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【実話】婚活♥︎霊感道場

30代もそろそろ終盤という頃、半年間だけ婚活に集中した期間があった。

仕事運が壮絶に悪く、熱中症重症で3度死にかけ、三途の川から帰還して霊能力が強化されたり、立て続けにパワハラや労働契約の相違などによる労働争議が4回も続いたりしていた時期だ(全部私が勝ったが)。
「私は仕事をしてはいけない人間なのだ。天が、そう云っているのだ。このままでは早死にするのだ。専業主婦になって隠居したほうが世のため、自分のためだ」と絶望し、再婚のために婚活を始めた。

これは、婚活を始めたものの、思いもがけずテレパシー能力が爆発的に開花し、婚活イベントが霊感道場になってしまったエピソードである。


当時、金欠だった私は、結婚相談所に登録するのはハードルが高いので、まずはインターネットで参加申し込みができる婚活パーティーに参加してみることにした。女性は3000円くらいで参加できるので、どんな結果になろうとも、ダメージは少ない。

初めて参加した婚活パーティーは、都会のど真ん中のビルの一角で開催された。35歳~45歳の年齢層のパーティーで、平日昼間という時間帯のためか、参加者は男性4人、女性4人と少なかった。

男性が一人ずつ椅子に移動してきて会話をする"回転寿司型"と呼ばれる形式のパーティーだった。
まずはお互い、"プロフィールカード"という、職業、年収、趣味やPRメッセージを書いた紙を交換する。
会話時間は、1人につき5分前後となっている。スタッフがタイマーを持ち「よーい、ドン!」という感じでスタートし、この短い時間を有効活用しなくてはいけない。座って話すだけなのに、運動会のような緊張感と疾走感がある。

多趣味な私は、プロフィールカードに無難な趣味だけ書いた。決して「霊感あり」などは書かない。もしかすると「霊感あり」と書いた方が、意気投合出来るレアな人とマッチング出来るかもしれない?(実際、一人だけ"お寺で座禅をする"のが趣味な人がいた)
・・・いやいや、いやいや、ダメだ。
9割はドン引きされる。
やはり霊感のことには、触れないのが正解だ。やったぜ、自分。ちゃんとパンピー(一般ピープル)になれてる。間違いを起こさなくて、偉いぞ!
頭の中は、こんな風に大混乱していた。

私は、イベントの仕事もやっていたので、初対面の人とも、それほど緊張せずに話せる。

最初のお相手は、体育会系の男性で、保育園に通う3歳と5歳の子を持つシングルファザーだった。
私は「婚活パーティーは初めてなので、お試し感覚で参加してみた」と言ったところ、予想の上をいく激しさで怒られた。男性は「こっちは本気で来てるんだ!」と必死な形相だ。スタートから大失敗だ!と、ショックを受けるより先に、私の眼前に、突如、不可思議な現象が立ち現れた!
彼の頭の周りに、黒いゆらゆらした何かが踊り始めたのだ。

文字だ!
MS P ゴシックやメイリオ体ではない、HG行書体に近いフォントの文字で、本音の愚痴がぐちぐち、ゆらゆらと揺れている。
霊感が強い友達が多い私は、前に聞いたことがあった。
『思考が文字で見えるパターンがある』ことを。
楳図かずおや、伊藤潤二の漫画みたいだ。
私は、湧いては消える、ゆらゆらする文字を見ながら、平然としつつ空返事を返しながら、地獄の5分をやりすごした。
自分の平常心の凄さに感心した。
初めて見たけど、それっぽい書式設定がされてるんだ・・・、心の声って。

と、圧倒されている余裕すらなかった!
「座談運動会」さながらの回転寿司型パーティーに、呆然としている時間はないのだ!
心の整理をする前に、次の男性が来た!

次の男性のプロフィールカードの趣味欄には「車の車種」と「ドライブ」と書かれていた。典型的な車を自慢するタイプだ。
この男は、はなから私はタイプではないらしく、社交辞令的な会話を交わしただけなのに、早くも全力でブチ切れてきた。特に怒らせるようなことをしてもいないのに不機嫌になるとは、面倒な男だ。煽り運転しそうな奴だな。

次の瞬間、彼の"本音"と"建前"が同時通訳のように聞こえ始めた。
『二重音声タイプ』か!
口を動かしながら、腹話術をしているかのようだ。腹話術師いっこく堂さんの「あれ・・・声が・・・遅れて・・・・聞こえて・・・くるよ」の技を見ているようだ。正確に聞き取るには、聖徳太子の技がいるが、まあ、愚痴なんぞは聞く価値もないので、適当に聞き流した。
しかし、この男性の腹話術は毒が強すぎる。
車のことしか書いてないので、こちらは「この車は、かっこいいですね」しか会話出来んのに「お前なんか乗せるもんか、××、️️、△△」壮絶な罵詈雑言の羅列!建前が抑えられなくて、本音のほうが口から出てしまっているのかもしれない。心の泥の渦が激しく噴出し、二重音声を具現化しているのか。もしや、彼の車・運転以外の特技、いっこく堂的な技を披露してみたのか?
建前のしゃべりは投げやり、本音の罵詈雑言の情動が激しすぎ、もうどちらが実態のある音声なのか心の声なのか、皆目わからない。
「う〜ん、どっちが本音か建前かわからんけど、どっちでもいいや!陰湿、怖い!さよなら!」心の中で叫ぶ私。
凄まじいマイナスエネルギーを短時間に一気に浴びてしまったので、くらっと目眩がした。
次の男性が来る前に、肩を小さくサッと払って、邪気落としをしなくてはいけなかった。

