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【ボクの細道】#39「ボクが知らない母国の料理」

また小さなウソをついてしまった。だけど世界は小さなウソの積み重ねでできている。

スプリット

スプリットへ着いた。クロアチア第2の都市で、アドリア海に面した港町だ。青い海、照りつける日差し、潮の匂い、ここも南ヨーロッパ有数の避暑地であり、観光地なのだろう。一週間前までは夜には気温が零下になるからと着込んでいたとは思えないぐらい、Tシャツ一枚で快適に過ごせる気候が広がっていた。

といっても一人旅を続けていて、一人でビーチでカクテルでも飲みながらという元気もなければお金もない。海に誘う勇気も車もないけど、とかいうレベルではなく、もっとエッセンシャルなものが足りていない。こうなると石川啄木のようにじっと手でも見てるか、長距離バスのガラスに映った自分のブサイクな顔でも見るしかない。

20年以上連れ添った自分の顔も、それ以外見るものがないとイライラしてくる。特に河童みたいな中途半端に伸びた髪がまた気持ち悪くて気持ち悪くてしょうがなくて、ドイツに戻ったらパーマかけたいとのばしていた髪も切り刻みたくなってきた。

ホステルに行く途中の道で、地元民が使っていそうな理髪店を見つけて、全然言語が通じやしないけど髪を切るというアイデアが浮かんだ。ホステルに荷物を置いてから、整髪店という整髪店に片っ端から聞いて回る。
ところがなんだか少し洒落た街であるばっかりに、デザイナーズカットみたいな店ばかりで、飛び入りで切ってくれるか聞くと、予約がないとダメだというのを数店舗繰り返して、次ダメだったら諦めてビーチでくつろごうと決めた。というかスポーツウェアのボクがそんなところに行っちゃあかんでしょう。

ところが、最後の最後に見た一軒が打って変わって、なんだか古臭い調布の都営住宅の真ん中にでもありそうな床屋を見つけた。そこにはどう考えても予約の一件もなさそうな雰囲気で、ボサッボサの金髪に咥えタバコの魔女のような婆さんがいた。婆さんは髪を切ってくれというと快諾してくれて、というかまぁ客がボクしかいない感じだったので切らざるを得ないという感じで切ってくれた。

まぁテキトーに切ってくれオーダーすると、いかにもテキトーな切り方をし始めたのだが、切ってる途中だろうと携帯に着信が来るとそっちへ行ってしまうテキトーさが、心をくすぐられた。着信がしかも結構なペースで来るんだけど、そのたびに着信音がゴッドファーザーのテーマなもんだから、ゴッドファーザーからの着信は優先順位先だわさな、となる。

結局、切り終わった後北の将軍のような黒電話ヘアーになったボクは、ご満悦でポークボウルを食べに行った。ポークボウルというのはハワイ発祥だかなんだかの海鮮丼みたいな料理で、アジアといえばこれでしょみたいな雰囲気でヨーロッパ各地で売られている。いや、日本で見たことなんかないけど。なんやねんポークボウルって。

でも、どうしてもポークボウルを初めて食べてみたくなって、ポークボウル屋でサーモン載せとかというのを食べた。ポークカツ載せというのもあって、まぁ実質カツ丼だなと理解した。

というのも、サラエボでバス停で知り合って一緒にホステル街まで歩いたフランス人に、普段日本で何食っているんだと聞かれて、スシとかテンプラとか言ったらウソになっちゃうから、かといって普段食ってるもの説明するのも面倒で、伝わりやすいようにポークボウルというウソをついた。まぁ、飯の上にオカズのっけて食ってるからウソと言えばウソだし、ウソじゃないと言えばウソじゃない。

どうしてまたこういう細かいウソをついてしまうのか、とも思ったけど、ゴッドファーザーの知り合いに髪を切ってもらった北の将軍が国際的な場でひとつやふたつウソをついてもいいよね、なんて言い訳してみたりした。にしてもうまかったな、久々の生魚。

そういえば、ロッテルダムのホステルであったイタリア人も、「海外のイタリア料理なんて全然イタリア料理じゃねぇぜ」、と笑っていた。ボクたちが食べてる宅配ピザなんて所詮エセイタリア料理でしかないのかもしれないけど、「今日はイタリアンでランチしようか」とか言い続けるのだと思う。それともスシ・バーにでも行こうかな。

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