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コラム)ファイナンスの知見の投資応用|これからの理系の企業家向け

 これまで、理系の企業家(起業家や企業内起業家、新規事業担当者など)にファイナンスへの興味を持ってもらいたく、ファイナンス関連について15回程度ポストしてきた。これらの知見が、少しでも事業の役に立てたのであれば、これほどうれしいことはない。もう少し、ファイナンスと会計に関わるポストを続けようとも思っている。その前に、まだ企業家ではないが、弊マガジンを読んで下さっている方に、知見の応用先として投資(特に株式)についてポストする。これまでのポストを引用しつつ、それを応用した投資の考え方を提示し、過去のポストの内容を思い出し、理解を深めることに役立つとうれしい。

情報の非対称から考える理系の個人投資家の方向性

 エージェンシー問題のポストに、情報の非対称の解消について、投資家と経営者の打ち手を示した。ファイナンスでは、この情報の非対称により、現在の取引価格と情報の非対称がない本来の価格との間に価格差が生まれ(裁定機会)、それを解消する取引で利益を生むことができるとある。これは、投資に割ける時間とお金がある機関投資家と片手間の個人投資家の間にあてあめると、この機会を発見する力に歴然の差がある。例えば、このような機関投資家は、投資先の企業経営者と直接面談が可能であったり、当該企業の業界の専門家がいたりする。よって、個人投資家の基本戦略はこれらプロの機関投資家に運用を任せるか、これらの機関投資家が時価総額が小さすぎて流動性の問題*で投資が難しい、小さい企業に投資するかが方向性になるだろう。
*時価総額が50億円の企業に10億円投資すると、想定価格での売買や売買そのものができないなどの問題

情報劣位の場合|分散投資とプロの任用で個別リスクを低減

 下記ポストを思い出してほしい。
 まず、企業には市場リスクと個別リスクが存在しており、理論的には、市場の全証券を購入することで個別リスクを極めて低くし、市場リスクのみを取ることができる。全証券の購入は難しいが、各国の株式市場にある指標(日経225やS&P500など)に連動するファンドやそれらをおまとめにしたファンドを購入する分散投資戦略がある。
 次に、ご自身が所属されておられたり、特別な情報をもつ業界がある場合、プロが運用するテーマファンドで運営する戦略が考えられる。その場合、その業界が沈んだ場合は、価格下落が避けられないが、その業界について詳しければ収益を得られる可能性が高まる。
 最後に、個別企業に投資は難しいが、個別企業への投資をプロに任せたいならアクティブファンドもある。日本では、ひふみ(藤野氏)やおおぶね(奥野氏)などのプロの能力(情報取集能力や投資判断)を信じて任せることができる。このようなファンドでも、分散投資によるリスク低減もされている。
 加えて、このようにリスクを低減した投資ができても、日々大きく価格変動がある場合、購入タイミングのリスク(時間リスク)がある。これを避けるため、ドルコスト平均法による積み立てることで、投資の時間分散を実現し、このリスクを回避できる。
 このような情報強者のプロが運営するファンドで個別リスクと積み立てで時間リスクを分散することで、長期的には銀行預金より良好なリターンが得られる可能性が高まる。それでは、プロがいないところで少しチャレンジしてみたい場合はどうか?
※市場リスク、個別リスクを忘れた方は下記を参照

プロが少ない低時価総額が個別企業への企業価値投資

 先ほどの流動性の問題から、機関投資家(プロの個人投資家もいるから、一概には言えないが)が投資しにくい企業を選ぶ時点で、情報強者のプロとの勝負を避けることができる。よって、時価総額が小さい企業を投資先とすることが考えられる。
 ここでは、現在価値を利用した企業価値の議論を思い出してほしい。企業価値は、成長率と割引率で決まることを覚えているだろうか?つまり、成長率が高く、割引率(事業リスク)が低い企業の企業価値が高いため、このような企業を探せばよい。まず、割引率が低いということは、例えば、地元に根付いている居酒屋さん(しばしばスポーツなどの趣味を共有している)が固定客の利用で毎月の売り上げがある程度見込めるような状況である。他方、成長率は、お店の拡張や出店、最近であれば、テイクアウトやECに打って出るなどが考えられる。それでは、売買可能な上場企業の場合はどうか?
 例えば、インターネット企業でサブスクライブ型の安定収益事業を持ちつつ、新規事業に打って出ている企業を考えよう。この企業価値を投資対象として考える場合、ファイナンスの知見が不十分だと、この企業が成長率向上のための投資実行により(特に費用となる広告宣伝や減価償却など)、大きく利益が減少することで企業価値が減少したと考えることがある。特に、日本の株式市場は経常利益が減少した時にしばしば見られ、株価も低迷する。これは、ファイナンス思考(企業価値発想)とPL(毎期の収益)思考の情報の非対称が存在しているとも言えよう。もし、既存事業が新規事業との共食いによる毀損や企業を破滅に追い込む巨額の投資でない場合、最悪、新規事業をやめれば、もとの成長率と割引率に戻り、企業価値は戻る。よって、このような理由で株価が減少している企業を発見できれば、投資対象として分析するのは面白い。

※PVをお忘れの方は下記を参照

最後に

 いかがであったろうか?企業家は自身の事業に邁進すべきである一方、本稿を読みながら、ファイナンスの考えを自身の投資に応用することで、将来企業家になった時に備えて、ファイナンス力を強化するきっかけとしてはどうであろう。特に、プロが少ない市場でに挑む際、企業を調査やこのマガジンの内容を実際に使ってみることで、ファイナンス力が向上する。
 ある企業が好きで応援したいというのも、株式投資のとても大切な部分なので、その場合は上には当てはまらないかもしれない。蛇足ではあるが、無知な頃の筆者は某半導体メモリー会社を応援したい一心で小口投資を続け、当該企業の破産により株価が1円になった経験がある。あくまで、ファイナンスの知見応用としての推奨なので、実際投資をされる際には余剰資金で、慎重に。(企業経営者との情報の非対称から投資家は常に劣位にであることをお忘れなく。)

記事を書くときの素材購入の費用などにさせてもらえればと思います。