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「逃げるは恥だが役に立つ」を考える~(3)「オスはメスの保険」の意味と、個人的な話を少々。

またもやごめんなさい、あのドラマ・漫画の話ではありません。そうではなく、様々な困難から「逃げる」ことについて、「それもいいんじゃない?」とススメるものであります。

「オスはメスの保険」。キャッチ―で刺激的な表現ですね。男尊女卑ならぬ「女尊男卑」にも聞こえそうですが、そのような意図はありません。生物のはなしです。

これをテレビ番組で仰っていたのは、分子生物学者の福岡伸一さん。
生物学的にいうと、生物のベースとなるのは、「子どもを産む」機能を持った存在、つまりメスなんだそうです。
子孫を残す機能をもった「メス的存在」は、オスよりも先に、生命の誕生時から存在していて、たとえば、菌類などの「単細胞生物」は、メスだけの存在です。彼らは、細胞分裂をすることで子孫を残し、遺伝情報を後世に伝えています。細胞分裂をして子孫を残す方法では、子孫とは、自分と全く同じ性質の個体、つまり自分のクローンとして生まれます。

ところが、あるとき、地球環境が劇的に変化する。クローンは、すべてが同じ性質なので、弱点も同じ。環境変化によって全滅してしまうことが起こりえます。たとえば、暑さに強い個体が、急な寒冷化で滅んでしまう、など。
そこで誕生したのが、オスという存在。オスは、メスの遺伝子を、別のメスに運ぶことによって、複数の遺伝情報をもった個体を誕生させます。複数の遺伝情報が混ざり合うと、個体は多様に変化し、種全体として環境変化に対応できる確率が上がります。たとえば、暑さに強いメスと、寒さに強いメスの遺伝情報を持ったオスが出会うことで、寒さにも暑さにも強い個体が生まれる、というように。

大きな環境変化が起こらなければ、メスだけでも子孫を残し、繁栄していくことができます。しかし、地球では、数万年、数億年という時間の中で、大きな環境変化が幾度となく起こってきた。それが、種の多様性を生み出すという、オスが必要な理由になるわけです。つまり、オスの存在は、万が一の環境変化に備えて、多様な性質を種にもたせるという「種が滅びないための保険」だ、というのです。

この話を聞いて思い出したのが、これまた生物のはなし。

「突然変異」という言葉もあるように、生物には、一定数、一見、合理的な説明のつかない、エラーや外れ値をもった個体が生まれるそうです。
たとえば、白いウサギに代表される白化(アルビノ)個体は目立ってしまって野生状態では不利になることが多いし、人間に100分の1程度の割合で存在するという同性愛の嗜好も、有性生殖をしている現状からすれば、理由が不明です。ただ、そういう一見エラーであるような性質も、種全体としての生存の可能性を増やすために存在している。その個体のみが生き残れるような、環境変化も起こりえるから。

話の次元はぐぐっと変わりますが、最後に、個人的な話を少々。

ある環境に適応して生きることのみが、生きる、ということではないんだよなぁ、と、思います。人によって合う環境、合わない環境があるのは、当然のこと。なぜなら、人はみんな、ほかの人と違うようにできているのだから。
私自身は、ある病気のことがわかってから、「みんなができることが、できない」という状態を経験しました。それは、悔しくて苦しい。努力して築き上げたはずの自分を、否定するようなことばかりが起こる。そんな現実を否定したい気持ちになる。
けれども、たぶん、病気になったことにも、それなりの意味がある。ある環境変化に対して、体が備えたがゆえの不調なのかもしれないし、何らかの危機を知らせるサインなのかもしれない。

「逃げるは恥だが役に立つ」。そうだよなぁと、思います。
生きるうえで一番大切なのは、大体は、自分や家族の、心や体。ときには、無理は無理と認めて、逃げる、ということも、まぁ、いいんじゃないでしょうか。


私は生物の専門家ではありません。なるべく正確な記述を心掛けたつもりですが、知識不足で、分かりづらい個所や誤った記述があるかもしれません。お気づきの点は、どうぞお知らせください。


ここまでお読みいただきありがとうございました。「なんちゃって逃げ恥」シリーズの予定原稿は、とりあえずこれが最後です。気に入っていただければ、リアクションや活動サポートをいただけると、とてもうれしいです。

サポートは、自分と家族のほっこり代に使わせていただきます。 本当にありがとうございます。うれしいです。