しあわせは、いつもコーヒーの香りがする
朝とキッチンとコーヒーは相性がいい。電気ケトルのお湯が沸く音と、豆を挽く香りが漂っていれば、百点満点の一日のはじまりだ。
キャラメル、メイプルシロップ
袋の裏面の言葉にひかれて買った豆。先々週は、「ココナッツ、チェリー」だった。パンケーキと合わせたい香り。コーヒーと甘いモノは私を裏切らない。
銀色に光るマキネッタが、ぽこぽこと可愛い音を立てる。毎朝、耳にする音。毎日、かわる匂い。ルーティンが、変わり続けるふたりをつなぐ。
「コーヒー、飲む?」
わざわざ添える、この言葉が好き。
ベッドから起きてきて、まだ目が60%しか開いていなくて、眠気をじわじわ覚ますために、カップに注いだ湯気の立つコーヒーを渡す。カメラを天井にセットして、朝日が差し込むキッチンを映したら、きっと誰もがこれをしあわせと呼ぶに違いない。
最高潮に傷つけあって腫れぼったい目を抱えた朝とか、愛情が枯渇するほど言葉に刺された夜とか、眠れない星の下の地続きに、コーヒーを淹れるキッチンがある。
儀式みたいな、おまじない。人と人が、喜びも悲しみも分かち合うことで生まれる、大きなエネルギーの渦のようなものを想う。コーヒーの香りが、みえない未来にも続いていけばいい。
「コーヒー、飲む?」って何回言えるんだろう。幸せのおすそ分けみたいな言葉を届けたい。君が笑って、マグカップを受け取る顔が見たい。しあわせは、いつだってコーヒーの香りがするといい。
今日も、地球のどこかで朝がくる。誰かが、ジャスミンの花の舞うキッチンでコーヒーを淹れて、昨日からの続きの、まだ知らない一日がはじまる。
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