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新年のおはなし

「もう今年は大変な一年でした…」
ネズミがうつむきながらつぶやいた。

「ネズミさんまじで気の毒っす。しゃあないっす。」
サルがビール片手にネズミをねぎらう。

「今年は十二支新年会が中止になったぐらいだからね。
こんなことは僕が参加するようになって以来はじめてだよ」
タツが同調する。タツは今日集まった三人の中では最年長だ。

「まじっすか!それはやばいっすね」
どうせ自分の番がくるのは七年後。サルはそこまでの危機感がないようだ。

「サル、あんまり飲みすぎるんじゃないよ」
「自分まだまだよゆうっす!」
「本当かい?顔が真っ赤だよ」
「元からっす!!」

そんなやりとりを二人がしているあいだもネズミは黙っている。
あまり食もすすまないようだ。

「そりゃオリンピックイヤーって盛り上がってはじまった一年だったのに、ぜんぶ中止キャンセルじゃ落ち込むっすよね…」
「イノシシが『2020年も猪突猛進!あとは頼んだネズミ殿!!』なんてネズミを鼓舞していた去年の引継ぎ式が懐かしいね」
「去年は十二支一周で盛り上がりやしたねー。引継ぎ式のあと、新年会でイノシシ超ハイテンションで大変っした」
「十二年に一度の祭典も兼ねているからね、イノシシからネズミへの引継ぎ式は。今年の引継ぎ式はどうなったんだっけ?」
「オンラインで一応やりましたよ。神さまとウシさんとわたしだけで。」
「おおー…」

ーーーーーーー
神:待たせてすまん、ちょっと前の用事がおしての…。
えぇーこれより、2021年の引継ぎ式を執り行う…なんて堅苦しいことを三人でやるのもこっぱずかしいのう!しかもオンラインで!

ー(”パパー、ごはんできたよー”)はいはい、もうすぐ行くよってママに伝えて、ね?

まあ今年はネズミからの鼓舞激励の舞も無いしちゃっちゃっとすませちゃおうかね。
ネズミ・ウシ:はい。
神:じゃあネズミ、ウシにちょっとひとこと、エール的なのを。

ネズミ:はい!本年は未曾有の一年で、対応に苦慮していたらあっという間に一年が終わってしまいました。わたし自身うまくやれたわけではありませんのでたいした言葉はお送りできませんが、「事態を打開する劇薬はない」、これだけは言えます。
どうしても、手っ取り早く実行できる対策や、短期的な負担の少ない手段ばかり実行したくなりますが、やはりそういったものでは一瞬効果があったように見えても長期的な解決には至りませんでした。
ウシさんには、2020年を踏み台に、よりよい一年を実現していただければわたしの苦労の甲斐があったというものです。どうぞ、来年はよい一年になりますよう、陰ながらお祈り申し上げます。

神:いやほんと、ネズミ今年は災難じゃったの。よくがんばってくれたよ、立派じゃった。じゃあウシから、答辞を。
ウシ:はい、ええー。うーん、正直、とっても不安ですが、なんとか頑張りたいと思います。ネズミさんにはいろいろ教えてほしいです。
神:…以上、かね?まあそうじゃの、ウシはネズミにいろいろ教えてもらいながら頑張ろうね。ネズミも、いくら技能伝承の勤めがあるとはいえ今年は助言してやるのも難しいよのう、まあ一緒に悩んであげるくらいの気持ちで大丈夫じゃ。ではこれにて、2021年の引継ぎ式を閉式とする!解散!
ーーーーー

「えっと、ウシ、大丈夫っすか?」
「今年を引き受けて大丈夫な干支はいないだろうねえ、こればかりは運のめぐりあわせだから仕方ないけれど」

「イノシシも多少はネズミさんのこと助けてくれたんすか?一応技能伝承の勤めがあったんですし」
「いくら後継に助言する責任があるとはいえ、今年はイノシシもお手上げだったろう」
「イノシシさんは、年末にメッセージをくれました」
ネズミがイノシシからのメッセージをふたりにみせた。

『よう、ネヅ子!久しぶりだな、伊之助だ。なんてな!
今年は大変な一年だったな。さすがの俺でも猪突猛進できなかったと思うぞ。
でもな、君は君の責務を全うした。俺はそう思う。胸を張るんだ!
よい正月を迎えるんだぞ!』

「…イノシシは影響を受けやすいんだね」
「そっすね」
「それで、なんて返したんだい?」
「わたしはネヅ子じゃないです、と」
それはそうだな、とふたりが笑う。

「いろいろありましたが、2020年が終わって内心ホッとしています。
いまはもう、つぎの一年が少しでも私の年よりよくなるよう祈るばかりです」
「そうだね。少しでもネズミの努力が報われて今年いろんなことが好転するよう僕も願っているよ」
気づけば随分と酔いが回って口数が減ったサルは無言でうなずくばかりだが、気持ちはネズミやタツと同じはずだ。

「また僕たちはたまに集まろうよ、オンラインでもいいしさ」
「そっすね!タッさんまた会いたいっす!」
「僕をタッさんと呼ぶのはやめてちょうだい」
「あとねづっちにもね!」
「わたしはねづっちじゃないです」
ふたりを見ているとどんな状況でも励ましてくれて心の拠り所となる友がいることへの感謝の念がこみあげてくるネズミだった。

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