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ボフミル・フラバル著『わたしは英国王に給仕した』

初版は1971年に共産主義国のチェコスロバキア(当時)で発行された小説。
日本では2010年に同タイトルで池澤夏樹「個人編集 世界文学全集Ⅲ-01」で刊行され、2019年に文庫化されている。

舞台は20世紀初頭頃のチェコで百万長者を目指してホテル給仕見習いとなったチェコ人の青年・ジーチェの数奇な人生が描かれている。

この時代を描いた映画や文学には必ずナチスの影響があり、多くの人達の人生が翻弄されるている。ヨーロッパにはそれくらい脅威を与えた存在だったと毎回思い知らされる。

冒頭ではホテル働く少年の目線で描かれる大人達の姿やお金を稼ぐ事、売春宿の事などが、皮肉を込めつつも夢や希望があって明るい雰囲気である。
ナチス占領下での成功から少しずつ重さのある空気感が伝わってくる。常にホテル時代の経験を口にしているものの、まるで別の作品の話のように思える。

長編作ではなく、一般的なボリュームの文庫本であるにも関わらず、人生の大半を覗き見た事で随分長い話のように思えた。
波瀾万丈の人生の出来事ではなく、人の心の移り変わる様子に時間の経過を感じたのだ。

タイトルから一見コミカルで面白い作品のように見えるが、実は一人の男の人生の変遷を現実的に描写した哀愁漂う作品だと言える。
チェコ文学には今までのヨーロッパ文学とは違う世界観、価値観に触れる事が出来て、とても興味深い。

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