニュースが多いですね。聞やニュースになるのは、当然、新規性がある出来事です。環境問題で扱われるような大きなスケールの自然環境の変化は、人間のペースから考えると明らかに遅いです。

だから、一年の平穏無事をまとめて正月に祝ったりするのではないでしょうか

ということで、環境問題そのものに関する情報は、ニュースで扱われるような新規性には乏しいです。だから、「インドネシアの熱帯雨林がかなりの速度で消滅している」というような、危機的状況には変わりないが人間のペースからすると突発性に欠ける情報は、年に数回しか目にする機会がない人が多いのではないでしょうか。

今回は、社会・理科・家庭科などの教科書で頻繁に騒がれている環境問題、その中でも森林に関するものを網羅し、大胆さも大切にしてに考察していきます。



では、森林に関わる環境問題を列挙して見ていきましょう

1. そこにあるはずだった"本来の"森林の消失


学術的に取り上げられる問題のほとんどはこの1つ、またはそれに起因する副次的なものではないでしょうか。文字通りの「森林破壊」も「森林の生態的バランスが崩れること」も「森林の生物多様性の減少」も上の一言に集約することができると思います。そもそも世の中の問題は、健康問題ならば「本来の健康的な姿の消失」と言い換えられますし、だいたいこのような構造をしています。何が問題かをざっくり言うと、

「人間の行為がなければ、本来の森林の姿が(少なくとも人間のスケールで言えば)長く続いていたはずなのに…そしてその本来の姿は数億年続いてきた、人間が手を出してはいけないくらい複雑で繊細で安定なものだったのに…」

なので、森林の場合、「そこにあるはずだった"本来の"森林の消失」が具体的にどういったケースなのか、それが我々や生物の生活に具体的にどう影響するのかを見ていけばよいはずです。

2. 副次的な森林の環境問題


"本来の"森林の消失によって、さらに具体的に生じる問題を列挙してみます。今回はちゃんと複数列挙します

森林が、かつてその場所で持っていた、

  • 地球温暖化の緩和
    植物は、大気中のCO2を光合成によって取り込み、糖やセルロースなどとして固定します。つまり、温室効果を持つCO2の貯蔵機能を持っています。もちろん枯死→分解によって固定されていたCO2はいずれは大気中に戻りますが、生きている植物の量が変化しなければ実質的に大気中のCO2濃度が継続して低くなります。

  • 土砂災害・風・雪に対する防御
    動物により安定した環境を提供します。「川・海や草原で活動するが、巣やねぐらは森林」と言う生物が多いのはこのためです。

  • 水質浄化・水量調節

  • 木材・食料・原料

  • 生物多様性の保全

  • 文化的・景観的価値

という機能・役割が失われるというのが問題です。さらにこれがどの程度まずいのか、どう問題なのかは後程説明します。

ところで、何がどう問題かに関しては、いくつかツッコミどころがあるのでそれを考えていかなければなりません

"本来の"森林は一度消失しても戻るのでは?


A. 回復の過程で、種や多様性の不可逆的消失が起こる。また、乾燥地帯など脆弱な生態系ではダメージが大きいと回復できず砂漠化する。↓以下解説

たしかに、生態系は、溶岩流や洪水などの大規模な災害により破壊を受けても、再生する能力(復元力とも)を持っています。森林も例外ではありません。例えば、人為的土地利用の負荷が小規模にとどまる場合、森林がその構造や機能を90%回復するまでにかかる時間は50年ほどとも言われています(Natureより)。

なので、「"本来の"森林がたとえ一時的に消失したとしてもいずれは戻るので問題ない」という意見が当然出るかと思います。

しかし、森林生態系は、全体的には回復可能に見えますが、一回の消失でも【不可逆的・回復不可能な変化】が起こる場合があります。それは

  • その地域特有の生物種・遺伝的多様性の絶滅
    生物種や同種の中の多様性は、一度失われれば二度と同じものは出現しません。特に破壊が大規模な場合、全個体が失われ、別地域からの移動による回復も見込めなくになります。

  • 森林が回復可能な下限状態を越えた破壊
    熱帯地域の火山性の島(ハワイ・伊豆諸島など)では、溶岩むき出しの更地からの森林回復が可能です。しかし、更地からの回復が不可能な、もともと脆弱な地域も存在します。その例が中央アジアやサハラ砂漠周辺といった乾燥草原です。こういった地域では、ヒツジやヤギの放牧がおこなわれますが、過度の採食行動により一度更地に近い状態になると回復できないという事態が発生しています。そして、砂漠になるのです。

の2つ等です。つまり、見出しに対する答えとしては、「回復の過程で、種や多様性の不可逆的消失が起こる。また、乾燥地帯など脆弱な生態系ではダメージが大きいと回復できず砂漠化する。」となります。


(Q.「本来の森林」なんてものがあるのか?)


