ポテトサラダにリンゴは「非常識」?


――ご飯には果物入りのおかずは合わないと言われるが、洋食では広く使われる組み合わせである。甘味と酸味が調味料代わりになり、更に肉類と合わせると消化を助ける働きも期待できる。――

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「でもポテトサラダに何でもかんでも入れるのはダメだわ」

 彼女は運ばれてきた海鮮ポテトサラダを一口食べて、思わず感想を口にした。居酒屋のポテトサラダが好き、イカも好き、タコも好き、とびこのプチプチとした食感も好き。でも、全部合わさったものを口にした瞬間、彼女のテンションがウォータースライダーを滑り降りるがごとく落ちた。期待して頼んだだけに、落差は大きい。しばらく咀嚼してたが、噛めば嚙むほどなんか違う。混ざりすぎて逆に何が入ってるのかわからななくなってる気がする。

「悪いわけじゃないんだけどさぁ」

 ふと、子供の頃にミカン入りポテトサラダとかリンゴのマヨネーズサラダを出されたり、ホテルのバイキングで赤いソースがかかったローストビーフを食べたらそれが苺ソースだったり、かぼちゃサラダにレーズンが入ってたりしたのを思い出した。家で文句を言ったら父に殴られから、それ以来家でも外でも我慢して食べていた記憶しかない。でも、好みじゃない物のことを思い出すと、急に目の前のポテトサラダが美味しいものに感じてきた。事実、味は悪くない。もしかしたら、ビールと合わせたら美味しいかもしれない。

「すいませーん、ビール一つください」

 ビールを待つ間、卵焼きを突きながらりんご入りポテトサラダについて検索してみた。1950年から1990年代によく作られ、北海道や京都で人気だったらしい。上司が飲み会の時に「お袋のポテトサラダって書いてるのにリンゴ入ってねぇのか! ポテトサラダといえばリンゴだろ? なぁ!」と喚いてたことを思い出す。彼女と同期達全員愛想笑いで乗り切ったが、リンゴ入が余計に苦手になった一件だった。その後の同期飲みで「ありえない」「非常識だろ」の大合唱だったが、リンゴ入りポテトサラダの話か上司の話かよく覚えていない。

「おまたせしました、ビールです」
「ありがとうございます」

 冷えてるビールをぐいっと一気に流し込むと、炭酸のと苦味の刺激が気分を上げてくれる。彼女にとってこれは美味しい飲み物なのは常識だが、これが苦手だったり嫌いな人も増えてるということが頭の中でチラついた。私の常識は誰かの非常識……という言葉がよぎったところで、冷えきった喉の奥に火が付いた。

「別に常識か非常識かはその人の価値基準だからいいんだけど、押し付けられるのはホント勘弁。今日だってエクセルの計算が合ってるか電卓でしっかり確認しろとか言い出すし、なんでって理由聞いたら常識だからだとしか言わないし、かと言って今の常識はこうですよなんて言おうもんならキレて暴れ出すし。私だってカレーはご飯とルーグチャグチャに混ぜるのとかラーメンの残ったスープにご飯入れるのとか家ではやるけど外では非常識だって思うからやらないし、そういう場をわきまえるのもうちょっとわかってくれるといいんだけどなぁ。あ、でも、家系ラーメンはご飯入れるの推奨なんだっけ? なんか小林君がこの前話してたような……。雑炊にするって確か言ってたけど、言い方変えればいいってもんじゃないと思わないわけでもないなぁ。授かり婚みたいに。てか上司のやつ今日も『結婚する予定無いならバリバリ働けるな!』とかでかい声で言ってたし、ほんと非常識ってもんじゃないわ。そりゃ出会いも恋人も何もないけど、だからといってそう言われると腹が立つ。なんであんなパワハラ野郎に奥さんがいるのかほんとに謎。昔は結婚が当たり前だったっていうけど限度があるってもんでしょ。まぁそんな中で結婚できなかった人が本当にやばい人ってのもわかるけどさ。でもそんなのは昔の価値観! 私は私らしく生きるのだ! 今日も一人酒がうまい!」

そのままの勢いで残りのビールを胃袋に流し込み、もう一杯注文する。なんだかんだと上司達の愚痴を吐き出してる彼女が、胃の中の物も吐き出すのは三十分後のお話……。

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