ドラム式洗濯機が入らなくても
もう買う気も買う気だったのに、打ち砕かれた。1cmの壁。
ドラム式洗濯機がでかいのも、うちの壁がギリギリなのも、
ぜーんぶ知ってたんだけど、なんだかんだ入るだろうな〜なんて能天気に構えていた。
処方箋は
「引っ越すか」
「ドラム式洗濯機が一回り小さくなるのを待つか」。
話を聞くところによると、ドラム式洗濯機は年々小型化してるらしい。
そんなのあんまりだよと思ったけれども、
搬入の下見に来た業者の人
「すんなり『ドラム置けます』って言える家の方が少ないのでね」
とガハハと笑うので
つられて笑い方の特徴的な彼もガハハと笑って
とりあえず私もガハハしておいた。くう…!
そもそも、ドラム式洗濯機を買おうと思った理由は、
我が家の構造にある。
キッチンの目の前に室内用の物干し竿があるのだが
そこにダイニングテーブルを置いているので
洗濯物がそこにかかっていると左右に洗濯物をみながら食事することになり、使い勝手が悪い。
ちょうど暖簾をくぐるように、洗濯物をくぐることになる。
お互いズボラで、乾いた洗濯物をすぐに畳んでしまおうとか
そんな発想もなく、乾いたところから使うときに取っていくようなスタイル。
基本的に洗濯物がそこからなくなることはなく、
来客がある時に慌てて片付ける始末であった。
実家ではそんなことをしていると、早くしまえと
すごい剣幕で祖母に怒られたのだが、
この家には物干し竿から積極的に今日の服をもぎとるやつしかいない。
仕事から帰ってきて洗濯物を畳む気も起きない。
多少の幸福度は下がるかもとは思うが、
死ぬわけでもないし、目をつぶることにしていた。
*
「じゃあそうだ、ドラム式洗濯機を導入しよう」
東京在住の私たちが、比叡山延暦寺近くの喫茶店で、そう決定した。
旅行先の滋賀県で、全く無計画な私たちは、バスで30分坂道を登る比叡山延暦寺に徒歩で到達しようとし、途中の喫茶店で休んでいた。
その喫茶店のインテリアが素敵だったことにも触発されて、我が家についての話になったのだ。
この決定は、かなり胸弾んだ。
洗濯機は週2回まわしていたのだが、
彼は出社、私は在宅勤務で基本的に私の仕事になること。
洗濯物の竿があるせいで、ダイニングの電気が未だ「電球」だったこと。
そして前述の、洗濯物暖簾問題。
電球に関しては、探せばつけられるものは多少あったと思うが、
洗濯物の存在感でどんな照明つけようにも生活感丸出しな気がして
探す気力も起きなかったのであった。
でもこれで、洗濯物干す場所問題も解消し
照明もおしゃれなものを導入できる。
そしたら、植物置いたり、もう少しキッチン収納も整備したいな〜
とか、膨らませるものはかなり膨らませたところで、
ドラム式は入らないとのお達し。
ガハハが帰っていくと彼が
私の顔を見てピャー!と一言。ホラーかよ。
*
それ以来、家電を見に行く時にドラム式コーナーを通りかかると、あっ、、、っと声を漏らすお決まりができた。
いろいろ夢を膨らませていた手前、もちろんドラム式洗濯機が入らなかったのは残念だった。
だけど、彼は洗濯物を干してから3日以内に片づけるというマイルールを決めたようで、洗濯物を積極的に畳んでくれるようになり、
比叡山で嫌だと言った、電球からも卒業できた。
長袖がうまく畳めず、畳んだのか丸めたのかわからない私のヒートテックもなんだか愛らしいし、IKEAで買ったおしゃれ照明のおかげで
もっと家が好きになった。
もちろん洗濯物を干す手間がなくなったわけではないので、
もし引っ越したらドラム式はやっぱり欲しいよねとか、
次はペット可物件がいいねとかまだまだ叶えたいことはあるが。
なにか一つダメでも、ダメなりに夢を描いて暮らしていける。
*
結局滋賀では、比叡山には行かなかった。
2人でドラム式洗濯機を買うことにした喫茶店で、かわいいホットケーキを食べて満足してしまったのだ。
もう比叡山はまたの機会でいいかと笑って足取り軽くUターンした。
目的地に着かなくても、寄り道でも、それが楽しい。
いつかドラム式を導入したら、感動もひとしおだろうな。
二人で小さく拍手するような日々を描きながら
しばらくはこの手間を笑い話とする。
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