欲望ごはん#5 〜豆乳鍋〜

「今日のお昼は豆乳鍋にする」と言うと、
「昼から?」と彼。

鍋って夕ご飯にするイメージがあるけど
なぜなんだろう。
お酒にあうから?家族団欒の象徴だから?
確かに誰かと食べる鍋は「鍋」って感じだけど、
ひとりで食べる鍋は「煮物」ってニュアンスになる気もする。

彼のご両親にご挨拶に行った際
夕食に連れて行ってもらった店でお鍋をいただいた。

ひとりひとつ、鍋が配膳されており、
つつきあうことはなかった。
おいしいお鍋だった。

だが、シメのうどんを自分の鍋で作っている時は
自分のひとり暮らしの狭いキッチンで、冷凍うどんを茹でているような気持ちだった。
みんなでつつく鍋が、とても懐かしい。
ぎこちないまま、帰路につく。

だが、彼と私の間にふわっと湯気がたったときに分かった。
昔は居酒屋でよく鍋を食べたが、今は家で、親しい人としか鍋をつつかない。
鍋は一種の、この間柄の証明なのかも、と。

「おいしいね」
と、綺麗な歯並びで笑う彼を見る。

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