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【読書感想文】失敗を語ろう「わからないことだらけ」を突き進んだ僕らが学んだこと

本屋を何気なく歩いているところに、マネーフォワード創業者である辻康介さんが著者である本書がふと目にとまった。現職が金融とIT関連ということもあり、マネーフォワードには以前から注目しており、2021年6月に発行されたマネーフォワードの創業日記ともいえる本書を読んでみた。

ソニーからマネックスに出向された後に、アメリカ留学から創業にいたった経緯とそこからの七転び八起きのような事業拡大の軌跡を描いている。かなり失礼な言い方をすると、、今まで読んだ一般的な創業者日記であったが、琴線に触れる章があった。

「ログミーファイナンス」掲載(2021年11月期 通期決算説明会書き起こし)

なお、マネーフォワードは2013年創業から10年も経たずに150億弱!!の売上高を達成しているので、平易な文章に全く出てこないHard Thingsをたくさん経験されたと思っています(こんな事業に携わってみたい!!)

【BAN! BAN! BAN! 〜 ユーザーが一番の味方に 〜】

BAN! BAN! BAN!は主に金融機関からマネーフォワードの接続を拒否される経緯が紹介されているのだが、この打開策として最終利用者・ユーザにフォーカスすることで打開した事例を、頭がちぎれるぐらいうんうんと言いながら、頷きながら読んでしまった。

マネーフォワードのサービスは、一言で表すと今では一般的になったアカウントアグリゲーションです。

ここ数年、アカウントアグリゲーションと呼ばれるサービスが話題となっています。アカウントアグリゲーションとは、複数の金融機関の口座情報を一つに集約、閲覧できるようにすることです。

アカウントアグリゲーション、APIとは

複数の金融機関情報を集約するためには、各金融機関のサービス(一般的にはWEBサービスに)アクセスして、情報を収集してくる必要がある。このデータを収集する際には、スクレイピングという手法を活用してシステム的に対象金融機関のWEBサーバにアクセスを行う必要があるのだが、アクセスされる先はたまったもんじゃないんです。。システム的にアクセスされるため、リクエストが増えてそれを捌くためのサーバを増強する必要があり(コスト増加)、加えて利用者は全くアクセスしていないため(あくまでもシステム≒Botがアクセスして情報を抜いている)、新規顧客獲得やアップセルに何もつながらないため、売上拡大にも寄与しません。

※スクレイピングという手法は代表的なWEBサービスの利用規約で禁止されており、現在では公開された有償/無償APIを活用することが一般的です。2013年当時はおそらくマネーフォワードはほぼスクレイピングでデータを取得していたと私個人の推測です(間違っていたらごめんなさい!)

Yahoo!ファイナンスでは、Yahoo!ファイナンスに掲載している株価やその他のデータを、プログラム等を用いて機械的に取得する行為(スクレイピング等)について、システムに過度の負荷がかかり、安定したサービス提供に支障をきたす恐れがあることから禁止しています。

Yahoo!ファイナンス利用規約

こういった背景から金融機関は一般的にアカウントアグリゲーションに必要なデータ取得は遮断しますし、API公開には後向きな姿勢がほとんどです。巷では金融機関がイケてないから、技術を誰も理解していないからと批判されることがありますが、それなりに合理的な判断がなされていると思っています。最近話題になったFreeと楽天銀行のAPI接続停止もこういった背景があります(多分)。

ですが、いち利用者・投資家目線にたつと、アカウントアグリゲーションは非常に便利です。なんとか銀行にアクセスして残高確認、うんちゃら証券にログインして残高確認、ぺけぺけクレジット会社にアクセスしてとなると、めちゃくちゃ面倒です。マネーフォワードにアクセスすると全ての口座残高が集約されて参照が出来て、そこから入出金指示が出来るとめちゃくちゃ便利です。

そのため、本来なら実現されるべきコンセプト何ですが、金融機関側からこんなサービスは出てきません。なぜなら、ある金融機関がアカウントアグリゲーションしたいです!と言っても、競合である同業者としては、コストは増えるわ、自社の売上げにも繋がらないサービス(でも他社の売上には寄与する)に接続を許可するわけがないからです。なので各社のすくみ状態が生まれて利用者だけが置いてけぼりにされる状態が生まれます。

その壁をぶっ壊したのがマネーフォワードなのです。2013年から軌道に乗るまで、えらいおじさん・おばさん達に怒られまくって、小言・やっかみ・罵声を浴びながら(多分・・・)、利用者の便益拡大にフォーカスすることで、少しづつアカウントアグリゲーションのコンセプトを実現した軌跡が本章では描かれています。

本来であれば業界プレイヤーでの解消が難しい構造的な問題は国が解決すべきとは思いますが、各金融機関に対するAPI利用規約に対する2020年にようやく法整備や各金融機関の体制整備が完了しています。マネーフォワードの創業が遅れていれば、さらに実現は後倒しになっていたんじゃないかと思います(もしくは外資Fintech企業に無理やり既成事実化される)。

オープンAPIに対する銀行界の取組み

このあたりもマネーフォワードFintech研究所設立の経緯として語れています。

新しい事業企画・サービスコンセプトを実現する際には、誰のなんの課題を解決すべきなのか、解決にあたっての業界固有・慣習といった前提・制約事項は出来るだけ取っ払うべきと改めて理解・認識した本でした。

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