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[読書感想文]入門オルタナティブデータ ~ 経済の今を読み解く ~

オルタナ投資に関する調べ物をしている際に、本屋で偶然見かけて手に取ってみたのが本書である。当初の調べ物とは全く関係のない本であったのだが、Noteで公開されている端書も読んで俄然と興味が湧いたので読んでみた。

出版された背景や目的は、Noteで別途まとまっているので興味がある方は是非そちらも読んでみてください。

“コロナ禍を通じて、携帯電話の位置情報に基づいた「人流」や、クレジットカード取引履歴に基づく足元の「消費動向」などなど、新しいタイプのデータを目にする機会がグッと増えました。これまで、人々の社会・経済活動の動向を捉えるデータとしては、政府が集めて公表する統計が一般的でした。"

"しかしどうしても、政府統計は調査・収集から発表までの間にタイムラグが生じてしまいます。 目まぐるしく変化するコロナ動向や感染症対策が私たちの生活にどのような影響を与えているかをいち早く知り、行動を起こすためには、リアルタイムで足元の情報をつかむ必要があります。そんな中、伝統的な政府統計とは違う、企業のビジネスの過程で蓄積されるさまざまな情報の活用に注目が集まりました。"

"こうした新しいタイプのデータは、「オルタナティブデータ」と呼ばれています。欧米では、特に金融業界や政策現場で、経済動向を捉えるツールの1つとして早くから注目され、活用が進んでいます。 本書は、そんなオルタナティブデータを研究に活用し、そしてビジネスとして展開してきた日本の先駆者である東京大学の渡辺努先生と、株式会社ナウキャストCEOの辻中仁士先生が、オルタナティブデータに関わる官民のトップランナーたちとまとめ上げた一冊です。”

はしがきからの引用


目次は以下の通りで、いつも通り印象に残った章について感想を書いておく。

第1部 オルタナティブデータ活用の新地平
第1章 「オルタナティブデータ」とは何か?
第2章 データ・ビジネスの最前線
第3章 政策現場におけるオルタナティブデータの可能性
第4章 オルタナティブデータを用いた経済活動分析
第5章 オルタナティブデータ活用に向けた政府の取り組み
第6章 オルタナティブデータと政府統計のこれから

第2部 オルタナティブデータの活かし方
第7章 オルタナティブデータが捉える現象とその使い方
第8章 新型コロナウイルス感染症は消費行動に何をもたらしたか?
第9章 スマホ位置情報で捉える行動変容のカギ
第10章 クレジットカードデータで捉えるオンライン消費の動向
第11章  From To指数を用いた人流に関わる消費動向分析

なお、この本が想定している読者は1〜5という括りで、私は4と5に近い読者となるのだが、同じような方であれば第一部の3・5・6章はバッサリ読み飛ばしてもいいかもしれません、もしくは先に第2部から読んでしまう。

オルタナティブを利用した投資戦略の立案や、実際の分析事例を知りたいという方には2・4章読んで、そのまま第2部に進むことをお勧めします。

  1. オルタナティブデータを活用した経済分析に関心を寄せる大学生、大学院生の皆さま。

  2. 経済政策の立案・形成や経済統計作成を担当し、民間データの活用を模索している政策実務家の皆さま。

  3. 経済報道を担当し、新たな情報ソースとしてオルタナティブデータを活用している報道関係者の皆さま。

  4. 資産運用会社や証券会社等の金融機関で伝統的な財務・公的統計以外のデータを活用し、エッジの効いた分析を行おうと考えておられるアナリスト、ファンドマネージャー、エコノミストなどの皆さま。

  5. 位置情報や決済データ、POSデータなどを持ち、新たな事業としてオルタナティブデータ・ビジネスに関心をお持ちのビジネスパーソンの皆さま。

目次

  1. 1章 生産性の基礎の話

  2. 2章 いま読むべきケインズ

  3. 4 章 情報科学・イノベーション・建築と政治経済

4章 オルタナティブデータを用いた経済活動分析〜日産工場の稼働率から株式投資戦略へ〜


本章ではオルタナティブデータを活用した経済活動の測定と分析手法の実例を紹介しており、オルタナティブデータ活用の利点と注意点を挙げている。

オルタナティブデータの利点で注目すべき点は、高い速報性が挙げられる。この利点を活かして、自動車工場の生産活動量を携帯GPSデータから事前推計を行い、株価の先行指標として用いる分析事例がこんなことを公開してもいいのかなと不安になってしまうぐらい面白い。

本章のベースである参考文献の論文では、実際に投資戦略シュミレーションを行っており、推計した生産量が高い自動車会社の株式を購入・推計した生産量が低い自動車会社の株式を空売りした投資戦略の累計リターンは200%を超えている。

携帯電話 GPS データに基づく 自動車生産量のナウキャスティングと株式投資戦略から抜粋

このあたりから新たな想定読者 6.FIREの早期達成を目指すいち個人投資家の顔として読んでしまったのが、新しい情報源を活用した経済動向の調査手法とそこから得られる示唆・知見の具体的な活用方法を知ることができる。

この推計方法って今でも活用できるんだろうか・・・・・・・・ゴクリ。


9~10章 スマホ位置情報で捉える行動変容のカギ& クレジットカードデータで捉えるオンライン消費の動向 ~消費者行動の解析~

9章と10章はコロナが発生してからのこの2年間で生まれた2つの疑問に対する見解を提示してくれた章である。

1つめの疑問は「緊急事態宣言」や「まん延防止策」といった政策が人々の行動変容にどれほどの効果があったのか?だ。

この半年は明らかにコロナ禍に対する慣れが出てきており、個人的には「まん延防止策」による効果を非常に認識し難い(逆に社会や経済に悪影響が出ているように見えている)のだが、本章では2020年3月に宣言された初回の緊急宣言時前後のオルタナティブデータを分析して、政策効果を明らかにしている。

分析結果(政策効果の有無)は読んでもらいたいので言及はしないが、本章は是非以下の皆さまに読んでほしい章である。

  1. 経済政策の立案・形成や経済統計作成を担当し、民間データの活用を模索している政策実務家の皆さま。

  2. 経済報道を担当し、新たな情報ソースとしてオルタナティブデータを活用している報道関係者の皆さま。

2つめの疑問は、コロナ禍によって爆発的に普及したオンライン消費(ネットショッピング・動画ストリーミング・インターネット保険等)は、コロナが収束した後も支持され続けるのか?コロナによって変容した消費者行動は元に戻ることはないのか?(非可逆的なのか?)だ。

こちらの問いに対しても、問いの深掘り・詳細化からオルタナティブデータを用いた行動変容の分析と、消費者行動が変化した効果が将来にわたって続くどうかの推計という一連の流れが丁寧に解説されている。

分析結果は、私が持っていた仮説とは異なる結果になっているのだが、第2部の各章に共通している
1. まず問題・課題(仮説ベース)を設定する。
2.その問題を検証する方法を考えてデータを収集する。
3.データ分析を行う(外れ値や季節要因などのノイズを除去する)。
4.分析結果から結論を導く。
という一連の流れは、オルタナティブデータの活用有無に関わらず、幅広いビジネスシーンに応用できる極めて有用な手法・考え方である。

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