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第7話「地下のクニの妖精」

<<宙の猫島(そらのねこじま)のストーリー>>
不眠症の月が羊と間違えて猫の数を数えているうちに本当に猫があらわれて、天空に猫の島を作ってしまいました。天空の猫島に住む7匹の猫たちはお月さまとおひさまに見守られながら、自然がいっぱいの不思議な島を舞台に、楽しいことや面白いことを探しながら毎日を過ごしています。今日も7匹の猫たちが何やら面白そうなことをはじめました……

<<配信について>>
「宙の猫島」は天空の島で暮らす7匹の猫の物語です。毎週金曜日に1枚の新作絵画をアップロードします。4枚の絵でひとつの物語になっています。4週目に作者・なかひらまい が書いた物語をアップロードします。絵と一緒に摩訶不思議な物語を楽しんでください。インスタグラムのフォローもよろしくお願いします。
●ストーリーのアーカイブ:https://note.com/7cats/n/n87b25b5bdd58
●インスタグラム:https://www.instagram.com/soranonekojima/

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絵と文:なかひらまい

なかひらまいプロフィール:作家・画家。ユング心理学研究会理事。多摩美術家協会会員。著作は『スプーの日記』シリーズ3部作(トランスビュー刊)。千年の間、口伝のみで伝わってきた紀国の女王伝説の謎を追ったノンフィクション『名草戸畔 古代紀国の女王伝説』、毎日新聞大阪本社版に連載された童話『貝がらの森』ほかをスタジオ・エム・オー・ジーより刊行。ハンドメイドの絵本「小さな絵本」や『宙の猫島(そらのねこじま)』などオリジナル作品を随時発表している。

「地下のクニの妖精」〜その1
「地下のクニの妖精」スマホ壁紙〜その1
「地下のクニの妖精」〜その2
「地下のクニの妖精」スマホ壁紙〜その2
「地下のクニの妖精」〜その3
「地下のクニの妖精」スマホ壁紙〜その3
「地下のクニの妖精」〜その4
「地下のクニの妖精」スマホ壁紙〜その4

 

第7話「地下のクニの妖精」

猫島にも寒い冬がやってきました。外は一面の雪景色です。
 今日は、新しい年が明ける日。猫たちは日がのぼる前から丘の上で焚火を起こして、マシュマロを焼きながら初日の出を待っていました。
「今日は1年のはじまりだ。お日さまにごあいさつしなきゃ」
「早くお日さまに会いたいね」
 猫たちは、お揃いの赤いマントを着てはしゃいでいます。
 するとミミが「あっ」と声をあげました。雪ですべってころんでしまったのです。そのひょうしにマシュマロを入れたボウルをひっくり返してしまいました。マシュマロは、コロコロ、コロコロと白い雪の上をころがっていきました。
「まてーっ!」
 モモがマシュマロを追いかけて丘を下っていきました。
「まてーっ!」
 ルルもリリも後に続きました。
 マシュマロは、コロコロところがって、丘の下の木の根元に開いた穴に落ちていきました。
「まってーっ!」
 モモも一緒に穴にころがり落ちてしまいました。
「モモ、ダメだ、止まれーっ!」
 リリが追いかけて木の根元にたどり着いたときには、モモは穴の奥深くに落ちていました。

 モモは、地上に開いた穴から伸びる細い階段をころがり落ちて、穴の底にたどり着きました。
 そこは地下深くにある妖精のクニでした。
 高い天井には、木の根っこが網目のようにおおっていて、土をささえていました。土の中には、いろいろな色の宝石がたくさん埋まって光り輝いていました。
 階段の下には丸い部屋がありました。大きな丸い石作りのテーブルの上で蝋燭の火が灯っていました。
 そこには赤い服を着て赤い帽子をかぶった妖精たちがたくさんいました。
 妖精たちはころがり落ちてきたマシュマロを食べていました。
「これを作ったのは、お前か?」
 妖精たちは、モモを取りかこんでいいました。
「こんなに、おいしいものを食べたことがない。もっとくれよ」
 妖精たちは、口々にそういいだして、やがて大さわぎになりました。
 モモはオロオロしながら、いいました。
「まだマシュマロはあるのでお持ちすることはできますが、そのためには家に帰らないと」
「そんなことをいって、逃げるつもりだろう。そうはさせない」
 妖精たちはいいました。
 階段の上の入り口から覗いていた6匹の猫たちは、広い地下の穴にこだまするその会話を聞いていました。 
 入り口の猫たちに気がついた妖精がいいました。
「この丸い食べ物を急いで持ってこい! それまで、この猫をつかまえておくからな」
 モモは怖くなって泣き出しました。
「この猫を、臭い木の部屋に閉じ込めておこう」
「そうしよう。あそこなら逃げられやしない」
 妖精たちは、そういうと、モモを引っ張って地下の奥深くの部屋に連れて行きました。妖精たちはモモを木と枯葉だらけの部屋に押し込むとドアを閉めてどこかに行ってしまいました。
 臭い木の部屋と聞いて、モモはしばらく鼻と口を手で押さえてじっとしていました。ところが木からなんともいえないいい香りが漂ってくるではありませんか。
「とても不思議な香り。なんだか気持ちよくなってきた」
 モモは枯れ草を整えてベッドを作ると、木を枕にしてすやすやと眠ってしまいました。
 この木は猫が好きなマタタビの木だったのです。

