たいらと【ショートショート】

「先にお飲み物お伺いしましょうか？」

「さ、先に？　お飲み物？　どうしたいつもの側女は」
「といっても、お茶しか無いんですけどね」
「んっ、冷たくて旨いな。どうしたんじゃ？これ」
「ふふふ、秘密です」

女は赤い唇で笑った。

「まぁよい。今度こそ源氏の阿呆共め、目にもの見せてくれるわ」

「まぁ勇ましいこと。ささ、どうぞもう一杯」
「これはかたじけない。おや？　この茶は一杯目と違って温かいな？」
「三拝目はアツアツのお茶、いっきますよ〜」
「それ、別の武将の逸話ではないのか？」
「相国様こそ、そのツッコミは時代考証的にどうかと」

「それに・・・」
「それに？」
「私を武将に取り立てなくてはいけなくなってしまいますよ？」
「それは困るな！わっはっは」

「まぁ、『石田村のおみつなり！』と名乗りを上げれば、近郷では泣く子も逃げる乱暴者として有名ですが」
「ひどい自己紹介だなっ！っていうか、お主の方が石田かい！」

「では、次でラストオーダーとなります」
「ら、らす？」
「最後のご注文を承るということです」
「全然わからんが・・・まぁよい。して、何が所望できるのじゃ？」
「干し飯と・・・かれいですね」
「鰈かれい？　それは珍しいな」
「干し飯と糒（枯れ飯かれい）ですね」
「それ、どっちも同じもんじゃよね？！」

「そうとも言いますね。でも、どちらもレンサ球菌がたっぷりふりかけてありますよ」
「れんさきゅーきん？　聞かぬ名じゃが、妙に腹が減ってかなわん」

女は、見たこともないような赤い唇で妖艶に笑うと、言った。

「ご注文はいかがなさいますか？」

[709文字]

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#たいらとショートショート
参加作品です。
「先にお飲み物お伺いしましょうか？」で始まり
「ご注文はいかがなさいますか？」で終わるのがレギュレーションです。

イラストは
パブリックドメインQ：著作権フリー画像素材集
様より。
クレジットは必須では無いということですが、予想以上にインパクトがあって素敵だったので感謝を込めて。
リンクを直接書かないのはネタバレになってしまうからです。
さして問題ないような気もしますが、一応。