砂漠

『砂漠』伊坂幸太郎/著
麻雀にちなんだ名前の不思議な大学生5人の学生生活を描く。大学生活への期待が滲んでる1回生の春、海へ行った2回生の夏、3回生は秋の学祭、4回生の冬でラスト。

章立てされてるけど、よく見かける章ごと特定の人物に焦点を当てて最後に伏線を回収するみたいな感じではなくて、あくまで僕、北村の目線で鳥瞰的にストーリーが進んでいくのが今の自分に心地よくてよかった。でも登場人物は誰もキャラが立っていて、メインだけでなく脇もがっちり固められていて、よりリアルな学生生活っぽさが感じられた。舞台は宮城で自分が学生時代を過ごした地ではなかったけれど何故かその土地を重ね合わせて読んでしまった。

読み始めたらどんどん引き込まれて一気に読み進めてしまった。読み終わったときもスカッとしたような穏やかなような不思議な気持ちだった。だけどゆっくり反芻してみると色とりどりのカラフルな学生時代の中で主題がしっかり置かれていて静かに感銘を受けていたのかもしれないな、とも思った。4年間の中でみんなに変化があって成長していったというのが描かれていたのも晴れやかな気持ちになった要因かもしれない。
北村は地上に近づいた。南は陽だまりの雰囲気はそのままに芯のある明るさが眩しい。西嶋は根っこは変わってなさそうだけど東堂と付き合いだした。東堂は一途に思い続けて、途中迷走したけど最後は結ばれた。
中でも鳥井はすごい。学生の時に会っていたら自分も友達になってみたかったかも。腕を失った絶望から復活する強さだけにとどまらない。面白半分で首を突っ込んだ自業自得だと自分の非を認めて長谷川さんを許した。強くなるために、大事な人を守るためにキックボクシングで鍛えた。

とは言うもののホストとの賭けボーリングの窮地を救う一声は東堂があげたし、どん底から引っ張りあげる麻雀は西嶋のアイデアだし、同棲してずっと支えてきたのは南だし、空き巣犯に侮辱されて憤ったのは北村だし、仲間がいてくれたから鳥井の今があるんだよなあ。大学生の友情物語と括ってしまうにはもったいないくらい濃い話だなあ。
莞爾や長谷川さん、古賀氏を惹きつける魅力が5人にはあるんだよね。そして古賀氏何者。

僕たちがその気になれば、砂漠に雪を降らせることもできる、のか。
堅牢な壁に囲まれた、居心地の良い学生という世界から塀の外の砂漠に出ていく覚悟。

南の超能力というSF的な設定があるのにリアルな学生生活を感じられて、それでいて事件と絡んでいって最後には超能力で解決!ってなってるのに腑に落ちちゃうというかまさに作者の腕だなあと思った。

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