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山に登る舟(3)- 女将と師匠と雀 -

 時は少し遡って、私がムラックと出会う前のことである。何の練習もなくあの壮大な山に登るのはさすがの私も躊躇っていた。そこで私は山登りが好き、もしくは好きそうな友人二人に一緒に山登りをしないかと声をかけたのであった。
 一人は和菓子屋の主人である。私はすずめやさんと呼んでいる。この和菓子屋は都内に店を構えてはいるのだが、近郊の山の中にも別宅と畑を持っている。別宅付近の山を少し歩ければ、と私は軽い気持ちで声をかけたのであった。すずめやさんはニコニコと答えてくれ、山を歩く数日前に私に届いたプランはこうだった。
ー 早朝に高速道路を数時間走り中央アルプスの駒ヶ岳の山頂付近までロープウェイで登り、尾根を歩く ー
 私の想像の及ばないプランであった。

 声をかけたもう一人は長年付き合いのある京都の喫茶店の女将だ。女将は数年前から山登りに夢中であり、店の定休日であれば女将は一緒に山登りに付き合ってくれるのではないかと期待したのだ。連絡をしてすぐに女将からは山登りの計画を立てる旨返信が届いた。思惑通りである。
 数日後、女将から「一泊二日でもよいか?」という打診があった。それはつまり山小屋に泊まるということであった。山小屋の作法を知らない私にとってはありがたい申し出であった。時間の自由な私は喜んで了解の旨を伝えた。さらには女将の山の師匠も同行してくれるとのことであった。もはや、女将と師匠の山登りに私がくっついていくという形である。どんな形でもよい、山に登るという経験を少しでも積めれば私は満足であった。
 ほどなくして手書きの山登りの計画書が届いた。目的地は白山と書かれてあった。白山とはいったどこであろうか…?白山は北陸地方にまたがりたっていた。そして京都から早朝に高速道路を数時間を走り、登り口まで行く計画であった。山は京都にもあるではないか…?と思ったのだが、初心者であり見習いの私は口をつぐんだ。
 こうして私の乗った舟は私の予想を超えてぐんぐんと進んでいった。

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2022年の雲ノ平山荘主催のアーティスト・イン・レジデンス企画に参加し、人形アニメーション「MRAK -ちいさな植物学者ムラックの雲ノ平の旅-」を制作いたしました。
4月22日~7月10日期間、東京と山梨合計3箇所にて作品の展覧会が開催されます。展示会会場にて映像の全編と使用した人形などの展示をいたします。
ご来場お待ちしています。


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