A. 周囲の環境ごとに決まった森林生態系に近づくのでこれを本来の森林と表現した

先ほど私が用いた「本来」と言う表現は、学問的には少し危険かもしれません。しかし、「時間経過とともに森林は周囲の環境の条件ごとに決まった極相状態に近づく」ということは知られています。その条件には、地形・地質・気候・周囲の生物などがあります。自然界には「行きつく先は安定」という原理があるでしょうから、極相状態も安定な状態のはずです(※1)。なので本来の森林と言う表現は的外れではないでしょう。森林の環境問題は、

"本来の森林"に、人間が自然の法則(4節で説明)を無視して手を加えることで、安定な状態が崩れ様々な弊害が発生する。

と言う構造をとっているのです。

ここで重要になるのが、「生物多様性の減少が騒がれているので、その主たる原因をつぶして多様性を上げる」という行為の是非です。生物多様性の改善のみを考えていれば、これは「OK」です。しかし、この行為は"本来の森林の消失"に他なりません。人為的な行為は、必ずと言っていいほど本来の森林の安定を崩します。

※1) 極相状態など存在しないとも言われますが、極限値のような存在として扱えば極相を用いた議論は行えると思っています


(Q. 過去の「大量絶滅」は環境問題か?)


A. どうしようもなかったので人類にとっての問題ではない

大量絶滅は、当時の生物にとっては最悪の事態でした。しかしこれを環境問題だったと言う人はいないでしょう。しかし今、"本来の"森林の消失によって、生物多様性の大幅な減少が「問題視」されています。違いは何でしょうか。2億1000万年前の大量絶滅では、生物種の9割ほどが絶滅し、6500万年前の恐竜を含む大量絶滅は、人間の時間スケールと変わらないくらいの期間で起こりました。それに、人間も生態系の構成員としてみることができます。今、森林の消失を招いている人間の行為も、すべて自然現象の一つとしてみれないでしょうか。我々の行動も自然の摂理とみなし、成り行きに任せたほうが良いという考えが出てきそうです。

しかしながら、やはり、過去の大量絶滅と現在の環境問題の違いは、「主な原因である人間が、頑張ったら影響を軽減できるかもね」という点だと私は考えます。

人間以外の自然が自然と自然を大きく変えるのはどうしようもない。だけど、人間が自然を大きく変えてしまったと後悔するなら、改善するという選択肢がまだ我々にはある。

という意識が根底にあるからこそ、人間の行為がいつまでも他の自然と切り離されて議論されるのではないでしょうか。

3. 森林の実際の観測結果


副次的な問題も含め、"本来の"森林の消失がどれほど進んでいるのか、具体的に以下の3点は覚えておきましょう。

FAOの発表(※2)によると、

・世界全体では1990年から2020年までの30年間で、日本の国土の約5倍にあたる1億7800万haの森林が減少している
ただし、その減少速度は年々下がっている(改善傾向にある)
森林減少の9割以上は熱帯地域で起こっている
・森林保護区は森林全体の17%である

これらは、世界全体に関するデータですが、地域ごとに見ると、2015-2020年の期間ではアフリカ(4414ha/年)>南米(2953)>アジア(2235)の順に減少速度が大きくなっています。全世界では減少速度は落ちているものの、アフリカでは減少が加速しています。

また、持続的な森林の利用などを目指して設置されている森林保護区も、目標は達成できたものの、17%にとどまっています。

※2) Global Forest Resources Assessment 2022 https://www.fao.org/3/ca9825en/ca9825en.pdf

4. 森林の環境問題の原因は?


森林の環境問題の原因として、①人間、②人間以外が考えられますが、2.で列挙した「予想される副次的な問題」が観測され始めたのがここ数百年であることを考えると、詳細を調べるまでもなく、原因はほぼ①人間の行為です。なぜなら、人間以外が原因とすれば、数十万年前にぴょこんと現れてここ数百年で発展した人類に合わせてそんな急激な自然の災難が起こる確率は0に近いからです(※3)。

では、「"本来の"森林の消失」を起こすような人間の行為とは、いったい何でしょうか。結局やっていることは皆"本来の"森林の消失に変わりありませんが、あえて分けるなら、

  • 土地利用
    例えば、東南アジアでのマングローブ林の消失の主な原因はエビの養殖値への転換だった。こういった土地利用では、ある地域の森林生態系が完全に長期間失われることが特徴である。別の例をあたると、インドネシアなどでは、パーム油製造のために、熱帯雨林の伐採からの大規模なプランテーションの設置が行われている。南米の熱帯地域・アマゾンでは、牧場やサトウキビ農場の設置のために、熱帯林が伐採されている。

