逆ソクラテス

『逆ソクラテス』伊坂幸太郎/著
子どもが主人公の短編集。伊坂幸太郎作品。

表題作「逆ソクラテス」は先入観がテーマということで期待大で読んだけれど、期待を裏切らない鮮やかさだった。”教師期待効果”も絡めて、期待される人とされない人の成長を説き、先入観と闘う子どもたちが輝いていた。
「逆ソクラテス」で好きだった言葉はここ。

顔を洗って、ちゃんと自分の目で見てみろ。大人たちの先入観に負けなかったぞ、(p.61)

冒頭の野球のシーンの伏線も綺麗に回収されてすっきり終わって面白かった。逆ソクラテス。自分が完全でないということを知らない、無知の知の反対。

次の「スロウではない」は運動会のリレーという小学生らしい風景に、人間性を考えさせられるテーマが入っていてすごいなあと思った。いじめは悪い、けれど変わりたいと思っている人間もいるだろう。磯憲先生が願う幸せ。
相棒でも、犯罪を犯した人が罪を償って生まれ変わろうと決意して新しい人生を歩もうとしても、それを拒む社会や人があってなかなか難しい現実があるのだけれど、小学生の世界でそれを描いているなんて。
「スロウではない」で好きな言葉はここ。

いくら今つらくても、未来で笑っている自分がいるなら、心強いだろうな、と思いました。(p.91)

いい占いだよね。辛い時、この言葉を思い出したい。

「非オプティマス」は子どもたちが動きまわるけれどどちらかというと久保先生にフォーカス多めに当たってる感じがした。
人に教えるって難しいだろうな、それが道徳的なものならなおさら。久保先生が恐ろしいことをしてしまった未来にならなくてよかった。
「非オプティマス」で好きなところは、

相手によって態度を変えることほど、恰好悪いことはない。
最初の印象とか、イメージで決めつけていると痛い目に遭う。だから、どんな相手だろうと、親切に、丁寧に接している人が一番いいんだよ。じゃないと、相手が自分の思っているような人でないと分かった時、困るし気まずくなる。(p.163)

これも、「逆ソクラテス」と同じように先入観を持たず決めつけないことを説いている。逆ソクラテスとは違っても変化球のように刺さる。

バスケ部の話って珍しいし、タイトルが「アンスポーツマンライク」って痺れる。どんな内容だろう?とワクワクするタイトル。
バスケの5人のメンバーはキャラ立てしやすいのか、それぞれイメージして動き出せるくらいいいバランスの5人だ。一歩踏み出せない歩くん…。歩くんみたいな経験を私もたくさんしたから共感できた。

だけどもし、試合中、次のプレイで試合の流れが変わると信じたら、その時はやってみろ。それはギャンブルじゃなくて、チャレンジだ。試合は俺や親のためじゃなくて、おまえたちのものだ。自分の人生でチャレンジするのは自分の権利だよ。(p.176)

このセリフもかっこよくて痺れるし、背筋がピンと伸びる気がする。こういうことを言える人になりたい。あんまりチャレンジしてこなかった人生、自分を奮い立たせる言葉になるだろうな。

最後の「逆ワシントン」はセリフというより終わり方がよかった。どこかで誰かと誰かが繋がっている。タイトルも「逆〜」で最初の短編と対比的にさせてるのも面白い。

先入観に負けないで生きていこう。

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