 6匹の猫たちは丘の上の家に向かって走り出しました。
「早くマシュマロを取りに行かなきゃ」
 キキがいいました。
「たくさん作ってあるから、だいじょうぶだよ」
 ココもいいました。
 玄関を開けて家に入り、キッチンにかけ込むと、床には小さな足跡がたくさん付いていました。窓は少し開いています。
 ロロが空っぽのボウルを見つけて、いいました。
「マシュマロがなくなっている。このボウルいっぱいに作ったのに」
 材料をぜんぶ使ってしまったので、これからマシュマロを作ることはできません。
「なんてことだ。モモに何かあったら、どうしよう」
 リリが泣き出しました。
 ルルが窓の外に目をやると、遠くをニッセが走って行くのが見えました。
 ニッセはクリスマスの妖精です。冬至のころから猫たちの家で過ごしていたのです。
 窓の外の木にとまっていた赤と青の2羽の鳥は一部始終を見ていました。そして何やらおしゃべりをはじめました。
「ニッセがマシュマロをぜんぶ食べて逃げたよ」
「地下の妖精が楽しみにしているのにね」
「あの妖精たちは、あまりかしこくないので、だいじょうぶ。マシュマロだろうがドーナツだろうが区別なんてつきはしないよ」
「とにかく丸い食べものを持っていけばいい」
「たくさん持って行くことが、かんじんだ」
「そうそう。そして必ず作り方を知りたがる」
「そのときは、タダで教えてはいけない」
「そうそう。必ず、宝物をくれたら教えるといえばいい」
 鳥たちは、大きな声で、のんきにおしゃべりをしていました。鳥たちのはなしは、窓のそばにいたルルに聞かれていました。
 ルルは鳥たちから聞いたことをみんなに伝えると、猫たちはキッチンに残った材料を使って、大急ぎでドーナツを作りはじめました。
 ドーナツは大きな鍋の中ですぐにふくらんで、ぷくぷく浮き上がりました。熱々の丸いドーナツにたっぷりのシナモンシュガーをまぶして、大きなカゴに入れると、猫たちは力を合わせてソリを引いて、妖精の穴まで運んでいきました。

「妖精さん、丸くておいしいものを持ってきましたよ」
 ルルが穴に向かっていいました。
「やったーっ!」
 穴から妖精たちの声が聞こえてきました。不思議なことに、小さかった穴が大きく開いてドーナツをどっさり入れたカゴがすんなりと通りました。カゴは長い階段をスルスルと降りていきました。6匹の猫たちもカゴについて階段を降りると地下の丸い部屋にたどり着きました。
 すると数えきれないぐらいの妖精たちがやってきて、みんなでカゴを持ち上げて、さらに奥の部屋へと運んでいきました。猫たちも妖精たちについていきました。
 その部屋の壁や天井には宮殿のように美しい金銀細工が飾り付けてありました。天井には大きな青い宝石がはめ込まれ、まるで空のように澄んだ光を放っています。部屋の隅にはたくさんの宝箱がところせましと置かれていました。
「地下のクニの妖精さん、どうぞ召し上がってください」
 妖精たちはいうが早いか、ドーナツを食べはじめました。
「たしかにこの味だ。おいしい!」
 マシュマロもドーナツも区別がつかないところは、鳥たちがいった通りでした。
 妖精たちの機嫌がよくなると、モモが妖精に連れられて宝石の部屋にやってきました。
「モモ、無事でよかった!」
 キキはいいました。
「不思議ないい香りの木の部屋に入れられて、ゆっくりしていたよ」
 モモは、マタタビの木のカケラを持ってきて、みんなに渡しました。
「妖精さんたちはこの木の臭いがきらいで、薪に使って燃やしていたの」
 妖精たちはすっかりドーナツを食べてしまうと、こういいました。
「このおいしいものの作り方を教えてくれよ」
 作り方を知りたがるというのも、鳥たちのいった通りでした。
 キキがいいました。
「さすが地下のクニの妖精さん、作り方が何よりかんじんです。ものは食べてしまったらなくなりますが、作り方がわかれば何度でも作ることができます。でも、そんなに大事なことを簡単に教えるわけにはいきません。宝物をいただけたら、お教えします」
 すると、他の妖精より一回り大きい妖精が出てきていいました。
「もちろんだとも。これを持っていきなさい。ただし、決して逆さにして中身を出さないように」
 大きな妖精は、キキに薄汚れた小さな巾着袋を渡しました。それは、とても宝物には見えないものでした。大きな妖精は中に何が入っているのか教えてくれませんでした。
 キキは、みんなで作った特製ドーナツの作り方を書いた本を、大きな妖精に渡しました。
 すると、妖精たちは、大よろこびで輪になって踊り出しました。
「これで毎日、おいしい丸いものを食べることができる!」
 猫たちは、妖精たちがとてもよろこんでいるのを見て胸をなでおろしました。
「妖精さん、宝物をありがとう。それでは、わたしたちは丘の上の家に帰ります」
 キキがそういうと、妖精たちは7匹を穴の入り口まで送ってくれました。
 お別れをいって地上に出て振り向くと、木の根元に開いていたはずの穴が消えてなくなっていました。
 あたりは、日が暮れかけて、オレンジ色のお日さまが下っていくのが見えていました。

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