次の男性は『映像タイプ』だった。
ニコニコしていて、会話をすると明るくて、声も優しい感じなのだが、次の瞬間、"夜の歌舞伎町"の映像が、私の眼前に強烈な勢いで展開された。
画面の大きさと解像度は、11インチのipad プロくらい。フルカラーで鮮明な映像だ。
これは、霊感が強い私の旧友から聞いていた、オーソドックスな『映像系』の見え方だな。
どんだけ歌舞伎町が好きなんだ?もう歌舞伎町と結婚した方がいいんじゃないかくらいの、情熱と愛の波動のセットでくる。
男性は「俺もバツイチでさ」と話すのだが「離婚できていない。風俗で遊びすぎて、借金がかさみ、嫁に呆れられている」
という情報も、ヒシヒシと映像で伝わってきた。
邪気が伝わってこない分だけ良かったが、これも結構な衝撃の強さだった。


なんてハードな婚活なんだ。
皆、こんな婚活をこなしているのか?
婚活とは、こんなにくたびれるものなのか?

いや、これは普通の婚活ではない!
「これは、霊感道場だ!!!」


最後のお相手は、谷原章介さん似のクセのないイケメンだった。
この人から感じるものは「無」だけだった。
それまで受け身でいた私も、ここまで"無"しか感じられないと、こちらからリーディングしてみようと積極的になったが、本気モードで集中しても、全くの「無」しか感じられない。
この人は話術もルックスも出来すぎていたので、これが巷で存在が囁かれている『婚活のサクラの人』なんだろうなと思った。


テレパシー内容の真偽は定かではないが、どれもこれも、あまりにも鮮明だったことに驚いた。

しかし、今日の自分はどうしちまったんだ?
こんなの初めてだ。

帰りがけ、カップリングが成立しなかった女性陣とおしゃべりしたのが楽しくて、ショックな記憶が和らいだのは救いだった。
結局、ビルの出入り口にいた"カッコ良すぎる警備服"を着たイケおじが、一番タイプだった。この人とご縁があれば、良かったのになあ。

この後は、どんな婚活イベントや趣味の集まりに参加しても、一度もテレパシー覚醒は起こらなかった。


このような不可解な出来事に見舞われても、私はめげずに婚活イベントに申し込んだ。一刻も早く再婚しないと、波瀾万丈な運命に殺される気がしていたから、前回より気合を入れた。

2度目の婚活は、別の会社が主催する1対1の半個室形式のパーティーだった。
ここで会った人は、無難な感じの人ばかりで、強烈な情動を受けてテレパシー能力が刺激されるようなことはなかった。

しかし、受付の女性スタッフの態度が悪く、やる気が全く無さそうなうえ、舌打ちするなど、たいそう感じが悪いので「何なんだろう?」と思って、部屋を霊視してみたら、部屋の四隅に鼠のような動物霊の溜まり場が出来ていた。うじゃうじゃいる。
こんなところにいたら、腐った態度をとるようになるのも無理はない。
人々の情念の強い場なのだから、風水的なコントロールや、場の浄化措置を取ればいいのだが、そんなことがわかる能力者がいないので、ほったらかしになってしまうのは仕方がないのだろう。スタッフの健康状態が心配になるレベルだ。

ネズミの巣窟さながらの、動物霊の溜まり場を視てしまったので、もう室内イベントの婚活には参加しないことにした。
私の場合、生きている男性より先に、浮遊霊とマッチングしてしまいそうだ。


最後に参加したのは、アウトドア交流会形式の婚活イベントだった。
これが、一番健康的な印象だった。
参加者は20人くらいいて、初夏の渓谷を散策した。

結局出会いはなかったが、久々に遠足の気分を味わえたし、意気投合しているカップリング成立した方々を見て、ほんわかした気分になれた。


婚活イベントには3回参加したが、想定外の霊感トレーニングにしかならなかったため、再婚活は諦めた。ハードな霊感修行のほうに、危機感を感じたからだ。

それに、婚活イベントが霊感を鍛える場になってしまった私と、普通に付き合える人なんていないことは、よーーーく、わかった。
早晩、私の運命の圧に、相手が押し潰されることになるだろう。

・・・出会いは結局、無くて良かったのだ。

なぜなら、その数年後の2020年から、私の身の回りで、本格的な怪現象が始まるのだから。


不運な人を助けるための活動をしています。フィールドワークで現地を訪ね、取材して記事にします。クオリティの高い記事を提供出来るように心がけています。