屋久島巨樹の森を歩く
ボタニカルリサーチパークからバスに乗車して安房に向かった
安房からは荒川登山口行きとヤクスギランド経由紀元杉行きのバスに乗ることができる
そこで昼食を食べて紀元杉行きのバスに乗り継ぐ予定だった
ところがどの店も既に正午には閉店だった
場所柄登山客相手に早朝から商売をしているせいなのだろうか
空いているのは島唯一のモスバーガーだけだった
昼食は宿のキッチンで作ってきたおにぎりにするとしても夕食は山小屋でハンバーガー
(避難小屋宿泊のため2日分の食料と行動食は持参している)
ちょっと違うなぁと思いながらも店に入って買い求めた
午後1時半過ぎに同じ行先の登山者と共に乗車して約1時間山の中を走って終点紀元杉に到着した
既に標高は1200mを超えているからバスで相当登ったことになる
こんな奥山まで林道があるということはその昔、とは言っても近年まで沢山の屋久杉が搬出されてきたのだ
今はその役目を終えて登山者と縄文杉や紀元杉を見るために訪れる多くの人達が利用する
ここまでは手軽に車で来ることができるので観光客もちらほら見えた
近寄って樹皮を触ってみた
ゴツゴツした分厚い樹皮
風雪に耐えた年月を目と手で実感する
よくぞ今まで切られずに残っていてくれたものだ
屋久杉は直径40センチまでに成長するのに500年の歳月を必要とするそうだ
花崗岩主体の貧弱な土壌なるが故にゆっくりと成長して緻密な材を形成した
そして雨が多く多湿な環境から身を守るために樹脂をたくさん含有する杉となった
それがまた長寿の秘訣なのだろうか
目の前の杉は2000年以上もの前からここに佇んでいたのだ
人力のみの力で切り倒されていた時代からチェーンソーの時代を迎えて伐採に拍車がかかった
タイムマシンで時代を遡ることが可能ならば巨木の森に包まれた縄文時代の日本をこの目で見てみたい
そんな森が確かに屋久島には残されていたのだ
翌日からは打って変わって雨模様となり視界は悪く登山靴は中までずぶ濡れのまま黙々と亡霊のようになって歩いた二日間であった
宮之浦岳山頂で二人連れの登山者と会ったときの会話が
『マゾですね』
まさに核心を突いた言葉だった
『おっしゃる通り』
山に登る行為に対してさまざまな能書きを述べることはあるけれどその時はこの言葉に尽きると思った
展望も快適さも一切なし
強いて言えば自分だけのツマラナイ達成感に過ぎない
高塚小屋に泊まった翌日夜明け前にすぐ近くの縄文杉を訪れた
誰一人いない場所で霧雨の中ボンヤリとたたずむ巨樹
昼間は多くの見物客で溢れかえるのだろうが
その時は静寂の中でひっそりと寂しげに見えた
柵で囲まれて目の前まで行くこともできない
手で樹皮を触ることもできない
ガラス越しにパンダを見ているようだ
縄文杉は毎日どんな気持ちで私達の姿を見ているのだろうか
ご苦労様と呟いているかもしれない
宮之浦岳から高塚避難小屋に至る登山道沿いからは多くの巨樹を見ることができた
それらは単に名前が付いていないだけで同じ屋久杉なのだ
山を歩いて命を感じる
それで充分だ