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アートを哲する🛸福岡市美術館編


美術館の周りにはたくさんの彫刻作品が。
中でも目を引く草間彌生さんのかぼちゃ。


福岡市民の間では「シビ」でお馴染み、福岡市立美術館!

地下鉄大濠公園駅から大濠公園に入ってすぐの、人の賑わいと落ち着く自然が共存してる建物。奇抜な建築ではないけれど、明るくて開放的な美術館だよ。

常設展は、学生証提示で150円。
すごいお得!

福岡市美術館の常設展の中で特に好きなふたつの作品を、語ってみました❤️

(なんか用語が多いのは哲学の授業で書いた文章だからです)


・サルバドール・ダリ ポルト・リガトの聖母 

常設展に入ってすぐ、最初のブースのど正面に鎮座するダリの作品。
の真ん中に鎮座する聖母(の体をとった愛するお嫁さん)、の膝の上にチン、と座するはイエスキリスト。

意表を突くのはその浮遊感だ。
私はこの妙なふわふわの違和感が大好きだ。

ルネサンスを経て、三次元に置かれた人間のリアルは、一つの視点から座標を捉えてモノの位置関係を説明する「透視図法」に沿って描写されるようになった。
これの対局にあるのが例えば中世の宗教画である。
中世の宗教画ように明確な視点がなくのっぺりしていたら、重力があろうが無かろうが、あまり気にならないだろう。一体この絵はどうしてこんなに無重力感が際立って見えるのか。

たぶん「透視図法が適用されると言うことはその世界は三〜四次元の物理法則に則って然るべきだ」と無意識のうちに脳が決めつけるからだ。

至高者の視点があれば縦・横・奥行きが生まれる。そこへ鑑賞者は当たり前のように、空間・時間の観念を付け足す。四次元で物事を考える人間の自動的な「意味づけ」である。

するとどうだ、絵の中で本来地球の重力に引っ張られるべき大きさのものが不自然に浮いている。浮かんでいていいのは原子核の周りを周る電子のようにミクロの世界か、もしくは惑星や衛星のようなマクロ規模のモノだけだ。意味がつけられないので脳はバグだと判断し理解するのをやめる。

一方心は感じることをやめない。

絵の向こう側が極端に小さいのか、大きいのか。あるいは見ているこちら側が原子のように小さいのか、ものすごい巨人なのか。ふわり。わからないまま絵の前に立つ私の大きさは自由になり、無重力空間を原子や星のように漂う。

これが意表を突き心を掴む浮遊感の正体である。

この作品に登場するモノは意味が分からないし物理法則に反しているし整合性がないように思える。だからこそパースペクティブを敢えて露骨に説明している。科学的リアルと感覚的リアルがせめぎ合っている。物理学への興味とカトリックへの帰依という、当時のダリのテーマをありありと映し出す作品だ。



・アニッシュ・カプーア 虚ろなる母 1988~90 


 
常設展の最後のブースにどかんと存在する巨大な青い半球。初めて見た時、私はこれの前から動けなくなった。
 

この作品の面白さ一つは、ただの形であるが故の視点による印象の違いだ。

私の身長より少し大きい半球の内側には光を吸収する青の塗料が塗られていて、底面は見えそうで見えない。どこまでも青い暗闇が凝っている。正面に立つとちょうど視界がすっぽりと暗闇に取り込まれる大きさになっている。覗き込むと無限の闇の中に吸い込まれそうで、異次元の入り口に立ったようでぞっとする。
遠くから冷静に見るとただのファイバーグラスでできたお椀なのだ。しかし一度中を覗き込むと深淵に放り込まれてなかなか出られない。

福岡市美術館ではこの作品をあらゆる角度から見ることができる。キャプションは足元の目立たない位置に置かれており、作品のバックグラウンドを目に入れないままのびのびと自分なりの芸術係数を弾き出すことができる。美術館でなく、森の中や都会の裏路地、家の中で突然この作品と出会ったらどう感じるだろうか?と想像するのも面白い。

 
もう一つの特徴は、二面性の融合だ。

作品は、暗く無機質で硬い。じっと見ていると音も聴こえなくなって、自分がどこにいるか分からなくなっていく。しかし私たちは不思議とそこに崇高を見出し恐怖することはない。寧ろ副交感神経が優位になり、母性のような穏やかな揺らぎの内に身を委ねるだろう。実際に私はこの作品の前で3度深呼吸をした後、深い安心に包まれて涙が出た。目の奥が痛くなる悲しい涙とは違った、温かい涙だった。

カプーアはインド出身。瞑想や神秘をテーマにした作品を作っている。この「虚ろなる母」はインド哲学的な解釈における「宇宙」のミメーシスだと思う。宇宙の有機的な原理 ー球であること・終わりのない闇であることー がファイバーグラスとベルベットのような柔らかい質感の塗料から上手く現れている。

底知れない脅威でありうるけれども、同時に恵みであり愛であり母であるもの。宇宙は美しさである。美しさは恐れと安堵を分け隔てなく孕んでいる。



読んでくれてありがとう。
皆さんもぜひシビに行って、生で作品を見てみてね。

2022.10 宇宙ちゃんのアトリエ ZEN

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