  • 非持続的な違法伐採
    国が持続的な森林管理のためのガイドラインを設けたり、保護区を設置したりしているが、生活の困窮などから非持続的な頻度・規模での違法伐採が続いている。さらに、違法伐採による材は低価格という特徴を持ち、合法的な森林経営に基づいた木材の競争力が低下してしまうことも大問題である。

  • 非持続的な焼き畑農業
    焼き畑は、熱帯林などを焼き払い、もともとの浅く養分に乏しい土壌に養分を供給するために行われる。そして、その土地で2,3年畑作をしたのち、別の地域に移動し、次に同じ地域を焼き払うまで数十年、植生の回復を待つこうした伝統的な焼き畑農業は森林への負荷が小さい。しかし、この焼き払う頻度が、規模に対して自然の法則(※4-1で説明)を無視するほど高ければ、持続的とは言えない。非伝統的な焼き畑農業はこういった傾向がある。

  • 森林火災の頻発・大規模化
    火災に関しては、自然発火の場合も、人為的発火の場合も多くみられます。前者の場合、2019-20年に見られたオーストラリアでの大規模森林火災が有名です。これは、過去最大レベルの熱波と熱波が訪れたことによるものですが、今後温暖化の影響で火災が増加する可能性もあります。つまり、自然発火であっても間接的に人間の行為が影響します。人為的発火では、アマゾンでの土地利用のための森林の焼き入れが意図せず広がったという事例があります。

  • 生物による食害・被害
    ちなみに日本では、森林の生物による被害面積の約8割をシカが占めるという調査結果もある。

などが比較的直接的な要因と言えるでしょう。

4-1. 撹乱と「人為的な非持続的森林伐採」の違い




5. 日本の森林環境問題


日本は国土の3/4が森林と言われ、いわゆる先進国の中でも北欧諸国に次いで高い森林率を誇っています。ただ、「森林」というとスギやヒノキの林を思い浮かべる人も多いように、人工林の割合も非常に高いと言えます。

では、人工林についてのデータで覚えておくべきものを列挙します

  • 世界の森林に占める人工林の割合は7%ほど

  • 日本ではそれが40%にものぼる

  • 日本の木材自給率は35%ほど。1960年は90%を越えていた
    戦後すぐ、戦時中の乱伐や森林破壊により、木材の不足が問題化した。そこで政府は、拡大造林計画を打ち出し、1990年代まで続けられた。これは、天然林を含む広葉樹林を、針葉樹による人工林に置き換えるというもの。しかし、木材の輸入自由化が進み、円高などの影響もあり、外国産の木材が低価格で取引されるようになると衰退。今では、全需要量の内国産材は1/3ほどとなっている。その結果、手入れが行き届いておらず、風倒や土砂災害の被害拡大が問題となっている。


ということで、どうやら日本は人工林の割合がかなり多く、手付かずの自然がほとんど残っていないことがわかります。世界で起こっている森林環境問題とはまた別の問題が発生しています。

日本では、すでに"本来の"森林は失われた状態で、そこに人口針葉樹林があるわけですが、ここまでくると、手入れをしない方が問題と言われるようになりました。人工林の手入れは、よく知られる間伐だけでなく、下刈りや枝打ちなどの作業により、地表面に光を到達させる工程を含みます。これにより、細長くまっすぐな材を固定するための丈夫で広域の根が張り巡らされます。

しかし、十分に管理が行き届いていない森林では、丈夫で周囲に張り巡らされた根が少なく、風によわく、土砂災害の影響を受けやすくなります。

日本の森林環境問題の解決策


これらの問題解決に関しては、林野庁が主導しています。

  • 複層林施業
    とにかく、日本の森が「単一の種しか存在せず単一の齢構成の人工林」であれば様々な問題が生じます。生物多様性の低下はもちろんのこと、風倒の被害を受けやすいのです。しかも、どうやら今後数十年のうちに放置された人口針葉樹林が自然と広葉樹林などへ遷移する見込みもなさそうです。我々が手を加えるとすれば、それは、現在の人口針葉樹林に自然法則に則った撹乱、つまり部分的伐採による広葉樹林の生育スペースの確保が大事になってきます。これなら、部分的とはいえ根が深く張った領域が生まれ、単層の人工林よりは安定した環境となります。

  • 林業従事者の確保

  • メガソーラーの設置場所の工夫
    メガソーラーは、地域住民の意思とは無関係に大企業によって設置されるケースも少なくなく、人口針葉樹林よりもさらに被害が大きいと言えます。地域住民との談合や、災害への影響評価、そしてゴルフ場の周辺で活用されていない非森林地帯に設置するなどの改善が進められています。



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