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噛み砕こうとして分かりにくくなった

 「エモい」で片付けてしまえばいいのに、ちょっと横着な気がしてしまう。イヤホンのコードが絡まったままのような、ホルモンが噛み切れずに飲み込むような、懐かしさが含む複雑な感覚を3文字で片付けるみたいな。
面倒くさがらずに、もうちょっと咀嚼して「エモい」を言語化できるだろうか。まあワイヤレスイヤホンなんだけど。

 大学2年生で付き合った彼とは、タイミングだけが本当に合わなかった。私が彼を好きな時と、彼が私を好きな時が見事な逆位相だった。そうすると波長同士は打ち消し合ってアクティブノイズキャンセリングされた。境遇が似ていて共通の話題もコミュニティもたくさんあったのに、どちらかが好きな時はどちらかが冷めていた。こんな私たちのことを、アンジャッシュのコントに例えた友達もいた。"お揃いの境遇"はちょっと足りないくらいが良いのかもしれない。

 私から別れを告げてからも、お互いの友人がほぼ共通なために、仲間内の飲みの場にも、部活の卒業旅行にも2人とも参加していた。徹夜続きだった卒業制作からの解放と、学生を終えて簡単に会えなくなる寂しさを内包した卒業旅行は、何度腹を抱えたか分からないくらい、本当にお世辞抜きで楽しかった。
そしたら、思ってしまった。「もう一回付き合えたらいいな」これが良くなかった。

 彼と"お揃いの境遇"に「院進」が追加されて、1年と少し経った冬。就活を終えて久々に開かれた飲み会に、私も彼も参加していた。異なる研究室のために、会わなかった期間で積もった話題に花が咲く。ある程度、場があったまって「今だから言うけどさ」と友人が口を開く。
「思えば2人はめっちゃすれ違ってたよね」
「なんで別れちゃったの、仲良いのに」
「今はもう好きじゃないの?」
そんなに深く掘ったらだめだ。転圧されたはずの私の地盤は卒業旅行から緩んでいる。そして、過去を掻き回すだけ掻き回してから、友人は私たちを2人にさせて帰って行った。完璧なお膳立ての上でゴール前に立たされた私は、その後見事にシュートを外した。いや、ゴール前で立ち尽くしていた私に、見かねた友人がスパイクを貸してくれたのかもしれない。復縁って難しい。

 "お揃いの境遇"に「院卒」が加わろうとしている12月、2枚の写真が送られてきた。一緒に卒業旅行に行った友人が、2年越しに写ルンですを現像したらしい。なんの特別感も無い、旅館でくつろぐみんなの写真。その自然体すぎる表情から、撮られていることにさえ気づいていないかもしれない。料理が美味しかったこと、景色が綺麗だったこと、冬なのに花火を見たこと、帰るのが面倒で延泊したこと、車の中が楽しかったこと、自分から振ったくせに好きになってしまったこと、思い出したくないことまで一気に思い出した。たった2枚の写真に感じたエモさを言語化するのに1000文字もかかってしまった。エモみが深い。

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