追悼

昔飼っていたうさぎへの気持ちを整理するための文です。
病気によるものですが、動物が死ぬ描写があります。ご注意ください。







小学一年生の誕生日。
家に帰ると、緑色のフェルトでつくられた箱があって。
両親から「開けてみなさい。」と言われて、恐る恐る箱を開くと、黒い小さなうさぎが鼻をふすふすと鳴らしながら、こちらをみていた。

なんてかわいいんだろう。
ひくひく動く鼻も、長い耳も、まんまるの目も、何もかもがとても愛おしかった。
もう何年も前の話だけど、未だにその光景を覚えている。

幼い私の頭では、複雑な名前を考えることはできず、直感で「ぴょんちゃん」と名付け、それはたまに「ぴょんのすけ」や「ぴょんすけ」になったりした。(ちなみに性別はメスだった。)

とても賢くて、かわいいうさぎ。
家では放し飼いはできず、ゲージの中で飼っていたけど、
たまに祖母の家の庭や、近所の山まで車を走らせて、自然の中へつれていった。
最初はこわごわと歩いていたけど、少しすると草原をかけまわり、穴を掘ったり、草の陰で涼んだり、とても活発に動き回っていた。
「ぴょんちゃん!」と呼ぶと、どれだけ遠くにいても、耳をぴんとたてて、駆け寄ってきた。とてもかわいくて、とても賢くて、私にとって姉妹のような不思議な存在だった。

でも、美しい記憶だけではなくて、もう断片的にしか思い出せないけど、
ゲージの掃除やエサをやるのを中学生くらいからさぼることが増えた。
両親もきちんと世話をする人たちではなく、環境はあまりいいとはいえなかったかもしれない。

過去にしてしまったことはどれだけ後悔しても消えることはない。

朝のおやつが好きで、誰かが出かけようとすると猛アピールするぴょんちゃん。
どれだけブラッシングしても、どんどん毛がでてきて、でもブラッシングの後は艶々のビロードみたいな毛並みになって。
よく足の間に挟まってきて、そこでぺたんと横になって。
一度祖母の庭の倉庫下にもぐってでてこなくなったこともあった。

私が高校生になった頃、ぴょんちゃんからギリギリと歯ぎしりのような音が聞こえるようになった。
最初は気のせいかなと思っていたけど、だんだん聞こえる頻度があがってきて、何かの病気かもしれないと思った私は、両親に頼んで動物病院に連れていってもらった。

「なんではやく連れてこなかったんですか?」

獣医師さんにそういわれて、私は何も言えなかった。
どんな言葉も言い訳でしかない。

でもそこの獣医師さんはとても優しくて、一人で困惑していた私に、丁寧に薬の飲ませ方と、エサの食べさせ方を教えてくれた。

心肥大だといわれた。

学校から帰ってきたら、毎日ぴょんちゃんを太ももの間にはさんで、注射器を口にいれて、薬とエサを流し込む。
完治することはなく、ずっとこれを続けていくことになる。
正直、とてもつらかった。

とてもじゃないけど、一人で毎日はきついなと思った。

心肥大と言われてから、何か月かたった。

ぴょんちゃんは目もあまり見えなくなっているようで、ビー玉みたいに光っていた黒い目も、少し白く濁っていた。
でも、相変わらず名前を呼ぶとこっちをみてくれる。
随分痩せてしまった。
山にも連れて行った。少し歩いた後、いつもの草の陰で寝ころんでいた。

最後の日は突然だった。

その日は私は創立記念日だかなんだかで、学校が休みだった。
とても暑い日だった。

なんとなくぴょんちゃんを撫でたくなった私は、ゲージの扉を少しあけた。
そして手を伸ばそうとした瞬間、聞いたことのない鳴き声がぴょんちゃんからあがった。
私が驚いている間に、ぴょんちゃんの体はどたんと横になり、息が荒くなって、体から力が抜けて・・・
あっという間だった。
とりあえず、病院に行かなければと半ばパニックになりながら、叔父に電話して車で動物病院まで飛ばしてもらった。病院の受付で、説明も何もできずただ「ぴょんちゃんが!」としかしゃべれない私をみて、獣医師さんはすぐぴょんちゃんに心臓マッサージと電気ショックをしてくれた。
でも、そのままぴょんちゃんは亡くなってしまった。

唖然とする私に獣医師さんは治療のお金をとることもなく、ペットが亡くなった後のことを優しく教えてくれた。
動物にも人間にも優しいお医者さんだった。

あんなに温かくて、ふわふわしていた体は。
もうすっかり冷たく、かたくなってしまった。

小さなダンボールにぴょんちゃんが好きだったものと、花をいれて、そのまますぐペット霊園までいって、火葬をしてもらった。

白い骨になった姿をみて、泣いてしまった。
もう何もできないんだ。

骨壺にいれてもらって、綺麗な骨袋に包んでもらって、
霊園の人には「なるべくはやく土に還してくださいね。」と言われた。

でも、しばらくは土に還すことができなかった。
ゲージも、エサも、何もかもが捨てられなかった。

親には「お前のせいだ。」といわれた。
とても重い一言だった。

それから、毎年夏になるとぴょんちゃんに似合う花を買って、骨壺の横にいけた。
黄色いガーベラ、赤いバラ、青いブルースター、濃い青の紫陽花。
色々な花を贖罪のように花瓶にいけた。

骨を土に埋めたのは最近になってからだ。
ぴょんちゃんが好きだった山に。

やっと解放してあげられた。
今はどこにいるんだろう。
好きだったお菓子を食べながら、草原を走り回っているのかな。

とても賢くて、かわいくて、愛おしい黒いうさぎ。

今は自由に、元気に、空を跳びまわっていることを祈ってる。





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